Column

県立東播磨高等学校(兵庫)【後編】

2015.07.12

 後編では福村 順一監督に加古川北からウリにしてきた機動力野球の中身について迫っていく。

走塁に不可欠な「限界」を知るために

福村 順一監督による走塁指導の1コマ(県立東播磨高等学校)

「何か特徴を出さないとだめだと思います。オーソドックスな野球を普通にやっていては、うちのような公立のチームは甲子園には行けない。やはり必殺技を持っておく必要がある。うちの場合、それはやはり走塁ということになります」

加古川北時代と同様、東播磨でも走塁力を前面に押し出した野球を展開していきますか?」という筆者の質問に福村 順一監督はそう答えた。

「走塁で大切なのは『本当の限界』を知る事です。でも新チーム結成当時はリード幅ひとつとっても、限界とは程遠い小ささでした。でもきちんと練習を繰り返せば、限界リードはとれるようになる。加古川北の教え子たちもそうでしたが、東播磨もそんなに脚力に恵まれた選手はいません。だからこそ、盗塁を成功させるためには、自分にとっての限界リードを正しく把握し、実際に本番でもそのリードを迷いなくとれる技術が必要になってきます。そのためには失敗ができる環境を用意してあげることが不可欠です」

 福村監督が率いていた加古川北の練習試合を見る機会が過去に幾度もあったが「なんでこんなに牽制死が多いの…?」と驚かされることが少なくなかった。しかし、それは「実戦で失敗してこそ限界把握にたどりつける」という方針・考えが徹底されていたため。東播磨でもこの方針は浸透しており、限界に挑戦してのアウトが責められる空気はベンチに存在しない。進化のための失敗を積み上げながら、チームの限界リード力は新チーム結成時とは比べ物にならない程に向上していった。

「限界リードを各選手が取れるようになったことで、相手にプレッシャーをきっちりかけられるようにもなってきた。去年に比べたらかなり上達しましたね」

 グラウンドの内野部分では走塁練習が始まっていた。最小限の膨らみでベースを蹴る練習、盗塁時のスライディング練習、一塁への帰塁練習、ゴロゴーに備えての三塁走者のシャッフル練習などが同時進行で効率よく行われていた。
加古川北時代もすぐにベースがだめになりましたが、東播磨でもベースの消耗が激しいんですよね…。先日もベースがだめになったので、新しいものを2セット補充したところなんです。改めて思いましたよ。よくベースを使ってるんだなぁと…」

 苦笑いを交えつつ、しみじみとそう語った福村監督。ベースの消耗ペースは間違いなく全国トップクラス。そしてベースの消耗頻度に比例し、着実に走塁力も全国クラスをうかがい始めている。


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[page_break:加古川北生まれの革命スライディングとは]

加古川北生まれの革命スライディングとは

「抜くスライディング」の練習場面(県立東播磨高等学校)

「ベースの上で抜け!」
盗塁時の二塁へのスライディング練習をしていたある選手に対し、そんな声が周囲から飛んでいた。「ベースの上で抜く」とはいったいどういうことを指しているのだろうか。福村 順一監督に訊ねてみた。

「今年から、盗塁時のスライディングの際は、伸ばした方の足をベースに入れていくのではなく、伸ばした足をベースの上を通過させ、曲げた方の足のヒザでベースをひっかけていくスタイルのスライディングに取り組んでいるんです。右足を伸ばしてスライディングをするタイプの選手であれば、右足をベースの上で通過させ、左ひざをベースに入れていく形になります。ベースの上を通過させる際に足を上げすぎると危険が伴うので、ベース上ギリギリのところを通過させていきます」

 よくよくスライディング練習の様子を観察していると、確かに伸ばした方の足がベースの上を通過している。福村監督によれば、踏切位置がベースに近くなり、滑っている時間が短い分、早くベースに到着できるのだという。

「ベースからトンボ一本分の地点で踏み切るよう、指示しています。スライディングという行為は、滑る動作が長いと、その分、減速してしまう。イメージとしては滑るというよりは『ベース地点で一瞬しゃがんでいるだけ』という感じです。どれだけ減速せずに滑れるかということを追求していったところ、このスライディングに行き着きました。しかし、速いけど、踏み切り地点がベースに近い分、ケガにつながりやすいスライディングでもあります。しっかりと練習でものにしておくことが大切です」

「実はこのスライディングは加古川北時代に選手たちから教えられたんです」と福村監督。
加古川北の選手たちは『もっと減速せずに滑る方法はないか?』ということについて自主的に考えて追求する選手が多かったのですが、研究を続けるうち、速く滑れる選手たちのスライディングが『ベースの上で伸ばした足を抜く』スタイルに変化していった。そのスライディングを今、東播磨の選手たちに伝えているんです」


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[page_break:夏への課題、そして目標]

 革命ともいえるスライディングについて山田 歩夢主将に話をうかがった。
「最初はびっくりしました。そんなスライディングが世の中にあるのかと。試合で使えるレベルに持っていくのに一ヵ月くらいかかりましたが、おかげで今までだったらアウトのタイミングの時でもセーフになることが増えています。夏に向けての心強い、チームの向上ポイントです」

夏への課題、そして目標

福村 順一監督による走塁指導の1コマ(県立東播磨高等学校)

「僕が監督をしていることで、相手チームは加古川北と同じような野球をしてくると警戒してきます。でも今のうちはまだ精度が低く、その警戒度を超えられていないという現状はあります」と福村監督。

 どういった点が課題として残っているのだろうか。
「走塁に関して言えば、限界リードやスライディング、ベースランニングといった要素は昨年のことを思えば格段に進歩しました。あとは打球判断、状況判断といったアドリブが要求される部分がまだまだ甘い。盗塁のスタートにしても、ピッチャーが動き出してからスタートを切ったのでは遅いんです。

 ピッチャーが動き出す前にホームへ投げるという確信を得て、スタートが切れる世界を手に入れられるかどうか。ここが手に入らなければ、相手の警戒網はなかなか超えていけない。今の3年生にとってはやはり時間が足りなかったのかもしれないのですが…」

 少しの間があった。福村監督は続けた。
「でも、時間が足りなかったとしても、そんな中、全員が着実な成長を見せてくれた。そこの部分には僕自身、ものすごく敬意を表しています。今までやってきたことを、この夏、目一杯発揮してほしいです」

 山田主将は言う。
「まずは1勝。一戦必勝で目指すは兵庫県でベスト16です。自分たちが取り組んできた東播磨の野球を存分に発揮し、思い切りよく戦いたいです」

東播磨は、11日に兵庫大会初戦で北須磨に3対4で惜敗。それでも、福村監督から教わったことを存分に出し切った東播磨ナイン。3年生の叶えられなかった夢は、後輩たちへと託された。新チームがすでにスタートした東播磨は、次なる戦いに向け、さらに強いチームへと成長していく。

(取材・文=服部 健太郎


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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