Column

東京成徳大学深谷高等学校(埼玉)

2015.06.28

「17人で挑む最後の夏〜根拠のある奇跡を〜」

 今春の関東大会浦和学院が二季連続関東大会優勝を決めた。投打の総合力が高く、さらに安定した試合運びに王者の貫録さえ感じさせ、春夏連続の甲子園出場へしっかりと標準を高めている。さらに各校のレベルは高まっており、今年の埼玉は混沌したものとなっている。

 そんな中、選手17人でこの夏、甲子園を目指して挑むのが、春季埼玉県大会で強豪を次々と破り、ベスト4に進出した成徳大深谷である。彼らは昨年4月に野球部の練習グラウンドを失った。そして野球部希望の生徒を勧誘しなかったこともあり、この17人はすべて3年生である。普段は公共の球場やバッティングセンターを借り、練習場所を点々とする毎日。

 グラウンドがあるのが当たり前だった環境から一変して苦しい環境の中でも春季大会、チーム歴代最高のベスト4の成績を残した要因、チームの現状について、選手、泉名智紀監督が話す「根拠ある奇跡」を起こすには何が必要なのかを語っていただきました。

根拠のある奇跡を

有賀洋志トレーナーの話を聞く選手たち(東京成徳大学深谷高等学校)

「『数が勝負だ』って言えなくなっちゃったのはホント辛いですよね。グラウンドがあればいろんな時間も取れる」
こう語るのは、成徳大深谷を率いる泉名 智紀監督。実は昨年、野球部のグラウンドとして使用していた土地を諸事情で返さなくてはいけなくなったため、現在グラウンドが無い。練習は、各地の球場やバッティングセンターを借りたり、練習場所が無い日は、砂利の駐車場の上で行うこともある。

 これまで泉名監督は選手に、「量より質。でも質は量からしか生まれない」ということと「高校野球に奇跡は無い」ということを口すっぱく伝えてきた。その考えを根底から覆されてしまった今、どのような指導を行っているのか。

「グラウンドも無いですが、生徒は一生懸命やっていて。どういうところを目指すんだって話し合いをしたら『甲子園に行きたい』と。だから『根拠のある奇跡を起こそう』ということをテーマに取り組み始めました」

「根拠のある奇跡を起こそう」を合言葉に、選手達は春季大会で勝ち進む。
春季大会ベスト4で決して満足をしている訳ではないんですよ。高校野球なんだから1番にならなかったら、2番も最下位も一緒だと。甲子園に行けるのは1番だけ。
とは言うもののベスト4はうちの中で過去最高の成績なんで、良い意味で雰囲気が変わったのかもしれない。せっかく自分たちで勝ち取ったベスト4だから、それに値するチームであったり、値する人間になれるかどうかが大切です」

 選手たちは1分1秒でも無駄にできない。練習場所へ移動する際のバスの中では、練習内容を決める選手の真剣な顔があった。
監督自らバスを運転しながら、選手たちの話し合いに耳を傾ける。

 練習に向かうバスでは、これまでの試合や課題に対して、なぜできなかったのかを全員で徹底的に話し合い、帰りのバスでは、1日の反省を話し合う。限られた練習時間を精一杯使って、今自分たちにできる最大限の努力をしていた。練習終了後には、学校で有賀 洋志トレーナー指導のもと自分たちで工夫して作られたトレーニング用具で汗を流す。17人が声を掛け合いながら徹底的に鍛え抜いてきた。

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僕らの熱い夏 2015
第97回全国高等学校野球選手権大会
【ひとまとめ】2015年の全国各地の高校野球を占う!
[page_break:新チームのテーマは「愛」相思相愛の監督と選手たち]

新チームのテーマは「愛」相思相愛の監督と選手たち

高橋 滉斗主将(東京成徳大学深谷高等学校)

 毎年新チームが発足される際には、その年のテーマを選手が考えることができる。今の3年生たちが考えたテーマは「愛」だった。監督や選手たちは、しきりに「愛」の言葉を発していたが、その理由はすぐに分かった。

