Column

日本大学第三高等学校(東京)【後編】

2015.06.20

 前編では衝撃のコールド負けを乗り越えた日大三ナインが冬場の練習を乗り越え、春季大会優勝を決めた。後編では、小倉野球の精髄に迫りつつ、夏へ向けての構想を明かしていく。

練習は厳しく、楽しく~小倉野球の精髄

トレーニング終わりのハイタッチ(日本大学第三高等学校)

 日大三1971年のセンバツで優勝、翌年準優勝した後、30歳になったばかりの若い監督が就任した。当時、中学を卒業したばかりだった小倉全由監督が日大三に入学したのは、まさにそんな時だった。
その当時は、多くのチームがそうであったように、問答無用のスパルタ式の猛練習だった。ある日の練習中、監督がいきなり、「お前たちと野球はやれない」と、帰ってしまった。すると部員たちは、監督のことは気にもせず、コーチと練習していたという。「恥ずかしいし、情けないんだけれども、自分たちは、監督がいない状態でした」(小倉監督)

 小倉監督自身が大人になって考えると、当時の監督は、伝統校ゆえのOBからのプレッシャー、それに若さにより、優しい言葉をかける余裕がなかった、と理解するようになった。

 小倉監督が日大三の監督に就任するのは、1997年のこと。この時期の日大三は、幸か不幸か低迷期だった。そのため、関東一の監督として実績を残している小倉監督は、大歓迎された。
「一番落ちた三高に来れて、やっただけ上がれる。偉大な監督の後では、大変じゃないですか」と、小倉監督は言う。自分の野球をやり切る環境が整っていた。

 取材日は、雨でグラウンドが使えず、室内練習場で体力トレーニングをしていたのだが、それがある意味、衝撃的だった。
グループに分かれて、ロープを上ったり、重い物を持ち上げたり、台の上り下りをしたり、縄跳びをしたり、16種類の運動を順番にこなすサーキット方式のトレーニングだ。
1つの運動は3分間。音楽が鳴り響く中、運動が始まり、曲が変わると1分間の休憩で、水分補給などをする。そしてまた別の曲に変わると、トレーニングを開始する。

 小倉監督は、一緒にトレーニングをしたかと思えば、部員のトレーニングの補助をするなど動き回る。1つのトレーニングが終わるたびに、グループの中でハイタッチをし、16種類目が終わる時には、全員が中央に集まって、ハイタッチをするなど、盛り上がる。

 一つ一つのトレーニングはきつそうだが、部員の表情は明るく、楽しそうだ。雨の日の体力トレーニングを、こんなに楽しそうにやっている光景を初めてみた。この辺りにも、強さの秘密の一端があるように思う。

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僕らの熱い夏 2015
第97回全国高等学校野球選手権大会
【ひとまとめ】2015年の全国各地の高校野球を占う!
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変化を実感した一戦

小藤 翼選手(日本大学第三高等学校)

 4月には春季都大会が開催された。2回戦から登場した日大三は、日大二大東大一試合レポート)、聖パウロ学園試合レポート)などを撃破し、準々決勝に進んだ。ただ内容的には問題が多く、「練習試合は結構良かったのですが、大会の重さかなと思いました」と小倉 全由監督は言う。

 準々決勝の相手は、左腕の好投手・大江 竜聖2015年インタビュー擁する二松学舎大付。スタメンの半分近くが左打者の日大三にとって、嫌な相手である。
試合前、小倉監督は選手たちに、「勝てなかったらどうしようと考えないで、負けたら、2ヶ月練習すればいいじゃないか」と語りかけた。追われる立場であることが多い日大三が、挑戦者として臨んだ試合だった。

 立ち上がりの2回で、二松学舎大付は2点のリードを奪った。その時小倉監督は、「大量点になるかなと思いました」と振り返る。
しかし打順が一巡すると日大三の猛攻が始まる。3回に1番・下小牧 淳也の本塁打で1点を返すと、4回は7番・佐々木 勝哉のツーランで逆転。6番・小藤 翼の一発で突き放し、3番・田村 孝之介の満塁本塁打で勝負は決まった。結局9対2の8回コールドの圧勝だった。

「(大江の)スライダーが厄介だと思っていたら、浮いて甘くなったところを、小藤にしても、田村にしても、ホームランでしょう。あれがすごく自信になりました」と小倉監督は語る。

 この試合をきっかけに、チームの雰囲気は明らかに変わった。終わってみれば、都大会6試合で、72得点、13本塁打と、日大三らしい猛打爆発で優勝した。
中でも目を引くのは、これまで名捕手として、守備の人の印象が強かった小藤が、5本の本塁打を放ったことである。

 打撃開眼の理由を小藤は、
「春先の練習試合で監督さんに言われて、構える時に後ろ重視だったのを、前(つま先)重視にすることを意識したら、打てるようになりました」と語る。

 また、強力打線のイメージが強い日大三にあって、ユニークな活躍をしているのが、1番の下小牧だ。下小牧は第1打席で、ほとんどの試合でファーストストライクから打ちにいき、決勝戦を除けば、全て第1打席は安打で出塁している。
「初球から振ることを意識しています。自分が出れば、チームも勢いづくので」と下小牧は語る。

 この春日大三の選手たちは、ひと冬越して成長した姿を東京の高校球界に見せつけた。

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夏に向けて

田村 孝之介選手(日本大学第三高等学校)

 関東大会は投手陣が打ち込まれて、作新学院に6対11で敗れた(試合レポート)。「ピッチャーが疲れていました」と小倉 全由監督は語る。5月の連休に行った遠征の疲れが取れなかったことが、結果に出てしまった。

 夏に向けて、いくつかの変化も見えてきた。まず投げない時は二塁手であることが多かった田村 孝之介は、投手と外野手に絞るという。その理由について小倉監督は、「内野手の投げ方になってしまいました。外野で大きく腕を振って投げさせたい」と、説明する。

田村本人は打者としての意識が強いものの、「幅を広げるため、チェンジアップも練習しています」と、投手にも意欲をみせる。

 また春は3番手クラスの投手であったものの、春季都大会決勝では完投しただけでなく、本塁打2本を放った桑村 和哉の外野手での起用も示唆した。ただ「そうすると、外野手で外される子が出てくる」(小倉監督)という、層の厚いチームとしての悩みがある。

 西東京大会は順当に勝ち上がれば、準決勝ではコールド負けしている早稲田実と対戦する。「清宮君が入って、打線が安定しました」と、小倉監督は警戒する。
早稲田実への意識は選手も同じ。エースで主将の田村は、「にやられているので、やり返したい」と言い、怪物1年生・清宮 幸太郎についても、「抑えたいですね。できればインコースで」と語る。

 戦前の甲子園に出た学校で、現在も都内にあるのは、日大三早稲田実だけ。高校野球100年の今年、名門同士の誇りをかけた戦いが、西東京の夏を熱くする。

(取材/文=大島 裕史

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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