第2回 練習の意味 2010年05月14日

本数、タイムよりも大切なものとは?

 前回はみなさんに、「走ることに対する“間違った思い込み”を捨ててください」という話をしました。
同時に野球界全体が「ランニングトレーニング」に対して意識が低いと感じていることにも少し触れました。
アマチュアに限らず、プロの練習を見ていても「どうして?」と思うことが実に多いのです。

 今回はそのことについて、事例を挙げながらお伝えしていきたいと思います。

例えばみなさんは練習で「50mダッシュ×10本」「ポール間ダッシュ×10本」といったメニューをやることがありませんか。そのメニューに「何秒以内」というタイム制限がある場合も含めて。

でも、ちょっと考えてみてください。なぜ本数は10本なのでしょうか。制限タイムは何を元に設定されたのでしょうか。
疑問に思ったことはありませんか。

 私は「10」という数字、「設定されたタイム」の根拠が気になります。指導者の方が何の目的で、どのような効果を期待して、そのトレーニング(本数、タイム)を取り入れたのか。
ある程度のスピードを維持して10本を楽に消化できる選手には効果が少ないでしょうし、そのスピードでは5本でバテてしまう選手にとっては、さらに効果の少ないトレーニングになりかねません。
これは極端な表現になりますが、5本でバテるということは、6本目以降は速いスピードを維持して走ることが難しくなるということですから、ジョグのような有酸素運動、つまりバイクを漕いでいるのと変わらないくらいのレベルになってしまう。
10本を走れる選手と5本しか走れない選手では、違うトレーニングになってしまうんです。

 本数やタイムより大事なのは内容、根拠です。

そもそも選手全員が同じ本数を行うこと自体が非効率的。走力に個人差があるわけですから、いくつかのグループに分けるべきでしょう。

それから不思議に思うのが、組分けをしていてもレギュラー組と控え組といった具合に野球の能力で決めること。なぜ走力に合わせた班分けをしないのか。野球が下手でもしっかりメニューを走りきれる選手もいるわけです。その選手にとってはそれがモチベーションにもなるし、レギュラーを脅かす控え選手が出てくるはずです。

 

 選手が行うトレーニングの数と同数の根拠がなければ練習は成り立ちませんし、競技力の向上や期待する効果を手にすることは難しいでしょう。

このページのトップへ

「機能的な練習ニュー」が必要


 ほかにも例を挙げるとラダーを使ったトレーニング。足の動きにばかり注意が行って、腕を動かしていないケースがとても目立つ。実際に走るときは腕を振るのに、自分が動く形と違う動きを毎日、何本もウォーミングアップで繰り返してしまっている。これが果たしていい方向に繋がるでしょうか。実際に動くときというのは手も足も同じテンポで動かします。なのに、その練習のときは上は動かないで下だけ動かしている。連動性が疎外されてしまっているんです。

 しっかりとそのメニューの目的が伝わっていないために、こうしたことが起きてしまう。

瞬発力を養うためにショートダッシュを課しているのに、インターバルでジョグをさせたりしているケースもある。瞬発的、爆発的な能力を向上させるトレーニングにおいては、なるべく筋肉がフレッシュな(充分な休憩を挟んでいる)状態で行うことが非常に重要です。なのに、ダッシュの間をジョグで繋げば常時、体が動いちゃうわけだから、中距離や長距離を走るために必要なトレーニングに変わってしまっている。

 どんな練習メニューにおいても大切なのは機能的であることなんです。

少し走ることから離れますが、みなさんは下半身のトレーニングでスクワットやレッグエクステンション、レッグカール、フロントランジ、サイドランジといった種目をやっているのではないでしょうか。
基礎的な筋力のアップとしては必要な種目ですが、野球に直に繋がるような機能的トレーニング種目とは表現できないでしょう。
なぜなら、これらの種目の動きは野球にはほとんどないからです。
フロントランジやサイドランジは、まだ野球の動きに近いと表現できますが、ゴロの捕球姿勢にしても、スクワットのように両足のつま先を揃え、尚且つ均等に体重をかけるような形にはなりませんよね。これらは野球に特化したものではなく、あくまで「単純に体を鍛えるだけにもなる種目」であることを知っておいてください。

 だから私は西武の片岡易之選手をはじめ、指導するプロ野球選手には、捕球姿勢に近い形のウェイトトレーニングや自重負荷トレーニング、少なくともスクワットをやった後に機能的なドリルを入れるようにしています。
これらは下肢のトレーニングの一例なだけで、もちろん上肢のトレーニングにも同じことが言えます。

このページのトップへ

悪影響を及ぼすトレーニングもある


 また、トレーニングはやり方によっては効果がないどころかプレーに悪影響を及ぼす場合もあります。

 試合のビデオを見て、バッティングのときにバットのヘッドが下がっていることに気付くとします。それがいつから起きていたのかを考えると怖くないですか。気付いたのはそのときでも、実際はかなり前から下がっていたのかもしれない。
つまり、ヘッドが下がる練習ばかりを繰り返していたわけです。そうなると急にヘッドを上げようとしても難しい。そして、もしかすると”筋肉の癖”に起因している可能性すらあるんです。
 右打者なら左脇が開けばヘッドは必ず寝てしまいますよね。だから、そこを締めないといけない。

バッティング練習はもちろんですが、ローウィングのようなウェイトトレーニングでは、特に左腕の脇や肘をなるべく開かないようにマシンやダンベルを引く必要がありますね。ところが、引く動作が主になるウェイトトレーニングで肘を体の外側に持ち上げるように脇を開けながら行っていると、筋肉がその動きを覚えてしまい、ヘッドが落ちる原因の一つになっていることもあるんです。トレーニングの期間が長ければ長いほど、その症状は大きくなるでしょう。

 一般的なウェイトトレーニングとしては正しかったとしても、野球の競技力を向上させるためのウェイトトレーニングとしては正しいと言い切れなくなってしまいますよね。

 トレーニングの方法、フォームで筋肉のつき方は変わります。自分がどういう動きをしているかは、意外にわからないものです。そうしたことを防ぐためには指導者の方がちゃんと見てあげることが1番ではないでしょうか。

 私が言える立場にあるかはわかりませんが、練習内容は指導者に委ねられます。中高生となれば特にそうでしょう。ですから指導者の方は自分の感覚で教えるだけではなく、いろいろと知識を吸収したり、時には民間のトレーナーを招いたりして練習メニューの作成、指導に当たって欲しいですね。

 トレーニングに関しては様々な理論や意見がありますから、一本の基本となる軸を作り上げることは難しいかもしれません。
しかし、こういったことを常に考えることは、選手以上に指導者にとって非常に重要なことだと私は思っております。

 次回はみなさんからいただいた質問に可能な限りお答えしたいと思います。

このページのトップへ

みなさんへの質問

みなさんはチームで、どのようなランニングの練習をしていますか?
具体的なメニュー、時間、回数を教えてください。
今後の連載の中で、質問に対してアドヴァイスしていきたいと思います。
質問はこちら

また、トレーナー・安福氏への講習会についての問い合わせはこちら

(構成=鷲崎 文彦)

このページのトップへ