Column

都立片倉高等学校(東京)

2015.09.19

新チームの作り方 片倉の仕上げ方とは?

 高校野球は常に、新陳代謝である。夏の戦いが終わると、すぐ秋季大会を目指す準備となる。休む間もなく、新チームは忙しくスタートしていくのだ。チーム事情によって、新チームの作り方はそれぞれ異なっていくであろうが、東京都八王子市郊外にあり、都立校としては珍しく大会の会場校にもなれるグラウンドを有する片倉の場合はどうだろうか。

練習試合は徹底的に組む その狙いとは

グラウンドを整える都立片倉高等学校の部員

 現実には、夏の地区大会で敗れた翌日から新チームはスタートすることになる。
片倉の場合は、この夏3回戦日大三に敗れ、比較的早い段階で新チームがスタートすることになった。

 八王子市の片倉高校は都立校としては、しっかりと両翼90m以上の広さのグラウンドを有しているので、多くの学校が練習試合に訪れる。それに、近年実績を上げてきているということもあり、練習試合のスケジュールは、すでに来年の新チームの分までできているくらいだ。

「新しいところも、いろいろな人の名前を出されて、『是非、試合を組んでください』なんて言われたら、断りきれませんから」
と、宮本 秀樹監督は嬉しそうに話す。片倉の場合は、とにかく徹底的に試合を組んで、試合を通じて選手は何ができるのか、どんな持ち味があるのかということをアピールしていく。

 試合は、ホームグラウンドともいえる自校グラウンドがメインだが、もちろん遠征試合も組んでいる。毎年8月には、上旬に県岐阜商などを中心として岐阜遠征、中旬には松商学園などを中心として長野遠征を組んでいる。一昨年の岐阜遠征では、県岐阜商はこの秋のドラフトの最大目玉ともいわれている高橋 純平投手も投げてきた。
「あの時期に、ウチ相手にあんな投手ぶつけられたら、反則だよね。手も足も出なかった」
と言いつつも、全国レベルの投手の球とはどんなものなのかということを、選手たちに身をもって体感させることもできている。

 ミーティングでは、「秋の東京都大会では、あれより上の投手はいないから大丈夫だ」と選手に暗示をかけた。そういう意識を持たせるという意味でも、いつものグラウンドを出て、他校の特に伝統校と言われるところでの試合は、その雰囲気を味わうことも含めて貴重な体験となる。

「今年は残念ながら天候不良で中止になってしまいましたけれども、松商学園とか県岐阜商といったような、昔からの伝統校は雰囲気が違うじゃないですか。グラウンドに足を踏み入れた瞬間から何かが違いますからね。それを、選手たちも実感して何かを感じてくれたら、それも遠征の成果かなと思っています」

 選手たちも、そんな中から一つひとつ学んで成長していくのである。


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[page_break:新主将・秋山夢道を中心に新チームがスタート!]

プリンスと呼んでいる練習では、さまざまなゴロ処理などを行う(都立片倉高等学校)

 宮本監督の方針としては、夏休みの練習に限らず練習試合の相手に関しては、いろいろな意図をもって組んでいる。特に、8月の新チームの場合は、上旬に予定している岐阜遠征までに、最初の形を作る。投手に関しては、宮本監督はこう語っている。

「可能であれば、前のチームに1人か2人」(下級生で中から試合で)投げられる選手を入れておきます。そして、まずは、その子を中心としてチームを作っていくことになります。ただ、それが叶わなかった場合は、シートバッティングなどをやりながら、そこで比較的いい内容の投球をしていった者を優先して、まずは投手としておきます」

 まずは投手として、というのは、そんな中から打てる選手は守りを動かしていくという方法をとっているからだ。片倉では、通称“プリンス”という呼び名で、合計12通りくらいの捕球→送球の練習を、ポジションも右左も関係なく3班ずつに分けて、何か所かでローテーションしながら進めていくという方法を積極的に取り入れている。そして、それを見ながら、選手の可能性を振り分けていくのだ。

 ちなみに、この練習は宮本監督が府中工監督時代に大島合宿で、都立城東で甲子園経験もある梨本 浩司監督(現文京監督)と、かつて社会人の強豪だったプリンスホテルがやっていたということをヒントに考え出したものだということである。

新主将・秋山夢道を中心に新チームがスタート!

