怪物・キム・デハン、台湾の大谷翔平・李晨薰など宮崎で躍動したアジアの逸材たち
韓国が優勝した今回のアジア大会。日本選手の活躍はこれまでずっと報じてきたので、今回は他国の逸材を紹介しようと思う。未来のKBO(韓国プロ野球)、CPBL(台湾プロ野球)のスター候補、WBC、プレミア12などのトップチームでみられるかもしれないとして今から覚えておきたい。
KBOドラフト指名多数の韓国は逸材ぞろい
キムデハン
優勝した韓国は今年も逸材が多かった。その中でもトップクラスの実力を示したのが、キム・デハン(186センチ85キロ・右投げ右打ち)だ。今大会では出場選手トップとなる3本塁打を記録。まずスリランカ戦で、スライダーに泳ぎながらレフトスタンドへ。2本目は吉田輝星(金足農)から初球のスライダーをレフトスタンドへ3ラン。3本目は150キロのストレートをライトスタンドへ。
150キロのストレートを逆方向へ運ぶ18歳はアメリカの選手でも見たことがない。世界トップレベルの逸材だと実感した。
構えてから少しだけステップし、ほとんど反動を利用せずとらえるキム・デハンの打撃技術は、高校生レベルとは思えなかった。3本目の本塁打を打つ前、滑り止めスプレーをかけながら、気持ちを落ち着かせて本塁打にしていたのが印象的だった。これを見て、自分のペースで打席に立てるプロ向きのメンタリティを持った選手だと感じた。また外野守備を見ても守備範囲が広く、マウンドに立てば最速154キロを投げる強肩も魅力。MVPを逃したが、高校野球ドットコム基準からすれば今大会のMVPはキム・デハンである。キム・デハンは斗山へ進む。即戦力として活躍ができるのか、今後も見逃せない選手だ。
ソ・ジュノン
投手陣では、最速152キロを計測したソ・ジュノン。体を沈み込ませて投げ込む速球は伸びがあり、日本の野球ファンではヤクルトの抑えで活躍したイム・チャンヨンを思い出すという声が多かった。韓国は伝統的に右サイドの速球派が多いが、ここ数年の右サイドでは一番の投手だ。ロッテ・ジャイアンツに指名されたソ・ジュノンはいずれトップチームで出てくる投手となれるか。
また、145キロ前後の速球、キレのあるスライダー、フォークを投げ込み、日本戦でも好リリーフを見せたウォン・ティン(右投げ左打ち・184センチ92キロ)は数年たてば150キロ連発が期待できそうな剛腕。卒業後はサムソン・ライオンズに進む。
左腕・キム・ギフン(左投げ左打ち・183センチ88キロ)も好左腕で、恵まれた体格から振り下ろす常時140キロ前後の速球、キレのあるスライダーを投げ分け、日本打線を苦しめ、そして今大会の胴上げ投手となった。また決勝戦では3番としてスタメンするなど打撃力も高いキム・ギフンはKIAに進む。
今大会、MVPを獲得したキム・チャンピョン(右投げ左打ち・182センチ78キロ)はポジショニングのうまさが光る遊撃手。スピード、スローイングの強さは日本の高校生と比較しても平均レベルだが、打球の動きを読むうまさがある。11打点を記録したように、無駄のないスイング軌道から広角に鋭い打球を生み出す。卒業後はSKワイバーンズに進む。また、キム・チャンピョンと二遊間を組んだユン・スンミン(右投げ左打ち・174センチ68キロ)も日本戦で吉田輝星から必死の粘りでつなぎ、四球で出塁。その後、3ランにつなげたが、キム・ソンヨン監督から「日本戦のMVP」と絶賛された二塁手だ。
また大会首位打者を獲得したロ・シファン(187センチ90キロ・右投げ右打ち)はパワフルなスイングから繰り出す打球が強烈。三塁守備は前の動きに弱さを感じるが、球際に強く、肩も強い。うまくいけば、引退を決めた村田修一のような育ち方をすれば面白いと感じた。卒業後はハンファ・イーグルスに進む。
投手登録ながらスリランカ戦で本塁打を記録し、その後も中国、チャイニーズタイペイ戦で活躍を見せたキム・ヒョンス(185センチ85キロ・右投げ右打ち)も面白い選手だった。これほどの体格をしながら、右方向へ打ち分けるうまさを持つ。卒業後はロッテに進む。
また2年生ではアン・インサン(183センチ93キロ・右投げ右打ち)が面白かった。マウンドに登れば、常時145キロ前後の速球を強気にインサイドに投げ込み、スライダーの切れもよい。打者としてもパワフルなスイングから強烈な打球を飛ばす。コンタクト能力に欠けるが、来年の世界大会の主力選手候補として覚えておきたい。
[page_break:台湾は2,3年生に逸材ぞろい]台湾は2,3年生に逸材ぞろい
李晨薰
