Column

沖縄尚学高等学校(沖縄)【前編】

2015.06.15

「『勉強』と『春の実戦』が『夏の強さ』を決める」

 夏の全国高校野球選手権沖縄大会で、2012年から3年連続で決勝へ進出。さらに現在2連覇中でV3達成となると、1988年の沖縄水産以来27年振りの快挙となる沖縄尚学。では、その強さの秘訣とは?前編では一見野球と関係ないようで、実はとても関係のある「勉強」の話から比嘉 公也監督に語って頂きます。

学生の本分は勉強

比嘉 公也監督(沖縄尚学高等学校)

 まもなく最後の夏を迎える3年生たち。わずか2年半の間に沖縄尚学の選手たちは伝統を背負い、立派な球児となる。では、彼らを育てていくために比嘉監督が根底に置くチーム作り、基礎中の基礎とは……高校球児には耳の痛い話かもしれないが学生の本分「勉強」だ。

「まず入学してきた時の彼らから感じることは、野球をやりに来ているという思いが強い。その思いは大事なのですが、それしか頭にない分、中には勉強を疎かにしがちな部分もあって。
テストの点数しかり、各教科の先生からの苦情だって実はあります。そういうことがある選手は、沖縄尚学では練習には参加出来ません」

 当然ながら学校は「野球部ありき」ではない。「まずは学校が先、学業や生活態度が先」ということを、入学したての野球部員たちに比嘉監督は口すっぱく言い続ける。
そして勉強ができなければ、練習できない。練習できなければ、ライバルに差をつけられる。甲子園を目指している彼らからすると、葛藤の日々がいきなり始まる格好だ。

「なので、ウチでは1年生がすぐに戦力となってベンチに入る、というようなことは基本的にないですね」(比嘉監督)
入学後すぐ公式戦登板した東浜 巨亜細亜大→福岡ソフトバンクホークス)関連記事のようなケースは例外中の例外なのだ。

 ちなみに比嘉監督は野球部監督の一方で社会科教諭の側面も持つ。だからこそ、教諭側の辛さも理解できる。よって他の教科で成績が悪い選手がいる場合には、その教科の先生に比嘉監督自らが頭を下げて補習などを行う。さらに最終的に追試的テストを受ける際も、比嘉監督が責任者としてその子に付き合う。

 これで大概の場合、選手たちは目覚める。

「本当はグラウンドに居なくてはいけない監督が、自分のために放課後を空けてくれる。甲子園を目指してる先輩たちにも悪いことをしている。こんなんじゃいけない!」

 こうして1年生たちも2学期には勉強が苦ではなくなって、点数がどんどん良くなってくる。

「最初の動機は『クリアしないと好きな野球が出来ない』でも構わないんです。でもこういうことをする中で段々、学校があって、本分を全うして初めて野球(部活)があるということに気付いてくれるんですよ」

 こうして1年の時に苦しんだ理解力が、2年生、3年生になると身に付くように成長する。これは正に野球で必要な原理と同じであろう。
人生は高校で終わりではない。大学や社会へ進む子も出てくる中で、学業をおざなりにしていては結果、当の本人たちが進学後に苦しむ。比嘉監督の言う「学生の本分は勉強」という基礎は、そういった深い意味が含まれたものなのだ。

このページのトップへ

 夏に強いチームから学ぶ
僕らの熱い夏 2015
第97回全国高等学校野球選手権大会
【ひとまとめ】2015年の全国各地の高校野球を占う!
[page_break:冬の成果を春の実戦で確かめる]

冬の成果を春の実戦で確かめる

グラウンドに集まる選手達(沖縄尚学高等学校)

 こうして勉強を通じ、野球につながる様々なものを身に付けた沖縄尚学の選手たちは、次に冬場のトレーニングでレベルを上げる。「ローマは1日にして成らず」である。

 特にこの冬、沖縄尚学の練習は壮絶を極めた。
4季連続甲子園出場から一転、新人戦中央大会も制し第1シードとして臨んだ昨秋県大会初戦「打席の中での工夫も無く、仲間での伝達などの徹底さも足りなかった」と中村 将己主将(3年)も認める試合運びで部員10人の宮古総合実に4対6で敗退してしまったことが、その要因である。

