Column

早稲田大学高等学院(東京)【後編】

2015.06.26

 前編では木田茂監督が早大学院に就任するまでのエピソードを中心に進めていった。なんとしてでも母校の存在を知ってもらいたい。そういう思いから早大学院は着実にステップアップをしていく。後編では今年の躍進のカギを握るキーマンを紹介したい。

タイプが異なる4人の好投手で夏に挑む

左から柴田 迅投手、齊藤 慶投手(早稲田大学高等学院)

 今夏、早大学院のカギを握るのは層が厚い投手陣だ。3年生の齊藤 慶嵯峨 悠希、2年生の柴田 迅の3本柱に、1年生の若汐 航が加わり、「好投手カルテット」を形成する。タイプが違うのも強みになろう。齊藤はシンカーを操る変化球投手で、嵯峨は最速が145キロに迫る速球が持ち味、柴田は真直ぐもスライダーもキレがあり、若汐は長身の本格派右腕と、バリエーションに富む。その中で木田 茂監督がエースに指名するのが柴田だ。

「ストレートの球速表示は138キロくらいですが、質が良く、浮き上がるような伸びがあります。スライダーも低めに決まれば、そうは打たれない。フォームバランスもいいと思います。他の投手で中盤まで試合を作り、後は柴田が抑える。そんな形を描いています」

 木田監督は柴田のスライダーを生かすため、捕手に1年生の浦野 聖弥を抜擢した。「早大学院で夏に1年生がマスクを被るのはおそらく初めて」だそうだが「ワンバウンドのスライダーでも確実に止める技術がある。柴田は走者がいても安心してスライダーを投げられると思います」

 柴田も木田監督の期待をしっかり受け止めている。
「3年生の先輩投手がいる中で、そういう立場を与えられた重さを感じています。ストレートでインサイドを突き、カーブでタイミングを外しながらスライダーで空振りを取るのが、僕の基本パターンなので、本番までこれを磨いていくつもりです」

 木田監督によると「1年生の時は打たれると、地面を蹴ったりしていた」が、今は「マウンドでは笑顔を意識しています」と柴田。
「バックと信頼関係を作れるようになったのでしょう。2年生になって精神的にも大人になりましたね」(木田監督)

ちなみに柴田が本格的に投手になったのは中学1年の冬。小学校低学年の頃は投手だったが「ボールがシュート回転するので、捕手にコンバートされた」という。柴田の回転のいいストレートは、捕手での送球練習で培われたのかもしれない。

 柴田に対抗意識を燃やしているのが、昨秋今春のエースだった嵯峨だ。木田監督は
「嵯峨は自分で全て背負ってしまうところがあり、それで時おり、安定感を欠いてしまう」
と指摘する。それでも
昨秋二松学舎大附との都3回戦で延長15回を一人で投げ抜き、1点に抑えたのも嵯峨ですからね」
と、この3年生右腕にも、柴田同様に熱い期待を寄せている。

 嵯峨とは対照的に「自分の役割をきっちり全うしたい」と“大人のコメント”をするのが齊藤。木田監督は齊藤について「自分をよく分かっている投手」と評す。それは「シンカーを覚えたのは、僕の手が小さく、挟む系の変化球が投げられなかったので」という齊藤の言葉からもうかがえる。自分を客観視できるなら、試合での自分が置かれた状況も理解できよう。齊藤なら、「3イニングなら確実に抑えてくれるはず」という木田監督の計算にかなう投球をするに違いない。

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僕らの熱い夏 2015
第97回全国高等学校野球選手権大会
【ひとまとめ】2015年の全国各地の高校野球を占う!
[page_break:「3年生力」がチーム力につながる]

「3年生力」がチーム力につながる

青木 俊汰主将の話を聞く選手たち(早稲田大学高等学院)

 タレント揃いの投手陣に対し、打線は泥臭さで勝負する。
「長打力がある選手がいないので、機動力を生かしながら、ねちっこく攻めていくつもりです。特に重視しているのが第2リードで、相手ベンチから『走った』という声が出るくらいの、ギリギリのリードでバッテリーを揺さぶっていくつもりです」

