Column

上宮高等学校(大阪)

2015.06.27

 上宮といえば、元木大介氏、現在、カープで活躍する黒田博樹投手など多数の野球人を輩出。甲子園でも1989年選抜準優勝1993年選抜でも優勝を果たすなど、全国屈指の名門と呼ばれた時期があった。しかしその後は甲子園から遠ざかり、長い低迷期を迎えていた。そんな中、今の上宮を立て直そうとしているのが、同校OBの村田 侑右監督である。いかにして名門を立て直そうとしているのか。

浪速と縁深い熱血漢の新監督

練習をみつめる村田監督(上宮高等学校)

「気持ちぐらいしか伝えられませんので」
上宮で指揮を執る20代の青年監督の言葉には現役時代と同じかそれ以上の熱が込められていた。

 昨年8月末に就任した村田 侑右監督は自身も上宮OBで現役時代はキャプテン、溢れる闘志でチームを引っ張った。3年春(2004年)には履正社を破り夏も期待されたが、3回戦で浪速に大敗。指導者としてもう一度甲子園を目指すべく大学4年時(関西学院大)には教育実習で上宮を選び、さらに「勉強もしっかり出来なあかん」と大学院にも進学。卒業後は満を持して母校に戻るはずだった。が、タイミングとの兼ね合いもあり色よい返事をもらえず。

 たまたまその時期に募集をしていた浪速を、飛び込みに近い形で受けると採用され、いきなり部長を任される。浪速池澤和宏監督は「気合入ってるやつおったな」と4番・ファーストで出場していた血気盛んな村田監督の現役時代を覚えていた。しかも、いずれは間違いなく上宮に戻り敵になるであろう新米指導者にも、長年かけて培った知識と経験を惜しみなく伝えてくれた。

 浪速の野球は格下相手に取りこぼすことがほとんど無い。準備を怠らないからだ。ノックでは次に使う球場の太陽の向きに合わせて、時にはセンター方向からフライを打ち上げ、投手陣のブルペン投球では高めの球も練習させる。低めをとらない審判に当たった時でも対応出来るようにするためだ。レギュラーの座をつかむためには状況に合わせた数種類のバントをマスターすることが必須条件で、球場に着けば真っ先に風向きを確認させるなど、徹底的に準備に時間を割く。

 そんな池澤監督を慕う若手監督は非常に多い。浪速の部長として2年間、カバーリングやベンチワークなど準備の大切さを学んだ上宮の元キャプテンは、2013年4月に教育実習の期間を除けば8年ぶりとなる母校のグラウンドにコーチとして復帰。それから1年4ヶ月後、新チームが始動してちょうど1ヶ月、秋季大会を目前に控えた8月の終わりにいつもと同じくグラウンドで吠えていると、突然監督就任の知らせが届いた。

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[page_break:悪しき習慣を断ち、受け継がれてきた伝統を守る]

悪しき習慣を断ち、受け継がれてきた伝統を守る

上宮と上宮太子の予定表が書かれたホワイトボード(上宮高等学校)

 新監督として迎えた最初の公式戦は3回戦で姿を消した。しかも敗れた相手は奇遇にも浪速。選手として甲子園の夢を断たれ、指導者としてのいろはを教わった相手に、監督としても最初に苦杯を飲まされた。突然の監督就任からわずか2週間、池澤監督に叩き込まれた”準備”をするにはあまりにも時間が無さ過ぎた。ただこの頃の上宮には戦う以前の問題が山積みだった。グラウンドで歩き、練習中にしゃべる。靴を並べることもなく、部室は落書きだらけ。

 監督となって最初のミーティングでは「当たり前のことを当たり前にやろう、心の野球をしていこう」ということを長い時間をかけて部員に説く。村田色は野球の戦術面ではなく、部室の壁をペンキで塗り直すことから始まった。掲げるのは文武両道。土曜日も第2週以外は平日と同じく15時まで授業があり、練習は上宮太子のグラウンドを曜日によって分け合う。移動を伴うため当然ながら朝練は行えない。ナイター設備はあるが、外野の照明は十分でなく日が沈むとフライはかなり見づらい。