 練習中は、選手には厳しい言葉を投げかける姿が印象的な泉名 智紀監督だが、選手がいないところでは常に選手のことを考えている。
「グラウンドが無くなった上に、こんなに怒られてたら可哀想だなと思うくらい怒っている。でも、うちは伝統的に、怒られたやつが活躍する」
そう言って選手たちを見守る姿は愛情に満ちている。

 一番怒られていると監督から名前が挙がったのは、高橋 滉斗主将。
「この仲間と一緒にやってきて、辛い日々や悔しいときもありました。でも選手17人で支え合ってきて、仲間想いの選手ばかりで熱い気持ちになります」
バスでの移動中に率先してメニューについて話し合い、プレー面では言葉だけではなく自分の姿で選手を引っ張る。

練習を見守るマネージャー(東京成徳大学深谷高等学校)

 選手を一番近くで支える女子マネージャー2人も、チーム内の愛情を感じるそうだ。特に印象的だったのが、3年生のマネージャー・高橋 沙耶さんが、選手の口から聞いた言葉であった。
「グラウンドが無いっていうことは自分たちで分かっているけど、グラウンドの手配を周りの人がやってくれているから、グラウンドが無いってことはあまり気にならないよな」

球場への移動の際に、選手達の何気ない会話で出た言葉だそうだ。日頃から些細なことでも感謝の言葉を口にする成徳大深谷高校ナインらしい本音である。

 また愛情に溢れているのはチーム内だけではなかった。先日の春季大会の時に、グラウンドの事情を知った他の学校のファンがたくさん声を掛けてくれたのだとか。誰かにエネルギーを与えられるとか勇気を与えられるのなら、こんな嬉しいことはないと泉名監督は笑顔で振り返る。

 チーム内での愛も、支えてくれる周りの愛も全てが選手の力となっている。そんな成徳大深谷高校は、どのようにして夏を戦い抜くのか。

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[page_break:二流魂を培って相手に対応し、自分たちの野球を]

二流魂を培って相手に対応し、自分たちの野球を

マウンドに集合するナイン(東京成徳大学深谷高等学校)

「『自分たちの野球をやるだけです』という言葉はよく聞きますが、自分たちの野球をやるだけじゃなくて、相手に対応して自分たちの野球をやらなくてはなりません。うちは決して一流ではありません。そうしたら相手に対応しないと、自分たちの力を出し切るだけじゃ一流に勝てません。二流魂を培って相手に対応して野球をやっていこうと思っています」(泉名 智紀監督)

 チームの現状に満足している者は居ない。どの選手に話を聞いても、夏へ向けた課題を口にする。
エースの落合 大地投手は、春季大会ベスト4に満足していなかった。
「先頭の立ち上がりがチームとしても個人としても課題です。夏の試合への準備をしっかりしたいと思います」

 春の経験をどう夏の大会に繋げていけるかが一番の課題だ。
17人しかいない中で、春の大会では一丸となって戦えた部分があったので、このメンバーで戦えることを自分たちで実感したはず。もう一皮二皮むけていくかというところが課題かと思います、と上原子 祐樹コーチ。

 また、埼玉の上位3校(浦和学院川越東聖望学園)に比べると力の部分で足りないところがある、と指摘するのは有賀 洋志トレーナー。冬季は「塁間のスピード」と守備力を上げるための「フットワーク」を磨き、現在は夏の大会に向けてさらなるパワーアップを試みている。

「1人1人の本気さ」が最後まで勝ち進むためには必要になってくる。「根拠のある奇跡」を持って甲子園出場を目指す成徳大深谷ナイン。グラウンドを失って、辞めた部員は誰もいない。3年生の選手17人、監督、コーチ、トレーナー、マネージャー2人の合計22人で挑む最後の夏。最激戦区の埼玉県の熱い夏は、もうすぐ始まる。

7月12日に初戦を迎える成徳大深谷のオリジナル動画も7月1週目に「僕らの熱い夏」にて公開予定!お楽しみに!

(取材・文=佐藤 友美

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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