Column

高崎健康福祉大学高崎高等学校(群馬) 【後編】

2015.07.10

常に相手の予測を上回れ

葛原 毅コーチ (高崎健康福祉大学高崎高等学校)

宇部鴻城戦(試合レポート)も天理戦(試合レポート)も上手く攻めてくれました。でも、東海大四戦(試合レポート)は先制点を許してただ焦っているだけでした。はっきり言って、自分たちが勝てると思って試合に臨んでいたのではないでしょうか。それが先に点を取られて、焦って焦って焦って…考えるということをしていなかった」

 葛原 毅コーチはスタンドからこの試合を見守っていた。東海大四はエースの右腕・大澤 志意也投手ではなく、背番号11の左腕・権 濤源投手を先発させてきた。
「一緒に見ていた方と話していたのですが、先発投手に合ってきたころにエースに代えられて、結局ピッチャーに打線が合わないまま完封されるぞと。そしたら本当に完封されてしまった」

 葛原コーチは、今回の取材で「相手の予測と違うことを常にやる」ということを何度か口にしている。進化を続ける機動破壊の現在のテーマだろう。しかし、この試合は相手の予測、見ている側の予測にピタリとはまってしまった。「相手が考えていないことを常にやる」には、考える力、判断する力のレベルアップが不可欠だ。現在はその根本から取り組んでいる。

「今の選手は怒られないようにしよう、とする子が多いんです。ぬくぬくと育ってきた子が多いから生きる力が乏しい。どういうことかと言いますと、例えば猛暑の中、ランニングをしていて体調が悪くなった時があるとします。そこでどう判断するのか。その後最後まで走り続ければ我慢したことになる。でも途中で倒れてしまえば無理だったということになる。無理なことはしても意味がない。自分は我慢できるのか、無理なのか、を冷静に判断できるところから考えていかなければなりません」

バント練習に見る機動破壊の凄み

 前回の記事で、「機動破壊は進化する」と書いた。では、現時点での機動破壊に進化は見られるのか。
「機動破壊を当てはめる基本は3本立てです。走るか、ランナーに気を取られて甘くなったボールを打つか、逆に乱れたボールを見るか。この3つをバランスよく当てはめて野球をしたい。ただ、相手が準備をしてきたら変わってきます。

 理論は同じでもやることが変わってくる。相手が準備してくる全てに対応することは難しいので、やるべきことは、その局面で最も確率の高い成功法を判断していくことになります。例えば走ってくるだろうというところで強攻していったり、打ってくるだろうというところでセーフティバントをしたり。逆に打ってくると分かっているのにバスターをする必要はないと」

 突き詰めると、先述した「相手の予測と違うことを常にやる」という方針が出てくる。そして「最も確率が高い成功法の判断」は一球ごとに変わる。


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[page_break:バント練習に見る機動破壊の凄み]

アップ風景(高崎健康福祉大学高崎高等学校)

 単純にノーアウト一塁の場面といっても、回数やスコアで変わってくる。初球、2球目、3球目でも状況は変わる。同じ初球でも、牽制の有無で変わる。さらに相手ピッチャーの状態、守備位置、バッターの打順、天候、グラウンド状態…判断すべき材料は考えるほどに増えていく。しかし、それら全てをひっくるめて確率を求めるのが健大高崎の機動破壊なのだ。

「やるべきことはできつつあるのですが、まだ相手の予測の逆をいくというのはできていません。頭の中ではできていても脱皮しきれないといいますか。ノーアウト一塁の場面でもいつまでも走るタイミングを待っているだけ。まだ僕と選手とで気持ちを共有しきれていませんね」

 葛原 毅コーチの言う「相手の予測と違うことを常にやる」という言葉を、青栁 博文監督は「スケールアップ」という言葉で継いだ。
「機動破壊が広まって、いろんなチームに警戒されるようになりました。ただ、我々は走塁だけでは勝てません。走塁プラスアルファの力をつけていかないと」

 つまり、相手の予測と違うことを常にやるには、あらゆることができなければならない。走塁をベースに、バッティングも、バントも、バスターもだ。技術だけでなく一回で仕留める精神力も求められる。