 打線をけん引するのは青木 俊汰主将。木田 茂監督は
「入学したばかりの頃は精神的にも線が細かったのですが、一番成長しましたね。ウチは個性派ばかりなんですが、よく束ねていると思います」
と、リーダーシップも評価している。

 取材日は、一、三塁から得点する練習に時間を割いていた。木田監督によると「この場面からの攻撃パターンがいくつもある」という。なるほど、木田監督からのサインでスクイズ、エンドランなど、様々な戦術が実践されていたが、実は守備練習も兼ねていた。

「攻める側は好機をきっちりものにして、守る側はいかにピンチを防ぐか。そのための練習なんです。ウチは、たとえば一塁走者がランダンプレーに持ち込んで、三塁走者がその間にホームへ還ることはできても、それを阻止できない。組織的な攻撃力に比べると、組織的な守備力が今一歩だと認識しています」

 夏は柴田 迅浦野 聖弥という若いバッテリーが前面に出る。しかし木田監督は「『3年生力』にかかっている」と考えている。
「試合に出る、出ないに関わらず、いかに3年生がチームのために働き、いかにいい雰囲気を作るか。若いバッテリーが力を発揮できるかどうかも、それにかかっていると言えるでしょう」

 今夏のチームは、「4強に進出した10年夏のチームより、はるかに力はあると思います」と木田監督。早大学院は「ワセダのプライド」を胸に初の甲子園を狙う。

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僕らの熱い夏 2015
第97回全国高等学校野球選手権大会
【ひとまとめ】2015年の全国各地の高校野球を占う!
[page_break:取材後記:人工芝グラウンドでも土のつもりで練習]

取材後記:人工芝グラウンドでも土のつもりで練習

ストレッチを行う選手たち(早稲田大学高等学院)

 今年4月、早大学院のグラウンドは、緑鮮やかな人工芝に生まれ変わった。前述のグラウンド改修工事が行われていたのはそのためだ。雨さえ上がれば練習ができ、人工芝ながらふかふかで、ケガもしにくくなった。また、夏の西東京大会は例年、準々決勝あたりから[stadium]神宮球場[/stadium]が会場になるが、普段から人工芝グラウンドで練習できれば、その際のアドバンテージにもなろう。恵まれた練習環境にも映るが、デメリットもあるという。

「まず、学校の方針でスパイク着用が禁止になりました。ですから守備での踏ん張りがききません。それと人工芝はイレギュラーしませんからね。土のグラウンドより打球処理がしやすい分、守りが下手になるのでは…そんな危惧を抱いているんですよ」

 いや、指揮官の心配は杞憂に終わりそうだ。よく使い込んだグラブで二塁を守る青木主将はこう話す。
「ノックの時も、これだと土のグラウンドではセーフになるとか、常に意識していますし、人工芝捕りをしている選手にはみんなで声をかけ、指摘するようにしています」

 週に1度、早稲田大のグラウンドで練習できるようになったのも、この春のトピックスだ。早大学院のグラウンドは70×120メートルほどあるが、硬式野球部が平日の放課後に使用できるのは半面程度。むろんフリー打撃はできない。
それだけに、「平日に全面使用できるのはとても有り難いと思っています」(木田監督)

 雨の日は雨天練習場を貸してもらっているという。
「大学の高橋 広監督のおかげです。直系の早大学院からも早稲田実業のようにたくさんの選手が来てほしいと、尽力いただきまして。選手たちは早稲田大のグラウンドで練習する中で、様々ないい刺激を受けているようです。用具の整頓の仕方から選手のたたずまいまで、やはり(今春の)日本一のチームは違いますからね。今の3年生は7人、早稲田大の野球部に入る予定です」と木田監督は話す。

 そんな早大学院は、一般生徒は私服。校内は大学のキャンパスのような自由闊達な空気が漂う。その中にあってやや異質なのが野球部のグラウンド。大声で挨拶しながら全速力でグラウンドにやってくる様は、まさに昭和の高校野球そのものだ。見た目はスマートな現代っ子ながら、古き良き昭和のスピリットを持つ選手たち。早大学院の夏が楽しみだ。

(取材・文=上原 伸一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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