Column

府立堺東高等学校(大阪)

2015.06.13

 この大阪桐蔭に5対6と接戦を演じた堺東。近年、健闘を見せる府立校だが、そこにはユニークかつ独自な取り組みが行われていた。

高校野球では珍しいチームカラー

自主練集の様子(府立堺東高等学校)

 E-girlsやAKB48の曲が流れる中で素振りやティーバッティングを行う選手たち。堺東は練習中でもアットホームな雰囲気が満ち溢れている。そこには高校野球にありがちな“精神鍛錬”の要素は皆無。このムードが攻撃の勢いにつながるのだろう。チームを指揮する井上 孝介監督がそういったノビノビとできる雰囲気をつくりあげてきた。

 府内で負け無しの連勝街道を突き進む大阪桐蔭戦での投手起用を「前日は3人で分けようと言っていたんですが、当日僕の気持ちが変わって」と先発投手を逆転される7回まで引っ張り、結局2人のリレーで乗り切った。

 2点リードの7回に同点ツーラン、勝ち越しソロを続けざまに打たれ惜しくも1点差で大金星を逃すが、逆転された場面を「早かったなぁ。2分ぐらいで逆転されました」とまたしても笑いながら振り返る。

 公立高校でありながら、堅く粘って辛抱して、ではなく“取られたらそれ以上に取り返せ”のノビノビ野球が堺東の身上。打ち方もバラバラで、時には中継プレーでランニングスローのような形でも投げる。授業中の態度や通学マナーを注意することはあっても、徹底的に厳しい決まりを設けたりはしない。一応炭酸飲料は禁止ということになってはいるが、夏の大会で敗退し引退となった3年生はその日の帰りに自動販売機で即購入しみんなで健闘を称え合う。

「まぁ楽しそうにやってますわ」という井上監督の締め付けない指導スタイルが個性豊かな選手たちにマッチし、春季大会のスコアは1回戦から順に北摂つばさ戦が12対2、興國戦が8対4、城東工科戦が13対4、大阪住吉戦が9対7、大阪桐蔭戦が5対6。激しく動く試合展開にスタンドの応援席は常にお祭り騒ぎだったに違いない。

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僕らの熱い夏 2015
第97回全国高等学校野球選手権大会
【ひとまとめ】2015年の全国各地の高校野球を占う!
[page_break:冷静なキャプテンと個性豊かな仲間たち]

冷静なキャプテンと個性豊かな仲間たち

キャプテン・平田 大智(府立堺東高等学校)

 選手もマネージャーも賑やかしの目立ちたがり屋が多い中、冷静にチームをまとめるのがキャプテン・平田 大智(3年)。「真面目で落ち着きがある」というのが井上 孝介監督のキャプテン評。先発投手を相談することもあり、実際に興國戦の先発は平田の意見を尊重し決めた。

 平田が春季大会で印象に残っているのは大阪桐蔭戦はもちろんだが、また違った意味では大阪住吉戦だという。
「大阪住吉高校さんはベンチに10人ぐらいしかいなかったんですけど、その中でやれることをしっかりやっていて、公立の自分たちも見習う点がたくさんありました」

 対戦相手の呼び方はほとんどの場合略して話す。例えば大阪桐蔭なら桐蔭、PL学園ならPLという風に。◯◯高校というだけでも丁寧なのに、平田の場合は「大阪住吉高校さんは・・・」とさん付けで話す。普段は謙虚で冷静、3年生の集合写真を撮る時も真ん中ではなく端の方で写るなど、堺東の中では珍しくどちらかと言えば控えめな性格の持ち主だが、芯の通った頼りがいのある好青年だ。

 捕手として平田がリードするのが3人の投手陣。春に背番号1を背負ったのがチーム1の球速を誇る北野 翔大(3年)。私学との対戦でホームランを打たれた試合後、井上監督の「お前のまっすぐは全然速くない」という言葉に発奮し磨きをかけた。北野とは対照的に変化球主体のピッチングを得意とするのが中辻 貴也(3年)。強い気持ちの持ち主で大阪桐蔭戦では先発マウンドを任された。

 打席に立てば際どいタイミングでは一塁にヘッドスライディング、塁に出ればノーサインで盗塁を試みる熱血漢でもある。北野は元々捕手で中辻は元々二塁手、3本柱のうち入学時から投手だったのは高瀬 廉(3年)ただ一人。大会前に肘を痛めた影響でこの春の登板は大阪桐蔭戦のみとなったが、1点差の緊迫した終盤2イニングを無失点。夏へ向けては「野手が安心して見ていられるピッチャーになりたい」と意気込む。

