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2016年の高校野球を占う【茨城編・後編】「149キロ右腕、台湾からの留学生スラッガーなど今年の茨城も魅力十分!」

2016.03.08

 前編では、昨秋の県大会で4強入りした霞ヶ浦常総学院日立一太田一の振り返りと注目選手について述べてきた。後編では、茨城県内4地区の秋の結果に触れながら、今後の見どころや注目選手を紹介していきたい。

玉石混淆の県北地区

 まずは県北地区の結果から振り返る。秋季県大会では、県北地区代表7校のうち、4強入りした2校を除く5校が1回戦で敗退した。また県北地区大会に目を向けると、1回戦7試合のうち6試合がコールドゲームとなるなど、チームごとの実力に大きな差が生じていることが分かる。

細川 成也(明秀学園日立)

 昨秋、諸般の事情で出場を辞退した明秀学園日立が、この春ついにヴェールを脱ぐ。10月31日から行われたローカル大会・日立市内大会では、3試合28得点と圧倒的な攻撃力を見せつけて優勝した。昨春から主軸を担い、すでに実戦経験豊富な稀代の長距離砲・細川 成也や好打者・森下 慶四郎の成長ぶりに期待したい。前チームが上級生投手3人で構成していただけに、公式戦経験豊富な投手がいないという不安要素はあるものの、打撃陣は県内屈指のチームだと断言できる。

 茨城キリストは馬力のある神尾 龍次と技巧派の弓野 将希が継投で試合を作る。多賀池ヶ谷 拓実安島 大貴高橋 亮の右腕3枚に力があり失点が計算できるので、打線の奮起が鍵となる。日立商県大会1回戦で大敗を喫したが、力のある下級生が揃うので立て直しに期待したい。

2年連続で春のシード権を逃した水戸地区

 続いて水戸地区の結果を振り返る。県大会では水戸地区から水城波崎柳川が準々決勝に進出したものの4強入りを果たせず、春のシード権を獲得できなかった。水戸地区は平成9年から17年連続で秋季県大会の4強入りチームを輩出し、安定した強さを誇った地区だが、平成25年の水戸工を最後に、2年連続で4強入りを逃すゆゆしき事態に直面している。水戸地区から春の県大会出場枠は7つ。好投手を擁しながら秋の地区予選で敗退した水戸葵陵常磐大高が入るゾーンは特に熾烈を極める。
水城は秋の第3シードだったものの、公式戦3試合とも2点差以内の苦戦を強いられ、水戸地区で特別抜きん出た存在とは言えない。前島 健志郎根本 拓真と並ぶ左右の強打者がバットで投手を援護したい。

楊 笑虎(鹿島学園)

 鹿島学園は台湾からの留学生・楊 笑虎(新2年)が185センチ80キロの恵体で、打っても投げてもロマンを感じる好素材だ。当たれば飛ぶ天賦の才能があるので、まずは打撃の精度を高めたい。またエース右腕・佐藤 潤は最速130キロ中盤の好投手だ。
水戸商石岡一に延長12回の末敗れたものの、右腕・瀧功聖が2試合21イニングを1人で投げ抜き、絶対的なエースとして成長している。

 波崎柳川は3番で捕手の楠 大樹の打撃と肩に光るものがある。続いて地区予選敗退校から、水戸葵陵の右腕・海野 貴嗣は最速140キロ超を誇るが勝ちに恵まれず上位進出できていないので、春には雪辱を果たしたい。1年生ながら昨夏デビュー登板した、常磐大高田崎 誠也平野 龍翔の両右腕は、最速130キロを超える将来が楽しみな投手だ。水戸一の右腕・市村 悠大は制球力が抜群で、内と外にスライダーを投げ分けて勝負する。

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[page_break:群雄割拠の県南地区]

群雄割拠の県南地区

 続いて県南地区の結果を振り返る。県南地区からはシードの常総学院霞ヶ浦以外の6校全てが初戦を突破し、8強には4校が残った。
激戦ゾーンに配された石岡一は、1回戦のつくば秀英を延長13回、2回戦の水戸商を延長12回で下し、苦しみながらも価値ある8強入りを果たした。準々決勝では常総学院鈴木昭汰に対して、14奪三振4安打完封と力負けして打線は沈黙したが、右腕エース・高崎 大幹が、常総学院打線に対し7安打2失点の粘投を見せたことは光明が差し込んだといえる。また、右腕・石田 稜も140キロ近いストレートとスライダーで試合を作る能力があり投手力は高い。

立松 由宇(藤代)

 藤代は準々決勝で霞ヶ浦に3対4と惜敗したものの、3番の立松 由宇(ゆう/左打ち/捕手)と4番の立松 峻(しゅん/右打ち/一塁手兼左翼手)と並ぶ立松ツインズが、分厚い体躯どおりの抜群の破壊力を示した。