準優勝したチャイニーズタイペイは3年生だけではなく、2年生にも楽しみな選手が多かった。その筆頭が李晨薰(193センチ84キロ・右投げ右打ち)だろう。「台湾の大谷翔平」と評されるように日本のマスコミからも関心が高い逸材。これまでレポートで何度も述べてきたが、タイプ的には日本ハムの若き速球派リリーフ・石川直也を彷彿させる速球派右腕だった。決勝の韓国戦で先発した李は4回途中でマウンドを降りたが、角度ある150キロ前後のストレートは脅威。縦横の120キロ後半の変化球の精度も悪くない。まだ素材感が強いが、さらに球速が速くなり、変化球の精度も高まれば、簡単には打てない投手となるだろう。
同学年の陳柏毓(187センチ87キロ・右投げ右打ち)はエース格として期待された古林睿煬の故障により入れ替わりで代表入りした投手。インドネシア戦で最速148キロを計測。伸び上がる速球は見事だった。
3年生にも逸材が多かった。まず日本戦で1失点完投勝利を挙げ、見事にベストナインを受賞した王彥程(180センチ79キロ・左投げ左打ち)は小気味いいフォームから繰り出す常時140キロ前半の速球、スライダーを売りにする好左腕。制球力が課題と見られていたが、日本戦ではそれが見られなかった。完投勝利で自信をつけた王は次のステージに進み、台湾球界を代表する左腕へ成長を遂げるか。
また、左のエース格として期待された張景淯(191センチ90キロ・左投げ左打ち)は常時130キロ後半の速球は手元で動き、120キロ後半のスライダー、チェンジアップを駆使する技巧派だった。シアトルマリナーズとマイナー契約を結んでいる張は今回の経験を飛躍につなげることができるか。
二刀流として活躍した林逸達(185センチ95キロ・右投げ右打ち)は打者としては押し込みの強さで勝負する強打者。詰まった当たりでのヒットがほとんどだったが粘り強さがあった。
ほとんど詰った打球ばかりで、コンタクト能力に課題を抱える打撃を見ると、やはり投手としてのほうが筋がある。右オーバーから常時140キロ中盤の速球、スライダーを駆使する投手で、走者を背負ってからも粘り強さがあった。次のステージでは投手として磨きをかけていきたい。
戴培峰
野手では富邦ガーディアンズからドラフト1位指名された戴培峰(178センチ83キロ・右投げ左打ち)が一番の選手だった。7番打者なのだが、打撃技術が高く、本塁打を打ち込むパワーがある。捕手としてもスローイングが安定しており、タイムは2.00秒~2.10秒前後だが、ほぼストライクで刺すことができる。リードセンスも高く、チャイニーズタイペイの守りの要だった。ベストナインの捕手部門を受賞したが、今大会、彼以上の捕手は見当たらなかったので、当然の選出だといえる。
CPBLから指名された野手といえば、1番江坤宇(174センチ70キロ・右投げ右打ち)だろう。江は今年の台湾プロ野球の中信ブラザーズから3位指名を受けた遊撃手。右投手、左投手関係なく対応ができる打撃技術は素晴らしく、一番の持ち味は遊撃守備。三遊間の深い位置からダイレクトスローで刺せる強肩は素晴らしい。また、韓国戦ではセンターへ抜けそうな打球をシングルハンドで捕球し、その後、体を一回転させてアウトにしたプレーは小園海斗、根尾昂でもできないプレーだった。近い将来、トップチームで再会してもおかしくない選手だった。
[page_break:中国にも楽しみな選手たちが!]中国にも楽しみな選手たちが!
伊健
4位だった中国。3位決定戦で大敗したが、進歩が見えた大会だった。エース左腕・桑洋は130キロ前後の速球はカット気味で打たせてとる投球に適したストレート、スライダー、カーブ、チェンジアップを低めに集めてピッチングを展開す技巧派。いずれはトップチームの主力投手になりうる可能性を持った投手だ。また、139キロを計測した伊健も楽しみな右の本格派。角度ある速球は見ごたえがあり、近い将来、145キロ前後を出していてもおかしくない。中国のトップチーム入りすることを期待したい。
遊撃手・張文韜は安定した守備が持ち味。バウンドに合わせるのがうまく、彼の元に打球が転がればもう安心というぐらいの守備力があり、日本戦でも好守備を見せた。打撃でも日本戦の第1打席でレフト方向へ安打を記録。バットコントロールもよいものがあった。
4番寇永康は速球に強く、日本戦では板川佳矢の速球を見逃さず、左中間へはじき返した打撃は驚かされた。一塁守備も安定していて、楽しみな左打者だ。
中国は内野守備がかなり上達し、エラーになることがほとんどなかった。ころがせば何かが起きるという格言があるが、それは中国でさえも通用しない。それだけの進歩が見られた。
(文=河嶋 宗一)