【秋季東京都大会総括】 チーム全体が成長して成し得た早稲田実業の優勝で終わった東京都大会を振り返る
冷え込みが厳しいにもかかわらず、早稲田実業vs日大三という伝統校対決となった決勝戦に集まった2万人の観衆の熱気は、東京の高校野球への関心の高さを物語る。
試合は野村 大樹の劇的なサヨナラ本塁打で早稲田実業が11年ぶり10回目の優勝を決めた。言うまでもなく早稲田実業は、清宮 幸太郎を中心としたチームである。しかし清宮は、準々決勝以降わずか1安打で、決勝戦では5打席三振だった。それでも、試合後の清宮の声はいつもかすれており、先頭に立ってチームをまとまるリーダーシップを発揮した。そしてチーム全体でカバーし合い、栄光掴んだ。そこに、主将である清宮の新たな魅力を発見できたし、チーム全体の成長を感じた。
決勝戦で惜しくも敗れた日大三も、チーム力は非常に高かった。事実上のエースである櫻井 周斗のスライダーは鋭く、清宮の5三振をはじめ、先発した試合では、常に二桁奪三振を記録した。準決勝、決勝戦で本塁打を放った巨漢スラッガー・金成 麗生の活躍は、東京に新たなスターが誕生したことを感じさせた。
都立旋風を象徴する都立日野・小林の健闘
小林龍太(都立日野)
2009年以降48校が定着していた秋季都大会の出場校数は、今年から64校になり、全てのチームが1回戦から登場するようになった。その影響もあり、今年の大会には私立の強豪校がほとんど顔を揃えた。
その一方で、都立校の健闘も光った。中でも今年のドラフトでロッテに1位指名された佐々木 千隼(桜美林大)を輩出した都立日野は、都立校で唯一準決勝に進出した。身長158センチと小柄なエース・小林 龍太の力投は、強い印象を残した。
2回戦で都立日野に善戦した都立豊多摩は、この春から都立城東の監督であった平岩 了が監督に就任した。平岩は、都立の強豪校と普通の都立校の文化の違いに戸惑いながらも、チームを築いた。
一方都立城東は、エースが本調子でなく、3回戦で大敗したが、ノビノビ野球で東亜学園に逆転勝ちするなど、存在感を示した。こちらも元都立城東監督である梨本 浩司監督率いる都立文京は、バント攻撃で安田学園を崩した。
都立雪谷は3点リードで迎えた9回裏に一挙4点を入れて佼成学園を破る粘りをみせた。
早稲田実業相手に実力を発揮できなかった関東一、国士舘
高橋晴(関東一)
国士舘は、過去センバツで2度準決勝進出の実績のある永田 昌弘監督が、11年ぶりに監督に復帰。守備にしても走塁にしても、1球に対する厳しさが増し、今大会は準決勝に進出した。しかし早稲田実業相手に実力を発揮できず、自ら自滅する形で敗れた。
都内の大会で引き分け1試合を挟み31戦無敗の関東一は、東京屈指の好投手である高橋 晴を擁し、打線も石橋 康太を中心に長打力も機動力もあり、戦力的には充実していた。しかし、早稲田実業が高橋を研究し攻略した一方で、関東一らしくない失策も出て、準々決勝で姿を消した。
秋季大会は、シード校制度がないため、どうしても組み合わせの運不運が生じる。帝京と二松学舎大附の一戦は、2回戦で当てるにはもったいないレベルの好試合であった。
秋のベスト16は春のシード校になり、春のベスト16が夏のシード校になる。二松学舎大附や、1回戦で国士舘に惜敗した岩倉などの動向は、春の大会に止まらず夏の大会にも影響を及ぼすことになる。
9月の天候不順に悩まされた各チーム
後藤茂基(城西大城西)
昨年の秋季都大会は4強が全て東東京で、8強でも、西東京は佼成学園だけだった。今年は反対に、4強は西東京が独占。東東京で8強に残ったのは、関東一と城西大城西だけだった。その中で、城西大城西のエース・後藤 茂基の力強い投球は、強豪復活の期待を抱かせるに十分だった。
その他、本格派投手の宮路 悠良に加え、伊東 翼、青木 海斗らの強力打線を有する東海大高輪台、本格派の近藤 海勢をはじめ投手陣が充実した日本ウェルネスなどは、春以降の成長が注目される。
投手陣の充実ぶりでは、東海大菅生にも松本 健吾、小玉 佳吾、戸田 懐生など、球威のある投手が揃っている。逆に早大学院は、エース級投手を負傷で欠きながら、準々決勝に進出した粘りは光った。
夏に悲願の甲子園初出場を果たした八王子は、エースの早乙女 大輝が一回り成長した。しかし、球威がある方ではないので、ちょっとした狂いが、準々決勝の都立日野戦のような大量失点につながることがある。
夏の経験者が多い創価は、日大三と延長13回に及ぶ大熱戦を演じた。3回戦で敗れたものの、春以降、優勝争いに加わる可能性は十分にある。
9月は天候不順で、一次予選はたびたび試合が延期になったり、雨の中で試合を強行したりと、日程調整に苦労した。屋外での練習が思うようにできず、練習試合も中止になるなどしたため、実戦経験の不足から、つまらない失策で敗れるチームも少なくなかった。その一方で、秋は力を発揮できなかった選手の中にも、鍛え方次第では伸びてくる可能性を感じる選手も多くいた。冬場の練習次第で、チーム力は大きく変わる。春はどんなチーム、選手が台頭してくるか、楽しみにしたい。
(文=大島 裕史)
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