東海大四戦ではバントが大事なところで決まりませんでした。だから、センバツから戻ってきてバント練習を結構したんです」
これが意外だった。最初に取材をさせていただいた時(第1回の野球部訪問を参照)、青栁監督から「バントで送って一本打つ」手堅い群馬野球に一石を投じる形で機動破壊が生まれた、という話をうかがっていたからだ。

 バントで送ってもタイムリーが出ない、ならタイムリーが出なくても点が入る走塁を磨こうと。それが2回目に取材をさせていただいた時には、「打てなくて始めた機動破壊ですが、機動破壊を活かすには打撃が必要」という話になった。そして3回目の今回は「バントが大事」という話になった。これは原点回帰なのか。

「バントで送って一本打つのも大事だと思います。ただ、走ってノーヒットで1点も大事です。つまり両方できなければいけないと。野球は真剣勝負をする相手がいます。必死に勝負をしかけてくる。ですから、自分たちの思った通りに試合が進められるほど簡単なもではない。バッティングでもケースバッティングもできればスケールの大きいバッティング、両方できなければいけない」

 まさにスケールアップ。バント練習を増やしたと言ったが、ただ送りバントのみを練習しているわけではない。ありとあらゆる種類のバントをしているという。


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[page_break:健大高崎が見出した転生]

健大高崎が見出した転生

全国制覇の幕 (高崎健康福祉大学高崎高等学校)

 機動破壊が一周回って元の位置に戻ってきた。しかし以前とはワケが違う。さらなるレベルアップのために進んだ先が出発点だったのだ。
つまり、「原点回帰」というより「転生」という言葉の方が適切か。そう思ったのは青栁 博文監督が次のような話をしたからだ。

「野球のトレンドは10年ぐらいで一回りしています。10年前に流行った作戦が今になって急に流行ったりする。2ランスクイズは今ならうちぐらいしかしませんが、10年前にはよく見られました。逆にセーフティースクイズは、今は中々成功しません。このように、高校野球というのは作戦がリバイバルするんです」

 この見解は、以前の取材で葛原 毅コーチも話してくれた。「サイクル」「スパイラル」――こういった考えが、機動破壊にも通底しているのではないか。

 PDCAサイクルという言葉がある。Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Action(改善)を繰り返して持続的に改善を施していくマネージメント方法だ。健大高崎が行っていることは、さしずめ高校野球版のPDCAサイクル――そう考えられなくもない。

「夏の甲子園は県から1チームしか出られません。だったら、誰もできないことをやらないといけない。高校生だからといって引かれがちな限界線、そこを我慢して突破した1チームしか甲子園には行けないと考えています。1番になるにはそれぐらいの覚悟が必要です。日本で1番高い山は『富士山』と誰もが答えられますが、2番目に高い山となると答えに躊躇しますよね?1番と2番では全然違うんです」(葛原コーチ)

 伝統に即し、一貫したチーム作りを続ける高校もある。その代のストロングポイントに応じてチームカラーを変える高校もある。健大高崎は、機動破壊という軸を理論的な分析と手法によって高度化させ“続ける”点において独自の進化を遂げている。その表れが「転生」という現象だろう。そして少しずつ確率を高めてきた。その結果が、

2014年夏の甲子園ベスト8

2014年秋の国体
準優勝

2014年秋の関東大会
ベスト4

2015年春の甲子園
ベスト8


さらに、
2015年春の関東大会ベスト4

 という高い次元での安定した成績なのではないか。ちなみに、冒頭で紹介した二期連続で甲子園ベスト8以上に残ったチームで、健大高崎以外の大阪桐蔭敦賀気比はともに優勝校である。…勝負事はそんな単純なものではない、というのは重々承知している。しかし、着々と確率を高めている健大高崎を見ていると、このまま歩み続ければ上記欄に目立つ「ベスト4」「ベスト8」の代わりに「優勝」という言葉が取って代わる日がくるのではないか、とどうしても考えてしまう。しかも、そう遠くない未来に。

(文=伊藤 亮


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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