県大会
3試合では、立松由が13打数5安打5打点で打率.385。立松 峻が9打数7安打4打点で打率.778。特筆すべきは打点の多さで、藤代の全15得点のうち6割にも及ぶ9点を2人がたたき出している。春以降も立松ツインズの打棒からは目が離せない。また、立松由は捕手としても二塁送球タイム1.9秒を切る強肩だ。

 東洋大牛久は右腕・有馬 海人が昨夏常総学院から大金星を上げた実力派。ストレートは球速以上にキレがあり相手打者が差し込まれる場面が目立つ。前チームから中軸を打つ川原 大雅はアベレージの残せるしぶとい打者だ。土浦一の4番捕手・天貝 泰己は身体が分厚く、天性の腕っ節で打球がピンポン球のように飛んでいく。県南地区代表決定戦土浦湖北戦)では右打者ながら右中間スタンドに弾丸ライナーで突き刺した。また、12月に行われた前橋商との北関東選抜豪州遠征壮行試合では、センターフェンス直撃の二塁打を放ちアピールした。

 取手松陽古田島 成龍(新2年)は1年生ながら昨夏レギュラーを獲得し、2回戦では先発マウンドも経験した。昨秋からはエースで中軸の重責を担いながらも、取手松陽を創部以来初の県大会に導いた立役者だ。最速135キロのストレートには威力があり、負けん気が強く今後が楽しみな存在だ。遊撃手で主将の石田 雄大も前チームから上位打線を任される。一塁到達タイム3.87秒マークする俊足の好打者で、外野の正面のヒットでも二塁を狙う。地区予選で敗れたが、つくば国際大高の右腕・村上 稼津樹は、1つ上のエース・福田 海人を彷彿とさせる馬力があり、春にかけて成長が楽しみだ。土浦湖北は久しぶりの地区予選敗退となったが、春の地区予選ではシードを喰う可能性が高い不気味な存在だ。

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[page_break:洪水の苦難を乗り越えた県西地区]

洪水の苦難を乗り越えた県西地区

 最後に、県西地区について振り返りたい。昨秋の県西地区予選は、平成27年9月11日に起こった関東・東北豪雨により、開幕が1週間延期された。洪水による各校の被害状況は壮絶を極めた。特に、鬼怒商水海道二石下紫峰は、鬼怒川など河川の決壊で校舎もグラウンドも浸水したことから、野球部の部室や大切な野球用具までもが水没した。水が引いてからも、グラウンドが泥で覆われ練習もままならなくなった。また県西地区全体では、高校自体は被災していなくても、自宅の浸水や断水・停電で避難所生活を強いられる部員も多数いた。

 日常生活の安定を失い練習環境も整わない中、大会直前にもかかわらず、多くの野球部が練習をとりやめてボランティア活動で地域貢献した。そうして、洪水から1週間後の9月19日、県西地区大会は開幕したのだった。大規模な被害を受けた高校は、短期間のうちに用具を寄付や貸借でそろえ、なんとか出場にこぎつけた。

 秋季県大会では、県西地区からの8強入りはなく、下館一古河三は初戦を突破したものの次戦で敗れた。この結果は、県西地区をとりまく日程・練習環境ともに厳しい状況を如実に表している。

長井 良太(つくば秀英)

 つくば秀英は剛腕投手を擁し上位進出が有力視されていたが、1回戦で石岡一に延長13回の末敗れた。右腕エース・長井 良太は180センチ70キロと均整のとれた身体から最速149キロを誇る。プロのスカウトも注目する逸材で、変化球はスライダーとフォーク、チェンジアップを操る。また、打っては4番とチームの期待を一身に背負う。

 鬼怒商のエース左腕・大木 駿もエースで4番を務める大黒柱だ。頭と身体を目一杯捻転して投じるダイナミックなフォームから、抜群にキレのあるストレートを投じる。打順やカウントごとに力の入れ具合を変える器用さも持ち合わせる。

下妻二の右腕エース・齋藤 雄基(新2年)はストライクゾーンを広く使った投球が上手く、ボール1つ分の出し入れができる。守谷の右腕・中塚 智は横滑りするスライダーが武器だ。右打者がのけ反るようなインスラで内野ゴロを打たせるのが上手い。

 水海道一は俊足で長打もある水海道一渡辺大雅が打線を牽引する。下館一の右腕・篠崎泰彰は体重の乗った130キロ超のストレートに威力がある。古河三はエース左腕・須藤 佑介が1年夏から登板経験があり交わす投球ができる。部員12名で県大会1勝まで進んだ秋の再現を期待したい。

一冬越えて、今年も茨城県の球児たちが茨城を盛り上げ、熱い試合を多く見せることを期待したい。

(文・伊達 康


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2016年度 春季高校野球大会特集

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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