Column

県立松山東高等学校(愛媛)

2015.07.15

変わり、葛藤し、前を向き、再び目指す聖地

 甲子園のアルプススタンドが緑に染まり、「がんばって、いきまっしょい!」が青空に響き、純白の「MATUYAMA」ユニフォームが地を舞ったセンバツから約4ヶ月が経過した。現在は昨年決勝で愛媛小松の前に涙を呑んだ「あと1つ」を突破し、松山商との統合チームで全国制覇を果たした1950年以来、65年ぶりの夏の甲子園を目指す松山東センバツ1勝から今までの軌跡をたどっていきたい。

新コーチ2名と新入生で「変わった」練習

今年4月から就任した関本 祐太コーチ(左)と辰野 裕康コーチ(右)(県立松山東高等学校)

 サッカー部やハンドボール部に囲まれた放課後。19時すぎまでの完全下校。朝の外野ノック。「センバツでできたことを色づけする」外部トレーナー・川中 大輔氏によるトレーニング指導。パッと見るとセンバツ前から変わっていないように見える松山東の練習。しかし、よく見ると大きな変化が内部には生じている。1つは4月から加入し選手たちと共にトレーニングにも取り組む2人の若き「OB新コーチ」である。

 1人はセンバツ時から帯同。今年度から新卒で講師として母校に赴任した辰野 裕康コーチ。
「4年前の自分たちには考えられなかったこと。甲子園に出られるだけでもすごいのに、勝つなんて想像がつかない世界でした」
と笑う辰野コーチは現役時代捕手。福岡大スポーツ科学部では1学年上の梅野 隆太郎(現:阪神タイガーズ)(2013年インタビュー)らが活躍する硬式野球部を横目に、自らは準硬式野球部で研鑽を続けてきた。2年生捕手の川合 晃平(175センチ63キロ・右投右打・松山市立拓南中出身)も「年齢も近いし、接している時間も長い中でスローイング時のステップやキャッチングの基本を教えてくれる」と日々技術を高めている。

 一方「自分たちの時代は甲子園への現実感がなかった。うれしい反面、うらやましさを持ってセンバツを見ていたら、異動になりました」と語る関本 祐太コーチは、「1年上の横山 祐輔さん(昨年までコーチ・現在青年協力隊でサモア赴任中)が残してくれた泥臭い野球をやってきた」2004年には内野手・投手として春季愛媛県大会の優勝に貢献。筑波大卒後は山口県体育協会・愛媛県教育委員会・そして大洲農業での2年間を経て、4月から通信制に赴任している。

「集中力があるし、なりたい像ははっきりしているが、行動がまだまだ伴っていない。朝練習・自主練習の質が低い。全体の底上げをするにはそこが必要だとまず感じた」関本コーチ。そこで朝練習の外野ノックは、自らがトスをして、ロングティーは選手が打ち、それを外野手が捕球し、その様子を見て指導していく方式に変更。わずか選手10人で今春に県大会進出を果たした大洲農での部長経験を踏まえた「技術を正しく教えれば選手が伸びるし、やれることをしっかりやれば結果が出ることがわかった」指導によって、練習効率と目的意識は飛躍的に上がっている。

 一方、「東海大四の前日に僕が打撃投手をしても全く打てなかったのに、翌日になったら打てるような集中力がある。1番の清水 智輝(3年・右投左打・173センチ73キロ・松山市立西中出身)もずっとアウトローを投げて打てなかったのに、翌日は大沢 志意也くんのアウトローを打ちましたからね」と、センバツ2回戦のエピソードを語る辰野コーチは、関本コーチと共にメンタル面等のケアも担当。「センバツ時から(堀内 準一)監督とも話していたんですが、試合に出ていない選手の沈み方を、学校にいる中でいかにかかわれるかが大事。僕の時代もそうだったと思うんですが、上品にやって殻を破れないところがある。『当たって砕けろ』の部分を出していきたいですね」と話す。

 そして練習の空気も変わった。「おっしゃぁ!」と言いながら笑顔でキツイはずのトレーニングをこなす雰囲気を作っているのは……実は「文武両道でかっこいいと思って入学を決めた」(岩田 和大・松山リトルシニア出身)などの1年生である。

「先輩たちが甲子園に出て行く過程を知って入学しているから覚悟を持ってやれている」と堀内監督も目を細める彼らの横綱・今大会でベンチ入りを果たした青野 遥斗(1年・捕手・右投右打・168センチ71キロ・松山市立内宮中出身)も「他校に比べて元気のよいところでいい雰囲気を作っていきたい」とその自覚は十分である。


