Column

2019年はリベンジへ。アジア大会で出た課題を検証 「木製バット問題はどう解消するべきか?」

2018.09.13

 日本開催のアジア大会で優勝を逃す事態となった。チャイニーズタイペイ戦に敗れてから、日本代表の在り方が盛んに議論された。2019年のワールドカップの出場権は何とか手にしたものの、現状のままでは来年の世界大会では3位がやっとかもしくは5位~6位で終わってしまうかもしれない。今回、問題になった課題をシリーズもので検証をしていく。今回はよく議論される「木製バットの対応」である。

代表野手は木製バット克服へ向けてどう取り組んだのか?

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奈良間大己(常葉大菊川)も木製バットへの苦労を口にした

 毎回、高校代表の大会後に言われるのが、木製バットへの対応である。今年の選手も例外なく苦しんだ。結果だけ見れば、ライバルとなる韓国戦、チャイニーズタイペイ戦では1得点に終わった。苦しんだ要因として、「ゾーンへの対応」。そして木製バットに順応できなかったことにある。

 野手に話を聞くと、木製バットの練習を始めたのは、甲子園組の選手は甲子園から戻ってから練習を始めた選手がほとんど。かなり工夫をして、苦労しながら取り組んでいる様子がうかがえた。

 奈良間大己常葉大菊川)は「ヘッドが下がった状態で打ちにいってしまうので、どうしてもとらえきれない。ヘッドが立った状態で打ちに行くことを心掛けました」と工夫したことを語り、またクリーンナップを打った野尻幸輝木更津総合)は、「木製は金属と違って、しなるのでその感覚になれるのに時間がかかりました」と述べ、強い打球を打てるために、890グラムのバットを発注し、ヘッドの重みを利かしたスイングを心掛けた。また、峯圭汰創成館)は木製バットの特性をうまく活かしていた。

 「そもそも素材が違います。金属は空洞の900グラム。木製は詰まった900グラム。中身が詰まっている分、ヘッドが重い。その結果、ヘッドが下がりやすいので、金属と同じ感覚でスイングするとファールになる当たりが多い。そこが難しいので、ヘッドが立つように高めのボールをティーで打ったりしてヘッドを立てる意識でマシンや実戦形式に臨みました。」

 韓国戦では1得点に終わり、台湾戦は2安打のみに終わった。とはいえ、時間が足りな過ぎた。持ち味を発揮できずに終わった。

 そして日本以上の打撃力を見せたのがチャイニーズタイペイと韓国である。7対5で韓国が勝利したが、どちらも140キロ台の速球を投げ込む投手に対しても空振りを恐れることなく、力強い打球を飛ばしていた。

 韓国は、4番キム・デハンが外角の150キロストレートをライトスタンドへ。またチャイニーズタイペイも、最速152キロを計測した韓国の剛腕サイド・ソ・ジュノンに対し、5番邱智呈が甘く入ったスライダーをとらえて適時打。
 タイブレークとなった10回裏は、日本が対応できなかった左腕・キム・ギフンから2安打を記録した。両国とも普段の公式戦から木製バットを使用している。その積み重ねが日本との差を生んでいるといえる。

 ただ外に広すぎるゾーンが日本の打者のメカニズムを狂わせたと考えられる。その対応策として蛭間拓哉浦和学院)は「やはり外角へ打てるように踏み込んで打って強く振ることです。でも、なかなか打てずに苦しみました。最後の中国戦で良い打球を打てたかなと思います」と踏み込んで打っていった。

 では、日本も木製バットを取り入れるべきでは?という意見があると思うが、なかなか難しい問題となっている。

[page_break:バット改革が難しい3つの理由]

バット改革が難しい3つの理由

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アップ中のU18代表メンバー

 1.経済面で不可能

 まず1つの理由として挙げられるのが経済面。今年、夏の大会に出場したのは、3781チーム。一部の強豪校のように全ての学校に予算が潤沢にあるわけではない。一律で導入すると、予算面で導入できないチームが多いだろう。実力面では平均的な学校にとって不利な条件を増やす木製バット導入は現実的ではない。

