Column

県立岩国高等学校(山口)

2015.10.12

接戦をモノにするシンプルな守備練習

 山口県立岩国高等学校野球部は進学校にもかかわらず、甲子園に春7回、夏5回の出場実績がある。河口 雅雄監督が1992年に就任して以来、県大会では8強以上の常連となり、甲子園でも2003年夏にベスト8まで勝ち上がるなど、山口県内でも屈指の強豪校の1つとして数々の実績を残してきた。

 1、2年生で部員39人(マネージャー2人含む)。体格に恵まれた選手は決して多いとはいえない。進学校ゆえに練習時間は限られる上、成績が悪くなると個々で部活動停止になることもあるという。限られた条件と文武両道を重んじる校風の中で勝ち抜くコツは守備にある。派手さはないが、ちょっとした意識改革で選手は成長を遂げてきた。今回は限られた中でステップアップする岩国の取り組みを紹介していきたい。

軟式野球出身者の悪癖を取り除く

河口 雅雄監督(県立岩国高等学校)

 河口監督は「接戦を勝ち抜く」ことを頭に入れて普段から選手に取り組ませている。
「7対0など大量得点で勝つことを想定して練習していません。3対2、2対1、1対0というようなスコアで勝てるにはどうしたらいいか。それを、いつも僕も選手も考えながら野球をしています」

 だからといって、特別に練習メニューを組むことはない。これから冬場の季節に差し掛かっても、守備練習ではノックを重視した練習が中心となる。岩国市は冬でも雪が積もることはほとんどないという。
「基本はグラウンドでのノックです。内野手なら正面が中心。それから左、右に振って動きを確認する。練習のある日はいつも同じことを繰り返しています。雨の日に手で転がしてゴロ捕球をすることもあります。でも、基本はバットで打った打球を捕球することが一番、大事だと思っています」

 中学までの硬式野球経験者は多くない。主に岩国周辺の軟式野球経験者が甲子園を目指して岩国高校の門をたたくことが多い。
ノックの最中の河口監督の指導のこだわりの1つは「腰の高さ」だ。
「捕球態勢時に腰の高さは確認させます。私立高校と比較すると硬式野球経験者が少ない。低い姿勢で捕球することの大切さは、常に意識させています」

中島 輝内野手(県立岩国高等学校)

 軟式と硬式の違いは、どこにあるのか。
中島 輝(ひかる)内野手(2年)はセカンド。高校に進学してから硬式を初体験したひとりだ。「バウンドが違いすぎました。軟式と比較して、硬式は大きくバウンドしません。跳ね方に慣れるのに苦労しました」と振り返る。

 バウンドしないのなら、腰をより低くして打球に接する必要がある。学年が上がっても、選手は基本姿勢=腰の位置を確認しながらノックを受ける。
「低い姿勢から入ることを心掛けています。自分自身も夏に向けて成長するために、そのことだけは忘れないようにしたい」
と言う。同時に「自分が確実にアウトを1つ取ることによって、守備にやりがいを感じる」と内野手としての魅力にも取りつかれている。


注目記事
・10月特集 今こそ鍛えたい!守備のキホン
・2015年秋季大会特設ページ

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白石 諒汰内野手(県立岩国高等学校)

 ショートを守る白石 諒汰(りょうた)内野手は中学時代に硬式を経験している。だからといって他の選手と意識する部分は変わることがない。
「ボールの下から入ることを意識しながらノックを受けています。投手の球種を考えながら、最初の1歩目を大事にしています」
と真剣な表情を見せていた。

「本人が考えた上でエラーした場合は仕方ない。ただ、なんとなく打球を処理してミスするのは良くないこと」
と河口監督。この日の練習中に何度もノックの最中にプレーを止めて、「なぜミスをしたのか?」「今のは、どういう目的を持っていったのか」と確認する場面が多く見られた。中堅120メートル、両翼98メートルと公立高校としては恵まれたグラウンドに、大きな声が響き渡る。その指揮官の必死さは確実に、部員の心に届いていた。

形にとらわれない

守備練習の様子(県立岩国高等学校)

 40歳以上のお父さん世代は「体の正面に入って捕球する」ことを重視して教えられてきた。今は必ずしも、そのような時代ではない。軟式、硬式にとらわれることなく、「逆シングルでのさばき」なども練習に採り入れているのも事実だ。