新チームの主将、秋山 夢道君(都立片倉高等学校)

 新チームになって、主将に任命された秋山 夢道君は、当初投手から三塁、遊撃と回って、秋季大会の段階では打力を生かすのと、他のポジションで打力がいい選手を生かすという目的もあって左翼手となっている。元々は、投手として入学してきていたが、今はチームリーダーとして60人近い大所帯を引っ張っている。
「前のチームでは、ベンチからは外れてしまっていたんですけれども、メンバー外のまとめ役みたいなことをやっていました」と言うくらいだから、元々リーダーシップはあるタイプだ。

 片倉の場合は、引退した3年生を含めてまずは投票で次の新主将を決めるという方針である。それを宮本監督も承認したら、正式に主将となってスタートしていく。今回は、部員、指導者の考え方もピタッとはまったという感じで決定した。
「最初は、このチームは個性的なヤツが多いんで、まとめきれるかなというところもあったのですけれども、自分もこれまで以上に気配りして、視野も広くなっていって、主将になって変わったと思います」
と、自信を示す。


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[page_break:練習試合、ブロック予選の運営など野球を通じて学び取れるものはすべて学ぶ]

練習試合、ブロック予選の運営など野球を通じて学び取れるものはすべて学ぶ

ボールへの対応力で選手の適性を見る(都立片倉高等学校)

 チームは、とりあえずは秋季大会を目指して作り上げていく。そして、一次予選では会場校として、自分たちの試合だけではなく運営という面からも、学ぶことが多い。宮本監督は、そんな中から仕事などの仕方も含めて選手たちを観察して、次へ向けて新たなポジションを与えていく。

シーズンも終盤の11月には、八王子市内にある都立校と組んでお互いの新チームの成果を試し合いながら、翌年へ向けての課題を見つけていくという日程も組まれている。

 また、ベテランの宮本監督に練習試合の相手を紹介してもらおうという監督も多いが、そんな時にも積極的に紹介していき、ネットワークを広げていくということも心掛けている。片倉の場合は、特に名門校や伝統校とも積極的に試合を組んでいこうという姿勢が顕著である。こうしたことも、次へのチーム作りに繋がっていく。高校野球としてはやはり、大きな要素ではないだろうか。

 こうして、野球を通じて、学びとれるものはすべて学びとっていこうというのが都立片倉の姿勢である。選手たちも、片倉の野球部に入ったからこそ経験できることもあるのだ。
「やはり、県岐阜商や、春には横浜隼人とも組まれているのですけれども、名前の知られている学校との試合は楽しみです」
と、秋山君も語る。
そうした思いもまた、チームの特徴となっていくものである。

 また、試合を通じて見つかった課題を、それぞれが個々のテーマとして感じて、それを修正し、克服していく。その成果を、また次の試合で見せていくということが、チーム全体の底上げをもたらしていくことになっていくのだ。
 

 現実には、この時期にどれだけ準備をしておくことができたのかということが、そのまま秋季大会の成績につながっていく。とはいえ、秋季大会の段階ではチームとしてのキャリアも浅いところがほとんどである。週で5日、2試合ずつの練習試合を組んでいるというところでは、8月だけで30~40試合もこなしているところもあるというが、それでも指揮官も、「このチームで何ができるのか」ということを試しつつ、新たに起用する選手に関しては、「この選手は何ができるのだろうか」といったことを試しつつ試合をこなしていく。だから、予定していた試合が雨などで流れると、やはり予定が狂ってしまうということもあるようだ。

 そういった中、試行錯誤を重ねながら夏へ向けてチームを仕上げていく。片倉も、夏に勝つために、1日を大事に。一歩ずつ積み重ねながら片倉は上位に勝ち上がるチームを目指していく。

(取材・写真=手束 仁


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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