Column

2019年はリベンジへ。アジア大会で出た課題を検証「選考基準を再考する」

2018.09.14

 日本開催のアジア大会で優勝を逃す事態となった。チャイニーズタイペイ戦に敗れてから、日本代表の在り方が盛んに議論された。2019年のワールドカップの出場権は何とか手にしたものの、現状のままでは来年の世界大会では3位がやっとかもしくは5位~6位で終わってしまうかもしれない。

 

 今回、問題になった課題をシリーズもので検証をしていく。第3回は皆様が盛んに議論していた「選手選考」について。今回の選考の問題点、そして高校野球ドットコムも「選考基準」について提言をしていく。

ミレニアム世代は右の強打者が頂点を占めていたのに誰も選ばれなかった

2019年はリベンジへ。アジア大会で出た課題を検証「選考基準を再考する」 | 高校野球ドットコム
高校通算45本塁打の濱田太貴(明豊)

 韓国戦チャイニーズタイペイ戦で貧打に苦しむ中、日本の野球ファンはSNS上で、「右の強打者がいれば…」という声が多かった。その指摘は正しい。

 チャイニーズタイペイ戦韓国戦を振り返ると、国際大会のゾーンになれておらず、木製バットに順応していないのに左打者6人並ぶというのは相手からすればくみしやすい。良い打者であれば、右、左も関係ないという論調は確かに正しいが、国際大会の最低限の準備もできていない中で、左打者の偏重は無理があった。実際に韓国、チャイニーズタイペイは左投手が先発し、1点しか奪えなかった。どちらもタイムリーで点をとっていない。戦略負けと受け取るしかない。

 攻撃の引き出しとして右の強打者がいればどうなったか。もし打てなくても検証の材料はあったが、その検証の材料も消えてしまった。

 あくまで仮定の話だが、突出した打撃技術を持った右打者と、アウトコースに強く、なおかつリーチと体重がある右打者がいれば、もっと厚みが違った。前者が高校通算68本塁打の野村大樹早稲田実)、高校通算45本塁打の濱田太貴明豊)。後者は野村佑希花咲徳栄)、北村恵吾近江)だ。

 野村大、濱田の2人は内回りで、さらにボールの下側をたたくスイングで、本塁打を量産できる選手だ。野村佑は185センチ90キロと恵まれた体格を生かしたフルスイングで、森友哉清原和博しかなしえていない2年夏から2年連続で夏の甲子園2ホーマー以上の快挙を達成。北村は182センチ83キロのがっしり体型を生かしたパワーで高校通算44本塁打。また、逆方向に打ち分ける打撃技術の高さも光り、夏の甲子園では打率.529、2本塁打、12打点をマークした。野村佑、北村はリーチがあり、外のボールに対して本塁打にできるツボを持っている。外に広い国際大会のゾーンでも十分に強みを発揮できたのではないか。

 また、韓国、チャイニーズタイペイの体重がある右打者の打撃を見ると、本当に打球が速く、詰まってでもヒットにしてしまうパワーがある。今年ほど実績、才能面を見ても、右の強打者が集まった年はないのだが、1人も選ばれなかったのはもったいなかった。

 国際大会では勝つために「足」を重視したオーダーになりがちだが、結果としてボーク問題に対応できず、一部の俊足選手しか走れなかった。韓国チャイニーズタイペイ戦の合計盗塁は2盗塁と、まったく機能しなかった。不調で片づけると、発展しない。選考委員会の目論見が外れたといえる。

[page_break:潜在能力が高い選手を選ぶ重要性]

潜在能力が高い選手を選ぶ重要性

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有馬諒(近江)

 今後、選考で大事にしたいのは、勝つことと将来へ向けた投資。この2つを軸にすることだ。どうしても勝つことを重視すると、足のある左打者や、小技が利いた右打者、「和」を重視してキャプテン経験のある選手に目を向けがちだ。ただ青年世代の国際大会は潜在能力が高い選手を選ぶべきだと考えている。

 なぜかというと、優秀な選手ほどプロ入りや、その後のトップチーム、大学、社会人、U23~U21の代表になる可能性を秘めているから。それであれば高校レベルの実戦力のある選手よりも、まだ未完成だけれど、潜在能力が高い選手に国際大会を経験させて、その選手の成長につなげた方が良い。

