休む勇気
第4回 休む勇気2010年08月03日
今回のテーマは「休む勇気」です。
体は疲れているけど、練習を休めばライバルに差をつけられてしまう…。1日休んだら、その分を取り返すのに何日もかかるから毎日練習をしなくてはいけない…。チームの練習が休みでも上手くなるためには自分で練習しないと…。
みなさんはそういった観念に縛られていませんか?
休養は取り方によってフィジカル、メンタル両面に大きな影響をもたらします。選手はもちろん、練習を決める立場にある指導者の方は是非とも参考にしていただければと思います。
私が指導している埼玉西武ライオンズの片岡易之選手も練習をやりたくてしかたがない選手です。豊富な練習量で自分の野球を作っていくタイプ。自主トレ中、練習を始めたらバットを放そうとしませんし、走り始めたら何本でも走るくらいの強い気持ちとモチベーションを持っています。
そんな彼に私は「勇気を持って休もう」と言い聞かせています。
そのとき頑張ったと満足しても、効果として現れなければ意味がないからです。それどころか、頑張りが疲労を蓄積させたり、怪我の原因になることもあるわけです。
どのくらい休めばいいか?
では、どのくらい休めばいいか?
私は週に1回ずつ「完全休養日」と「積極的休養日」を入れた方がいいと考えています。週7日のうち5日は練習。1日は完全休養で、残りの1日は積極的休養日にする。積極的休養日は例えばみんなでバレーボールをやるとか、バスケットボールをやるとか、怪我に気をつけて違う競技に触れるのでもいい。いつも通りウォーミングアップをやったらバトミントンをして、やりたい選手は軽くウェイトトレーニングをやって上がる。そういう日を作る。
それから完全休養日は、何もやらない。指導者の方は「すぐに帰って寝ろ」とか、「遊びに行ってもいいぞ」と、とにかく帰らせる。気をつけるとしたら、睡眠時間はしっかり取って欲しいということくらいですね。
練習をやらないと不安になる人も多いと思います。でも、そこは勇気を持って考え方を変えてください。体調を整えて、明日以降にいい練習をするために休むんだ、と。
例えば月曜日から3日間しっかり練習をして、木曜日は積極的休養日で別の競技をやったり遊びの時間を作る。金、土曜日は練習で日曜日は完全休養日にする。週末に練習試合を行っているなら、その日を積極的休養日として、完全休養日をどこかに入れる。
休む方が勇気がいる
野球という競技はメリハリのある競技じゃないですか。サッカーみたいにずっと動いている競技じゃない。そういう感覚は凄く大事なんです。
休みの日は彼女とデートをしてもいい。好きなだけご飯を食べる日にしてもいい。そうすれば心身ともにフレッシュな状態になるじゃないですか。もちろん、時間を忘れ過ぎて遊んでしまったり、栄養素を無視して暴飲暴食するのはいけませんが。
そういった時間を作ることで、よし、明日から頑張ろうと思える。
それとよく知っておいて欲しいのは、1日休んだくらいでは完全な休養にはならないということ。
だからこそ定期的に休みを取る必要があるんです。1日休んだら取り返すのに何日もかかるなんてことはありません。完全休養日なら多少バットを振りたいと思っても我慢です。頭から野球を抜いてしまってください。そうすると明日からまた野球がやりたい、という気持ちが出てくる。野球に対する飢餓状態を作るとでもいいますか。週1回のスパンで、そのモチベーションになれたら凄くいい方向に行く気がしませんか。メンタル面もフィジカル面もいい状態で練習できるはずです。
休む方が勇気がいるんです。惰性でやっている方が、むしろ楽なんです。それくらいの勇気がなければ、自分の目指す最高の姿には近づけないでしょう。私はそう言いたいです。
計画的な休養
そして、指導者の方は選手のコンディションをよく見てあげてください。
選手は監督やチームメイトが見ていないところで努力します。ノックやバッティング練習、ピッチング練習が終わった後に、選手にランニングメニューを伝えたらその様子を見ない方もいると聞きます。わからないでもありませんが、子供たちのことを考えたら、指導者である以上、しっかり見てあげて欲しいですね。
疲れや体の異変はランニングフォーム等にすぐに出ます。選手ごとにメモを取ることも必要ではないでしょうか。それで防げる怪我もあるはずです。
選手は自分からはなかなか練習をストップしたり、休んだりできませんから、必要に応じて練習を軽くしたり、休養の時間を作ってあげてください。
この「計画的な休養」という時間が、後に大きなアドバンテージとなって、それぞれの選手に還ってくると思います。
疲れた時の対処法
最後に疲れたときの対処法をお教えします。疲れが溜まっていると感じた時は、練習後にLSD(ロング・スロー・ディスタンス)を行ってみて下さい。
これは長い距離をゆっくり走るだけのトレーニング。足の裏から疲労が抜けて行くようなイメージで走ることが大事です。実際に疲労物質を除去するために有効なメニューですし、私は片岡選手の状態に応じて90分くらい走らせることもあります。
本当にゆっくりで構いません。歩くスピードでジョグするような感じをイメージしてください。心拍数が上昇しないように、血液をゆっくりと流すんです。
そのときはみんなとしゃべりながらでもいいです。人によっては体がだるくなるかもしれませんが、それで翌日以降がだいぶ違ってくると思います。疲労が抜けやすくなるので、必要なときに試してみてください。
次回は「体幹の役割」についてお話しようと思います。
(構成=鷲崎 文彦)