 2.低反発金属バットも一律導入まで時間がかかる

 木製バットがダメならば、アメリカやU15世代の国際大会などで低反発金属バットが望ましいという意見がある。確かに正しいが、これも一律に導入するのに時間がかかるといえる。高野連がルールを決めて、そして各メーカーが商品化まで実験と開発を重ねるまでの月日を要する。いつからルールとして取り入れるのか?野球のルールは練習をしながら対応をすればいい。ただ用具の統一と規制はすぐに導入できることではないということは付け加えておきたい。

 ここまで否定的だったが、甲子園がラッキーゾーンを導入するという話が一部で出ている。阪神タイガースはなかなか本塁打が出ないと嘆いているが、金属バットを使う高校野球は軽々とホームランが出ている。もし球場の広さを狭めるラッキーゾーンを導入する場合、同時並行して、金属バットの反発係数は必ず議論すべき課題である。

 3.木製バット導入はスモールベースボール促進化の恐れが

 国際大会競争力向上のために木製バットを導入した韓国、チャイニーズタイペイだが、その国全体の打者のレベル向上につながっているとはいえないようだ。韓国の野球事情をよく知るライターとお話しした時、木製バットを導入すると、打球が飛びにくいので、スラッガーが苦しみやすい。そのため勝つために優先として起用されるのが、足の速い左打者になると話してくれた。

 また、日本の高校野球、台湾の社会人野球でプレーした呉承達さん(日南学園―鈴鹿国際大―関西独立リーグ)は「高校生に木製バットは早い」という。呉さんも同じく結果を求めすぎるあまり、打撃が小さくなるリスクを話してくれた。

 「スラッガーが生まれない。高校生のうちは小さくならずに、振り切ることが大事である。結果を残したい選手が木製バットを使用することで、どうしてもこじんまりとしてしまうことは非常にもったいない。大きな当たりが出ないのなら、コンタクトをうまくする方へ舵を切りたいという指導者・選手の気持ちもわかるが、高校生のうちは振り切ることが大事です。」

 実際、練習に木製バットを取り入れている野球の練習を見たことがあるが外野に飛ばすことができたのは一部の選手だけ。多くの選手が当てに行くスイングになって、ポップフライになっていた。果たして打者の育成に良いものなのか、頭を悩ませたものだ。高校生で木製バットを軽々と使いこなすには相応の筋力、体力、打撃技術を持った選手でないとこなせない。

[page_break:シーズン中でも木製バットでも練習する動機付けを作ることが重要だ。]

シーズン中でも木製バットでも練習する動機付けを作ることが重要だ。

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U15日本代表の合宿の様子

 世界大会で勝つことを第一目的とするならば、現行のルールのままで、代表候補を早めに選出して、木製バットの練習とセレクションを兼ねた合宿をしたほうが良いといえる。社会人野球、U15代表、女子野球などは選考を兼ねた合宿を行っている。確かに夏の地方大会・甲子園でなかなか難しいかもしれない。ただ今年と同じ体制でいけば、来年の世界大会でもこける。

 去年から6月に代表候補を30人発表するようになったが、その倍の60人を発表するべきだといえる。というのは、少しでも代表候補を多く発表して、特に野手は木製バットで練習する動機を作らせること。

 そして8月上旬に未出場組のセレクションを行いつつ、甲子園組は甲子園球場などで練習会。そうやって、甲子園組みの練習不足を防ぐ。
 そういう機会を作ることで、選考委員会は実際に選考するまで、木製バットに順応している選手を「なんとなく」ではなく、しっかりと理解した上で選ぶことができる。そこまでやっていかなければ世界で戦える選手を選出することはできない。

 あくまで仮の改革法だが、果たして高野連はどんな改革を行うのか、注目してみたい。

(文=河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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