 ファンの方がドラフト候補を中心とした仮想U18メンバーを立てるが、これは将来へ向けた投資という視点で見ると正しい選び方だといえる。

 また、アジア大会は世界大会の出場権がかかった大会。アジア大会と世界大会の重要度はどちらが上かといえば、断然、世界大会である。世界ではMLBドラフトで一巡目候補が大勢いるアメリカ、才能あふれる選手が揃うキューバやカナダと戦わないといけない。生半可な準備では勝てないのだ。世界大会を見据えて、実力、将来性有望な2年生を選ぶことも大切な選択だ。

 ちなみに「高校野球ドットコムが選ぶU18代表有馬諒近江)を選ばせていただいたが、これは世界大会へ向けたもの。打てなくても、リードミスしても構わないという姿勢だ。それよりも、木製バットで打つ難しさ、国際大会のゾーン、1球の怖さ。国際大会で戦う上で直面する課題を2年生捕手が経験するだけでも、来年のワールドカップに生きるだろう。

 これは捕手・森友哉大阪桐蔭ー埼玉西武)のケースを倣ったものだ。2年生ながら世界大会を経験して、3年生になって正捕手・主将として準優勝に貢献する活躍を見せた実例がある。有馬の捕手的な素質は森よりも上で、経験をさせてもよかった選手だったといえる。

 その点、韓国、チャイニーズタイペイは2年生を選出していた。韓国は二刀流のアン・インサン、チャイニーズタイペイは150キロ右腕・李晨薰が出場し、ともに決勝戦で登板した。

 他国のライバルは来年のワールドカップへ向けて、有望な2年生にしっかりと経験値を積ませている。この差は大きい。

[page_break:甲子園上位チームほど準備期間がとれない]

甲子園上位チームほど準備期間がとれない

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甲子園中心の選手で戦うには無理がある

 はっきりしたのは、甲子園中心の選手で戦うには、無理があるということだ。特に上位進出したチームほど無理がある。大阪桐蔭の選手たちは21日の決勝戦後、代表合宿まで全く練習ができなかった。その点について捕手・小泉航平大阪桐蔭)がこう証言してくれた。

 「甲子園が終わってからは、表敬訪問といった挨拶回りや休みなどをとっていたので、木製バットの練習をしないまま代表合宿に入りました。」

 決勝戦後の22日には表敬訪問。また佐賀出身のエース・柿木蓮は23日に佐賀県多久市に表敬訪問、合宿前日の24日には優勝報告会と、あいさつ回りで練習ができなかったのだ。これを見ると、大人たちは公式行事のタイミングを考えた方が良いだろう。

 また、全国制覇を目指し、長い時間をかけて練習と対外試合を行ってきた大阪桐蔭の選手たち。その目標を達成し、いざ同じテンション、緊張感で2週間~3週間も継続したまま試合を行うのは厳しい。それは準優勝投手の吉田輝星金足農)も同じである。

 高校野球ドットコムが選ぶU18代表で、小園海斗報徳学園)も選ばせていただいたが、甲子園と比べるとプレー面で精彩を欠いていた。野手の疲労度も踏まえないといけないだろう。

 今大会の選考は地方大会から見てきたというが、甲子園出場選手が中心なのを見ると今までの流れに倣ったものだといえる。それが今回の結果で否定された。今回の結果を重く見て、はっきりとした選考基準を設けたい。

 ちなみに、チャイニーズタイペイはナショナルチームを決めるための大会があり、「玉山盃」と呼ばれている。この大会は5月下旬~6月中旬まで行われ、各県の選抜が出場する。わかりやすい例でいえば、日本KWB野球連盟が主催するKボールの全国大会の高校生版といえばいいだろう。こちらも県選抜で組むものだ。この大会で優勝した高雄市から二刀流・林逸達、マリナーズと契約した左腕・張景淯など8人が選ばれ、他にも2年生の李晨薰、ドラフト1位の戴培峰など計15人がこの大会に出場している。そういう大会があると選考基準がはっきりしていて分かりやすい。

 いろいろな例を踏まえて、高校野球ドットコムの見解はこうである。
・右の速球、左の技巧派、右のスラッガーなど様々なタイプを揃える
・選手の疲労度を慮り 甲子園未出場の選手をメインにする
・大会に勝つことだけに固執しすぎず、将来への投資として、潜在能力が高い選手と能力が高い2年生を選出する

 現在の選考は「勝つ」ことに固執しすぎて、いろいろなことに目を向けていなかった。また将来に対して投資するという視点も欠けていた。もう一度、青年世代の世界大会でどの選手を選ぶべきか。じっくりと考えるべき問題だ。

(文=河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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