こんな吉田輝星は見たくなかった…日本の投手起用にビジョンはあったのか
韓国戦から狂いだした歯車
勝ち越しに喜ぶチャイニーズタイペイと吉田輝星(金足農)
こんな吉田輝星は見たくなかった…。
多くの高校野球ファンがそう思っただろう。
甲子園の吉田輝星のピッチングはまさに投手の理想形だった。下半身主導のフォームからプロの投手に負けない回転数を誇るストレート、キレのある変化球、けん制のうまさ、間合いのうまさ、とっさの判断が利いたフィールディング。そして人を惹きつけるマウンド裁き。総合力の高さは日本のエースとして担うべき投手だろう。しかしそれは心技体が揃って実現するものである。
登板した宮崎県選抜までの調整はかなり慎重を期していた。吉田は甲子園での疲れを抜く意味で、完全別メニュー調整を行い、大学代表との試合も登板がなかった。万全の調整を行った結果、宮崎県選抜では最速149キロのストレートを投げ込み、吉田も「常時150キロ近く出ていたので良かったと思います」と語る姿は力強く、頼もしかった。
しかし韓国戦の負けから歯車は狂った。チャイニーズタイペイ戦の前の練習では、永田監督は「勝たないと決勝に行けない。スクランブル体制でいきます」と全投手を準備していた。そしてチャイニーズタイペイ戦で、4回表から登板した吉田は1週間前の宮崎県選抜、2日前の韓国戦とは程遠いピッチングだった。下半身から先行する動きではなく、上半身が突っ込む形で、吉田がこだわる「上半身、下半身が連動する動き」ではない。
吉田は「球速もフォームも全部だめでした。フォームは見ましたが、どこが悪いのかわからないまま試合で投げていました」と語るように、負けてはいけない試合で投げさせる状態ではなかったのだ。
吉田は登板した4回裏に決勝点となる失点を与えてしまった。吉田は8回まで投げ続けた。永田監督は「吉田が投げることで、チームに勢いが出る」とその狙いを考えての続投だった。しかし打線はチャイニーズタイペイの先発・王彥程に2安打負けとなった。
ビジョンを持った投手起用を
吉田輝星(金足農)
吉田は「2試合ともつぶしてしまった。投手としてチームを引っ張る立場で2試合ともつぶしてしまった。自分の責任で負けたので申し訳ない」と元気がなかった。こんなにうなだれる吉田は見たくなかった。
万策尽くして負けた形ならば、まだあきらめはつくだろう。今回は吉田、柿木以外に7人の投手がいる。今回のスクランブル体制の投手リレーは、台湾打線の相性を考えたものではなかったのは明白だ。
韓国戦で95球を投げ、中1日の登板で迎えた吉田のコンディションは客観的に見ても良くなかった。1人の投手に頼って負けるのは今回だけではない。去年も田浦文丸(秀岳館)に負担をかけた形で決勝進出が途絶えた。今回、吉田が投じた球数は2試合で153球。結果的に一番投げた投手となった。
一方、韓国はローテーションを組んで今大会に臨んだ。台湾も左打者が多い日本打線を見て、左投手を先発させ、右の速球投手を温存させた。2か国のビジョンある投手起用と日本の投手起用には、明確な差があった。
勝利のために1人の投手に固執し、その選手の自信を失わせるのは育成にはならない。なんといっても投手はプライドの塊。特に吉田は気持ち、シチュエーションによって投球内容が左右される投手である。
コンディション、プライド、メンタル、打者との相性。投手はそこまで踏み込んで起用しなければ、力は発揮できない。
ただ吉田輝星は先が長い投手。こんなことがあったなと切り替えてほしい。
(文=河嶋 宗一)