「捕球、スローイングは形にはこだわらない教え方をしています。打球の方向や状況判断を考えた場合、無理して正面で捕球することが良くない場合もあります。実際、過去と比較しても高校野球の選手のレベルは相当、上がってきています。今の中学校、小学校の指導者のレベルも高くなってきていますね。私も世代の割には、選手のグラブさばきや送球スタイルには寛容な方だと思っています」

 河口監督が、このような言い回しをするのは理由がある。守備で最も大切なのは「スムーズさ、バランス」ということだ。

「たとえば、『ジャンピングスローを良くない』とする指導者がいるのも確かです。でも、アウトを1つでも奪うための確率を上げないといけない。踏ん張って一塁に投げていては間に合わない時が多い。その場合、アウトにする確率の高い送球を選択するのはいいことだと思います。また、打球の正面に入りすぎると、次のスローイングに影響してしまうこともあるし、かえってエラーにつながることもあります。走者やアウトカウント、点差によって、やってはいけない捕球、送球もある。そのことを練習から学ばせたいと思っています」


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[page_break:冬の練習も基本の繰り返し]

 そして特に岩国高校の選手に多い特徴が「真面目すぎる」ということだ。
「とにかく真剣だし、『このプレー』と決めると、それを納得するためにやる。ただ、それだけではダメです。強豪の私立高校と戦ったときに差が出ることもある」

 選手に説くのは「遊び心」だ。
「ピッチャーなら、カットボール、ツーシームの球はどうやって投げるのか、キャッチボールから試して投げてみればいいと思っています。その延長が野球では必ず生きてくる。うまくいけば、試合で使えるようになる。守備にも同じことが言える。プロ野球やメジャーなどテレビで見たことを真似るのはいいこと。ジャンピングスローもそうだし、グラブトスはどうするのか、というようなことを学ぶような遊びが欲しい。それが岩国高校の課題。楽しみながら野球をすることは大切なことです」

 もちろん、捕球態勢にも寛容だ。
「打球の正面に入った方がエラーする確率は少なくなる。それでも次に、どこに投げるのかを考えた場合、逆シングルがいい時もあります。だから僕は選手に『なぜ、今、その態勢で球を捕ろうとしたのか?』とプレーを止めて聞くこともあります」

 選手にも考えさせる。そして頭と体に染み込ませている。

冬の練習も基本の繰り返し

 岩国高校はこの秋の秋季山口県大会では勝ち進めば県決勝大会進出できる地区予選3回戦で敗退した。この先は長い冬の練習が待っている。ただ、進学校ゆえの悩みがある。指揮官は
「ウィークデーは週3回。午後5時から1時間と少ししかできない。週末に時間を多く取って練習することになります。ただ、試験期間が重なると、多くの練習時間を取ることができなくなります」
と説明する。実際、取材日となった9月30日は一旦練習が打ち切りとなる日だった。10月1日から2週間の「試験休み」に入って、グラウンドでの練習ができなくなる。だからこそ、基本の繰り返しは生きる。冬場の練習もそうだ。

「冬場も変わりません。ノックを正面、左右というのは一緒です。実戦形式はほとんどしません。基本的なことを繰り返して徹底します。春になって練習試合を含めて実戦形式を取り入れていくのがスタイルになっています」
と河口監督。それが選手の意識にも表れている。

主将の西本 陸内野手(県立岩国高等学校)

 サードの西本 陸内野手(2年)は主将でもある。
「形は意識しながら取り組んでいます。1つ1つの感覚を大事にしています」
と、同じメニューの繰り返しに意義があることを理解している。

 岩国ナインは敗退した秋季山口県大会3回戦の南陽工戦では悔いが残る敗戦だった。3点リードしながら、9回に同点とされた後、延長戦で勝ち越し点を許してしまった。相手の追い上げ、決勝点を許したのも守備の乱れからだった。

 勝てるはずの相手だった。まだ、その時のショックは鮮明に覚えている。西本主将は
「自分たちの弱さが出た。試合になると緊張感が違った。まだまだ、自分たちがやるべきことはあると思いました」
と振り返る。今では実戦をイメージしながら、練習への熱の入れようも違ってきている。

 もちろん学業も疎かにしない。白石は、
「父のススメもあって岩国を選びました。大学に行っても野球を続けたいという気持ちもあります」
と言う。将来のことも、しっかり見据えている。

 学業や普段の生活も充実させた上に、夏の甲子園へ向けて、岩国の選手は課題を1つずつクリアして目標へ一歩ずつ駆け上がる。もちろん、守備における基本姿勢の徹底も、その中に組み込まれている。

(取材・文=中牟田 康


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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