 チームとしては、それまで2箇所だったゲージを3箇所に作って、より多くボールを打ち返し、リードの幅では3m50cmがひとつの目標として比嘉 公也監督が選手に通達。さらに個の部分でも「ボールに対して上から強く叩くことを意識し、軸足が伸びたり解けたりしないように、バッティング練習でも開かない、逆方向への打球を求めてやっている」中村に代表されるように、自己の打撃をチームに還元する形を追究してきた。

 そしてこの成果を春の実戦で試す。

「極端な話にはなりますが、冬場に積んできたトレーニングの成果を試す実戦が、春の解禁後の対外試合。そしてそこから出てくる課題をクリアしていきます」(比嘉監督)

 投内、または内外の連携プレーや攻撃での形などは春季沖縄県大会を通して確認していく作業が続く。

 選手起用もそう。例えば明治神宮大会を制した(試合レポート)旧チームであれば、山城 大智(現:亜細亜大1年)という絶対的なエースがいた。そこで指揮官は、山城を夏の沖縄大会準決勝決勝を連投させることを前提条件に、春は投手起用を組み立てていった。

 そして戦術面も。象徴的なのは今年の春季大会準決勝興南戦である。

この試合では先に2点を奪われ、攻撃陣も8回までにわずか3本のヒットのみ。が、9回に先頭打者が相手のエラーで出塁すると次打者もライト前で続いた。打者は4番・神里 廣之介(3年)。そこで沖縄尚学が採った策は……。

「無死一・二塁。選択としてはバントを成功させてニ・三塁として、まずは一打同点を狙うという野球も必要ですが、あの場面は1イニングで一気に逆転をするんだという野球を選手たちに示したくて。夏の大会で勝ち上がるためには、こういうことが出来ないとダメなんだぞと」

 比嘉監督は強攻策を指示。結果、4番神里がセンターフライに倒れると、後続も連続三振して敗退してしまった。

 だがここで得られたものは多々ある。これで最後の夏で同じ状況になった時、採る策も決まったはずだ。春に勝つためだけなら、セオリー通り。でもやはり、勝負は夏なのである。

 後編では沖縄尚学流のチームスタイル見定めと、夏に重要なスタミナ維持法。さらに3年連続沖縄大会制覇へ挑む指揮官・選手たちの声をお届けします!

(取材・写真=當山雅通

このページのトップへ

 夏に強いチームから学ぶ
僕らの熱い夏 2015
第97回全国高等学校野球選手権大会
【ひとまとめ】2015年の全国各地の高校野球を占う!

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.04.24

春の埼玉大会は「逸材のショーケース」!ドラフト上位候補に挙がる大型遊撃手を擁する花咲徳栄、タレント揃いの浦和学院など県大会に出場する逸材たち!【春季埼玉大会注目選手リスト】

2024.04.25

筑波大新入生に花巻東、國學院栃木、北陸の甲子園組! 進学校からも多数入部!

2024.04.24

【佐賀】敬徳と有田工がNHK杯出場を決める<春季地区大会>

2024.04.24

【福島】田村、日大東北、只見、福島が初戦を突破<春季県大会支部予選>

2024.04.24

【春季四国大会逸材紹介・香川編】高松商に「シン・浅野翔吾」が!尽誠学園は技巧派2年生右腕がチームの命運握る

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.23

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.24

春の埼玉大会は「逸材のショーケース」!ドラフト上位候補に挙がる大型遊撃手を擁する花咲徳栄、タレント揃いの浦和学院など県大会に出場する逸材たち!【春季埼玉大会注目選手リスト】

2024.04.23

【春季埼玉県大会】地区大会屈指の好カードは川口市立が浦和実を8回逆転で下し県大会へ!

2024.04.21

【神奈川春季大会】慶応義塾が快勝でベスト8入り! 敗れた川崎総合科学も創部初シード権獲得で実りのある春に

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.05

早稲田大にU-18日本代表3名が加入! 仙台育英、日大三、山梨学院、早大学院の主力や元プロの子息も!

2024.04.23

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.02

【東京】日大三、堀越がコールド発進、駒大高はサヨナラ勝ち<春季都大会>

2024.04.12

東大野球部の新入生に甲子園ベスト4左腕! 早実出身内野手は司法試験予備試験合格の秀才!