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[page_break:2年生に求める「成長」とチームの「葛藤」]

2年生に求める「成長」とチームの「葛藤」

選手たちに話をする松山東・堀内 準一監督(県立松山東高等学校)

 このように確かな変化が見られる松山東。堀内監督はもう1つのキーを2年生に求めている。
 

センバツセンバツで終わったこと。春夏連続甲子園へのプレッシャーはないんですが、闘争心があった昨年と比べて、なにがなんでも夏の甲子園に行く「ガムシャラ」になりきれていない時期もありましたし、愛媛大会を勝ち抜く上で自信がない部分もある。そこには厳しさが必要になりますし、そこが夏の勝敗を分ける部分にもなると思いますので、勝った経験しか知らない2年生には特に厳しく当たっています」

 実は2年生22人はセンバツ後、堀内監督とのミーティングで「次のチームのキャプテンは誰だ?」と問われ、誰も手を上げられなかった苦い経験も持つ。
「2年生は人数が多いので1人1人が隠れてしまっている部分がある。そうならないように姿勢を見せることで1年生に示していきたい」。センバツでは7番・右翼手の山田 大成(2年・右投左打・165センチ58キロ・東温市立重信中出身)も危機感をあらわにしている。

 さらにセンバツ今治西との四国大会代表決定戦でいずれも最後の打者になった悔しさを糧に、背番号「5」を今大会背負う竹中 湧(2年・三塁手・174センチ72キロ・松山市立久米中出身)も同様。「大事な試合で打てなかったからこそ、縮こまるのではなく中心になれるように。打撃でアピールしたい」と意気込む。

 ただし……。実はこの間、松山東は大きな葛藤も経験してきた。5月中旬・宇和島南との練習試合。絶対エース・亀岡 優樹(3年・170センチ73キロ・右投右打・東温市立重信中出身)が登板したにもかかわらず、守備にミスが頻発し敗戦。そして亀岡は試合終了後、ストレッチポールを持ち、涙ぐみながら、そっと仲間のいない場所へ消えていった。


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[page_break:葛藤を超え、「本当の全員野球」で夏に挑む]

葛藤を超え、「本当の全員野球」で夏に挑む

練習を終えグラウンドに挨拶する松山東(県立松山東高等学校)

「内外野の守備でミスが起こって負けた試合でした。そこでも亀岡は責任感を持っていることを僕は話もしているので、みんなも知っていると思っていたんですが、みんなに試合後のミーティングで聞いてみると意外と知らなかったんです。『淡々とやっている』と思っていたみたいで。そこを1ヵ月半前に気づけたのはよかったと思います」
 

「自分でアウトを取るしかない状況に陥ってしまったんで……」と、多くを語らない亀岡を代弁して主将・米田 圭佑(3年・捕手・183センチ86キロ・右投右打・松前町立岡田中出身)が当時の状況を語る。

 この出来事は松山東の意識を劇的に変えた。

「亀岡さんはすごい投手なので、ピンチの時には頼ってしまう部分があった。亀岡さんが頑張っている分、エラーはできないし、3年生のためにも自分の力をチームに還元したいと思えるようになりました」と話す、一塁手の山田 海(171センチ62キロ・右投左打・松山市立拓南中出身)ら2年生も、「たまに亀岡さんのボールを受ける時も含め、チームのために何ができるかを考えるようになった」(青野)1年生も、「チーム」をより重く考えるようになったのである。

 そして迎える7月15日。松山東の夏がやってきた。

「本当の意味での全員野球をしていこう」(関本コーチ)
「東高生としてグラウンド外の部分を磨いて、よりよい大人になろう」(辰野コーチ)
そんなコーチたちの夢を胸に込め、「前向きになれるように『ここがいいよ』という言葉を入れている」3年生マネジャー・青野 輝那森脇 夢からもらったメッセージも心に入れて。

「夏のチームテーマは『1回戦から泥臭くチャレンジ』。みんなで1球1球必死になって勝ちにこだわります。でも主将として背負うものは背負って、勝ちきらないと甲子園にいけないと思っているので、支えてくださる皆さんのためにも甲子園に連れて行きたい」(米田)

「やりきること、自分の力を出し切る。それができれば勝てると思っていますし、エースの責任を持ってもう1回甲子園に出る」(亀岡)

 そんなバッテリーの気持ちを3年生11人(選手9人・マネジャー2人)、2年生23人(選手22人・マネジャー1人)・1年生15人(選手15人・マネジャー2人)でカバーし、支えあい、出し切る戦いが、[stadium]坊ちゃんスタジアム[/stadium]で始まる。

(取材・写真=寺下 友徳


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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