 しかしこの練習環境でも1980年代だけで選抜に6回出場するなど黄金期を築き、1989年に準優勝、1993年にはついに優勝を果たした。巨大戦力の中でクセ者として存在感を放った元木 大介(元巨人)、ヤンキースでローテーション投手となる実力がありながら古巣復帰を選んだ広島の黒田 博樹関連記事など多数のプロ野球選手を輩出している。選手が変わり、監督が変わり、時代が変わり、野球部を取り巻く環境が大きく変わっても先人たちから代々受け継がれてきた変わらない伝統もある。

「『上宮』というアイボリーの2文字。ユニフォームは昔から変わることなく続いてるんです」
村田監督によれば練習試合ではほとんどの試合でセカンドユニフォームを着用し、公式戦用のユニフォームを着るのはここ一番という試合のみ。「OBの苦しみや喜びがあっての2文字なので」というように特別なものだ。

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[page_break:最大の武器はつながりとまとまり / 新米監督、初めての夏へ]

最大の武器はつながりとまとまり

キャプテン・増田 麗音(上宮高等学校)

 伝統のユニフォームを身にまとった選手達は昨夏準々決勝大阪桐蔭と対戦した。結果的には、全国制覇を成し遂げる横綱に1対5で敗れることになるが、ベンチもスタンドも心一つになって戦い、6回終了時のスコアは1対1。互角に渡り合い終盤勝負に持ち込んだ。その試合で唯一となるタイムリーを放った増田 麗音(3年)は現在キャプテンを務める。

 チームの方針を「走塁に力を入れてます。1つのヒットで次の次の塁に行けるように」と話すが、登録メンバー決定直前の時期に行われたシートバッティングでも、走塁レベルは村田監督が求める水準に及ばず。急遽この日最後のメニューはフリーバッティングを取りやめベースランニングに変更された。内容は一塁駆け抜けを10本、オーバーランを10本、二塁打を5本、本塁打を3本。これでも少ない方だという。

 それも駆け抜けの後はすぐにホームを振り返り、相手がミスしていると想定し二塁にスタートを切る、オーバーランもヒットはどこに放ったのか、センターなのか、ライトなのか、レフトなのか、その打球方向に合わせて確認する方向を変えるなど、単なる体力強化のみならず、あくまでも実戦の中での動きを体に染み込ませる。三遊間への強いゴロを意識して練習に取り組んだという走力のある新田 裕樹(3年)など個々に成長の跡は見られるが、高校通算本塁打数が話題になるようなバリバリのスラッガーはいないだけに、武器となるのはつながりとまとまり。

 キャプテン・増田の他にも旧チームから内外野と投手が合計5人残りバランスはいい。特に投手陣は、昨夏も登板した永橋 翔吾(3年)、木田 裕貴(3年)に加えて新チームとなってから佐原 亘(3年)、加納 龍之介(2年)の両左腕も公式戦のマウンドを経験し、駒は揃う。マスクをかぶる柿迫 和樹(3年)は一時期野球を辞めかけたこともあったが、そういう過去があった分村田監督の信頼は厚い。平常心でどっかり構え、肩はそれほど強くないがボールの持ち替え、動きの俊敏さでカバーする。

新米監督、初めての夏へ

「心の部分は妥協せず言い続けたいところ」
ペンキ塗りから始まった村田監督の教えは挨拶、全力疾走など徐々にチームに浸透し、当たり前の基準を変えていった。野球以外の私生活についても阪井 瞭介(3年)が怒られ役となることが多いのは、周りへの影響力が大きいから。それは劣勢時、チームに活力を与え流れを変えてほしいという期待の現れでもある。

 目に見えない部分の伝統を復活させれば、次に求められるのは目に見える結果。に敗れた浪速とは練習試合で対戦し、スクイズで先制点をもぎ取る勝ちにこだわった采配と柿迫のサヨナラタイムリーでリベンジに成功している。次なる目標は昨夏敗れた大阪桐蔭か。実力差はあってもいい勝負が出来るのはすでに実証済み。大阪桐蔭のエース・田中誠也(3年)と増田、阪井は生駒ボーイズの同級生。スピードもコントロールも変化球のキレも成長していたという元チームメイトに、今度は上宮の伝統を見せつける番だ。古豪復活へ、先輩達の想いの染み込んだアイボリーの2文字を胸に戦う。

(取材・文=小中 翔太

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僕らの熱い夏 2015
第97回全国高等学校野球選手権大会
【ひとまとめ】2015年の全国各地の高校野球を占う!

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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