 野手陣では、1試合平均9.4得点を叩き出した打線をトップバッターの津田 海斗(3年)が引っ張った。チームナンバーワンの俊足に加えて肩も強いアスリートタイプで、井上監督も夏のキーマンの1人に挙げる。元々は遊撃手だったが、新チームになった時、三塁手の井上 汰一(3年)を遊撃手にコンバートした結果、弾かれる形で人生初の外野に挑戦。最初は後ろのフライが全然取れなかったというが、今では守備でも信頼を得ている。

 4番を任されているのは西埜植 知舞(3年)。波の少なさとインコースに強い打撃で高打率をマークし、一塁手としてもショートバウンドの捕球技術に秀でる。も敗れた試合で西埜植はノーヒット。4番の成績が勝敗に直結するだけにここぞの一打に期待したい。

 西埜植の後を打つ大谷 隼(3年)は春季大会で2本塁打を放った。長打力が自慢かと思いきやアピールポイントは「守備範囲です」と即答。津田と1、2を争う俊足の持ち主で少年野球の時からずっと外野手。外野の中でも常に中堅手を任され他のポジションをやったことがない。津田と組む左中間は鉄壁だ。3番・遊撃手と攻守の要を任されている井上は例に漏れずお調子者。その井上は3回戦の城東工科戦で不思議な体験をしている。

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[page_break:不思議な体験とまさかのオフ、堺東の話題は大阪桐蔭戦だけじゃない / 最高の仲間と共に最高の喉越しを]

不思議な体験とまさかのオフ

3番を打つ井上 汰一(府立堺東高等学校)

 ゲッツーを取ればコールド勝ちがほぼ確定するという場面で井上の雑な一面が出てしまいアウトを一つしか奪えず。そこからリズムを崩した投手が連打を浴び3失点。楽勝ムードが一転、終盤勝負へと様変わりした。ベンチに帰ってきた井上は当然怒られることになるのだが、この時の表情がいつもと違っていた。シュンとするわけでもなく、悔しがるわけでもなく。言葉で表すのは難しいが周りから見れば非常に集中していたものらしい。

 2点を加えたその裏、なおも無死一、二塁のチャンスで打席に立つとコールド勝ちを決定付けるスリーランを放つ。監督もマネージャーも変化に気付いていたが、本人は「何も考えなかったような、力が抜けてスムーズにバットが出た。ミスして頭が真っ白になって、ネクストで切り替えようとしても切り替えられず、その流れで打てました」とフワフワしたままライトスタンドに叩き込んだ。

 井上が極度の集中状態、ゾーン体験をした次の試合、大阪住吉と9対7の激戦を演じチームに疲労が残っていると判断した井上 孝介監督はなんと翌日をオフにした。春と秋は試合間隔が空くと言われてはいるが、この時はゴールデンウィークの真っ只中で、大阪桐蔭戦はわずか3日後。中2日の日程の中、ナインは井上監督の思い切った決断でリフレッシュしたのだ。

 すると横綱相手に大健闘。先行されるもすぐに追いつき序盤3回を終えた時点では3対3の同点に。4回には福岡 誠琉(2年)と井上の連続タイムリーで2点の勝ち越しに成功し、リードを奪って試合を折り返す。番狂わせの予感が現実味を帯びてきた7回に2者連続本塁打を打たれ敗れはしたが、この春間違いなく絶対王者を最も苦しめた。

最高の仲間と共に

 近年の大阪は大阪桐蔭履正社の2強が抜き出た存在で、その後ろにPL学園を筆頭とした強豪私学勢が続く。
堺東の立ち位置はその第2グループを追う第3グループに属する。有力公立勢の一角として4回戦辺りまでは行くが、その先の壁が分厚い。井上監督の今夏の目標は4回勝つこと。その真意は4人いる3年生マネージャー全員が勝利の瞬間をベンチで迎えられるようにというもの。

 ベンチ入りの順番は背番号発表の日にあみだくじで決める。「ベスト16に入ったらオフで(笑)その後ベスト8目指して頑張ります」とここでも堺東らしさ全開。

 彼らにとって甲子園とは何が何でも行かなければならない場所ではなく、自分たちらしい野球をやった結果たどり着けたら嬉しい場所なのだ。

 この夏、どんな試合展開になったとしても、堺東のスタンドには笑顔が溢れているだろう。

(取材/文=小中 翔太

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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