Column

加茂暁星高等学校(新潟)

2015.07.11

 2009年の甲子園準優勝2014年の甲子園ベスト4という実績を誇る日本文理を筆頭に、甲子園出場経験豊富な中越新潟明訓、さらにここ数年県内で好成績を収め、甲子園未出場ながら注目を集めている北越など、近年、新潟県の高校野球を私学が牽引している。だが昨年、この勢力図に新興校が彗星のごとく名乗りを上げた。

 新潟県の真ん中にある人口約2万8000人の加茂市を拠点にする加茂暁星昨年秋、部員わずか11人ながらノーシードから勝ち上がり、準々決勝にサヨナラで惜敗。今春も、準優勝した新潟県央工業に敗れたものの、群雄割拠の新潟高校野球界で2大会連続ベスト8という好成績を収めた。ここ10年、目立った成績を残せなかった同校が、「甲子園を目指す」ことが夢物語ではなくなった秘密は何か?同校関係者のインタビューから解き明かしていこう。

加茂暁星を強くした押切監督の存在

試合間(加茂暁星高等学校)

 加茂暁星躍進の原動力としてまず挙げられるのは、押切 智直監督の存在だろう。今春、激戦区神奈川県において公立校ながらベスト4に進出した市立橘でコーチを務め、同校のエース・寒水 晃大(3年)、肥後 洋輝(3年)、福田 耕平(3年)らを指導してきた同氏が、加茂暁星の監督に就任したのは昨年の春だった。

「僕は神奈川の人間なので、正直なところお話をいただくまで、加茂暁星のことは全く知らなかったんです。前任校ではずっとコーチをやっていて、加茂暁星から監督としてオファーをいただいたので、新潟にも縁は全くなかったんですけど、移り住みました。新潟=寒いイメージしかなくて、新潟の高校野球も全く分からなかったですね。実際最初に選手を見た時は驚きました。いいボールを投げる選手もいましたが、そもそも人数が少ないし…」

 そんな監督が就任後最初に取り組んだのは「意識の改革」だという。

「まず変えようと思ったのは『意識』ですよね。技術は1日でよくなるわけでもないから、まずは物事に取り組む姿勢を重点的に教えました。とにかく諦めないということを根付かせたかった。1つのことに対して、自分が思ったことと違うことが起こってしまうと『もうダメだ』となることが見受けられたので、それは違うんだぞということを教えています。具体的には…言葉で説明するのは難しいですね(笑)。

 でも、よく話すのは、野球のことではないんです。これからの社会に対してのこと。高校野球って2年半じゃないですか。18で社会に出たら、平均寿命まで60年位ある。『もうダメだ』って諦めてばっかりだったら、人生いろんなことがあるわけだからうまくいかないよって。『人生プラス・マイナスゼロだよ』というような話をしています。マイナスが10あったら、それだけのプラスがあるんだからしっかりやりなさいと」

 現主将の北澤 樹(3年)も、押切監督就任で意識が変わったという。
「僕は、森山 涼(3年)と近藤 拓郎(3年)の加茂中の3人で、『暁星を強くしよう』という目標を持って入部しました。2年生になって監督がかわって、練習も厳しくなりました。押切監督はグラウンドだけでなく生活態度を重視しますし、まずいプレーや気が抜けたプレーをすると、ガツンと言われます。間違いなく意識が変わりました」


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[page_break:昨秋、11人ながらベスト8進出の要因は、意識改革]

昨秋、11人ながらベスト8進出の要因は、意識改革

イニング間(加茂暁星高等学校)

 意識改革と同時に行ったのは、守備の強化。昨夏の大会に敗れ、部員11人と少人数ながら新チームを始動する時に、監督自身が自ら選手を見て、適正を見極め、大胆なポジションチェンジを行った。
「打つ方は波があるので、技術的には守備を重点的にやりました。守りの配置も一気にガラッと代えましたね。指導者によって、選手の適正を見る目が違うと思うんで。例えば、キャッチャーを外野にしたり、セカンドがショートになったり。練習を見て決めました。選手の戸惑いは…僕の見えないところであったんじゃないですかね(笑)。

 グラウンド上ではそれを感じませんが、少なからず選手にはあったと思います。守備練習にしても、(連携など)全てを覚えるというのは難しい。だから、ポイントを抑えて『こういう場面ではこういうふうにしよう』と決めてやってました。打撃も、とにかく打てないので、しっかりとランナーを進めるような練習をしていましたね。バントとか。ただバントするんじゃなくて、内野を守備につかせて、プレッシャーをかけながら、試合になったつもりでやる。ランナーがどこにいるのかによって対応は変わってくるわけですから、ケースごとにやっていましたね。

 練習でも、試合でも僕の教えたことしかやらせていないですね。難しいことはやらせず、自分のできることを当たり前のようにやる。難しいことをやってもなかなかできないんで、すごくシンプルにやっていますね。シンプルが一番いい練習になるんです」(押切監督)

「意識改革」と基本に忠実な「守備」の強化。エース・森山 涼の自立と、11人の部員が一丸となった結果、秋の大会ベスト8という結果となって表れた。

「この戦力の中でベスト8というのは出来た方かなと思います。けが人がいて、実際は10人でやっていたので、采配的には非常に苦しかったですね。少人数だからこそ、何も出来ないという(笑)。でも逆に開き直れましたね。
もちろん、森山というピッチャーがいてですが、森山で勝つわけではないですし、皆が必死になってやった結果だったと思います。森山に関しては、新チームになって『俺がやらないと』という自覚は出てきたかなと思います。

 ただ、ベスト4を懸けた試合では、うちの弱さが出ました。そこまでのことを教えていないので。そこそこうまい子もいれば、出来ない子もいる。そんな少ない人数の中でもここまでこれたということは、彼らにとってもすごく大きな経験だったと思います。実際ベスト8という、『もう少し頑張れば上を目指せるんだ』というポジションのところまできたので。現実が見えてきたと思います」(押切監督)

「甲子園」という目標が手に届くところまで見えてきた中で、冬場を迎えた。雪の影響でグラウンドが使えないこの期間、今度はバッティング練習に費やした。そしてその結果は、選手自身も自覚が出るほど目覚ましい成果を上げた。

「冬場は、筋力トレーニングと、『振る力』を意識しました。とにかく上半身の力がないことをすごく感じたので、とにかくバッティングを強化しましたね。よく指導者の方は『下半身を鍛えろ』って言われますけどそうではなく、バットを振ることを意識させました。例えば、素振りってあくまでスイングであって、野球はバットにボールを当てなければいけない。そこが大事なので、うちは素振りはやらせていないんです。ティーバッティングをすれば、毎回同じポイントにボールはいかない。

 一球一球ポイントが少しずれるんです。だからそれに対応することが、実戦につながってくる。実際その効果は出ていると思います。外野の定位置に飛ぶのがやっとだった子が、フェンスまで持っていけるようになったり。
投げるのも打つもの腕の力が必要なので。ピッチャーも含めて全員にバッティングをやらせていましたね」(押切監督)


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[page_break:能力が高い1年生が入部し、活気が生まれる]

能力が高い1年生が入部し、活気が生まれる

粟屋 麗選手(加茂暁星高等学校)

「冬場の練習は厳しかったです。少人数な分、一人一人の練習をお互いにしっかり見て、お互いの悪いところを話したり、声をかけたりしていました。バッティングの力はついてきましたね。春に遠征に行ったんですけど、明らかに打球の質が変わっていて。試合でも冬場でやってきたことを発揮することを考えています」(北澤 樹

「冬場は追い込みました。昼休みに柔道場に集まって、座った状態から綱登りをしたり。上まで行ってそこで懸垂をして降りるというのを、毎日5本をノルマにしたり。最初はきつかったですけど、今は余裕ができてきたので、力がついてきたのかなと思います。ピッチングじゃないんですけど、県外に遠征したときに初めてホームランを打ったんです(笑)。冬場の練習でリストが、強くなったのかなって思いました。ピッチングの方は縄跳びの2重跳びを500回やるなど、『腕の振り』を意識した練習をやってきました」(森山 涼

 厳しい練習を乗り越え、春には有望な新入部員が入部。部員の数も増え、チーム内の競争が激化したことで、上級生にもいい刺激が生まれた。中でも、Kボールの新潟選抜にも選ばれ、春から4番に座る遠藤 莞生(1年)は1年生ながら早くも4番の風格が漂う。

「1年生は、最近まで中学生だったのでまだまだですけど、能力が高いので、上級生にいい影響をもたらしていると思います。上級生も負けていられないという気持ちがあるから、チーム内の競争が生まれていますね」(押切監督)

「1年生が入ってきたことで、チーム内の活気が生まれましたね。今まで少人数だったので、まとめるのは大変なんですけど(笑)。いい意味で、そこまで上下関係も厳しくなくやっています」(北澤)

「前よりは競争という点でよくなりましたね。今まで居残り練習しなかった選手が、練習したりしています」(森山)

「押切先生に声をかけてもらって、自分を一番必要としてくれている学校だと思って加茂暁星を選びました。4番を打たせてもらっていますが、まだまだ4番という器じゃないと自分では思っています。3年生もすごく優しいし、上下関係もそこまで厳しくないので、すごく練習がやりやすい雰囲気ですね。監督ともお話して、自分は将来的には、本塁打が打てるバッターになりたいと思っています。夏も4番で使って頂けるなら、4番としての仕事をしないといけないですし、守備面でも森山さんを助けられればと思っています」(遠藤)

 冬場の厳しい練習に耐え、“押切イズム”が浸透した上級生と、高い能力を持った新入生。この夏、部員一丸となって同校初の「甲子園」出場を目指す。

「(6月の取材時)残された時間で、選手たちには、やれることをしっかりできるように技術を上げてもらいたい。そして僕もどの選手がどういうことができるのか、ちゃんと把握しなければいけない。なので、練習試合ではとっかえひっかえいろんなことをやっています。練習から常々言っているのは『1試合1試合を大事に戦おう』ということ。やるからには、もちろん甲子園を目指します。そして、全国の人に『加茂暁星』という学校があることを知ってもらいたいですね」(押切監督)

 初戦は7月13日。加茂暁星の名を全国に知らしめる大会となるか。勝負の年となる。

(取材・写真:編集部


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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