Column

県立相模原高等学校(神奈川)

2015.06.07

個の力が足りなければ、束になれ

ミーティングの様子(県立相模原高等学校)

「実力で行くしかないだろ!」

 昨年11月、県立相模原高校の佐相 眞澄監督が選手を奮い立たせるために言った言葉だ。

 地元では県相(けんそう)の名で親しまれている神奈川県立県立相模原高等学校。県北地区を代表する進学校でありながら、近年は野球部の躍進も目覚しく、昨年の秋季県大会では強豪ひしめく神奈川において見事にベスト4へ進出。この活躍により、選抜大会の21世紀枠の有力候補ではないかと囁かれていたが、残念ながら県推薦校に選ばれることはなかった。

「でも、選手たちは意外とあっさりしていましたね。私が『自分たちの実力で行くしかないな』と言ったら、『はい』って。みんな目を輝かせて返事をしてくれました」
と、佐相監督。この日のことをエースの宮崎 晃亮も、よく覚えている。

「監督の言葉を聞いた時、『絶対に甲子園へ行くんだ』という決意がこみ上げてきました。これを機にチームはさらに結束したと思います」

 悔しさを胸に、冬は体力トレーニングやバッティング練習に取り組んだ県立相模原。その成果はすぐに表れた。春季大会ブロック予選を含めた全9試合のうち5試合で二桁得点をマーク。合計で103点を奪い準優勝した。

「冬は『束になれ』をテーマに練習しました。ウチは一人ひとりの個の力はないんです。ただ、束になると強い。春季大会も1試合ごとにチームが強くなっていきましたね」

 しかし、初めて出場した関東大会は、初戦川越東(埼玉)の前に7回コールドで敗れ去った。
「ストライクゾーンからボール1個分内側か外側かを投げ分けるコントロールがなかった」という宮崎は苦手な立ち上がりを攻められ8失点。打線も相手左腕・高橋 佑樹にわずか3安打で無得点に抑えられた。

県大会では初球からでもどんどん振っていけたのですが、関東大会ではまったくそれができなかった。積極性を失ってしまっては技術も上がっていかないので、あの時は試合中から叱っていましたね」(佐相監督)

夏に向けて大きな課題を突きつけられた県立相模原は、なお一層のレベルアップが求められることとなった。

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良い当たりよりヒットを狙う

工夫が凝らされたティーバッティング(県立相模原高等学校)

 まず佐相 眞澄監督が着手したのは、さらに打撃力をアップさせることだった。
「昨年の冬は、打てるボールをキチンと打つ練習をしました。8mくらいの距離から遅いボールを投げてもらい、しっかりと引き付けて打つ。アウトコースは逆方向へ。そうやって打ち損じをなくしていったのですが、今は同じ練習を重さが違う2種類のバットを使ってやっています」
その狙いは、スイングスピードを速くすること。

県大会の決勝で戦った東海大相模は投手陣のレベルが高いので、140キロ以上のボールを打ち返せるように訓練をしないと夏は戦えないと思いました。そこで、重たいバットを振った後に軽いバットで打つことで、速い動きをする筋肉を刺激し、体にスピードを覚えさせたいと考えています」

 また、この練習は各選手のバッティングフォームを固めることにも利用されている。クリーンナップを期待されている金子 圭希は、
「自分は調子のアップダウンが激しい方なので、毎日、フォームチェックして、いつも同じ状態で打席に立てるように心掛けています。この『8mバッティング』はフォームの確認に適していて、センターから逆方向へ打つことで、下半身から上半身まで体全体が連動したフォームになるように意識付けをしています」

 今後はマシンを使ってバッティングを行う予定だが、佐相監督がこだわるのはヒットを打つための練習だ。
「強い当たりを打って、気持ち良くなって終わりでは困る。重要なのは、自分が打った打球がヒットゾーンに飛んでいるのかどうか。その確認をしなければ、無料のバッティングセンターで楽しんでいるのと変わりません」

 ティーバッティングにも、アイディアが組み込まれている。
「特別なネットを使ってバッターの真正面から軟球を投げて打たせているんですが、よくあるティーバッティング用の小さなネットを使うと袋状の部分に向かってゴロを打つ練習になってしまうところがあるんです。だから、ウチではネットを2つ並べることで、鋭い打球を左右に打ち分けられるようにしています」

 佐相監督の指導にはっきりと表れているのは、練習のための練習ではなく、あくまでも試合に勝つための練習をするということだ。

 また、練習では体力強化も並行して行われている。井口 史哉主将は、
関東大会では体力の差を感じたので、バットスイングをトレーニングの一環としてやっています。今は、とにかく打ち込みの数を増やしてフォームを体に染み付けながら、重たいバットを振って筋力を付けています。あとはウエイトルームがあるので、器具を使ってウエイトトレーニングをやったり、綱を登って上半身を鍛えたりしています」

 さらに、水を入れたポリタンクを使って下半身を鍛えている選手の姿が、グラウンド脇の小道に見える。
「元々はガタガタだったところを整備してもらったんですが、5度くらいの斜度があるのでポリタンクを持って登らせたり、逆に下りを使ってダッシュをして体にスピードを覚え込ませたり。トレーニングをするのに丁度いいんです」(佐相監督)。

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[page_break:ミーティングは短く、練習は長く / 階段を上がった先にある甲子園]

ミーティングは短く、練習は長く

水を入れたポリタンクを使って下半身を鍛える選手(県立相模原高等学校)

 もちろん、守備練習も欠かせない。県立相模原の秋季大会春季大会のメンバーを比べると、大胆なコンバートを行っていたことが分かる。後藤 寛生はセカンドからライトへ。井口 史哉はサードからショートへ。空いたサードには外野の補欠から佐藤 汰一が割って入り、チーム1の瞬足を誇る木村 拓紀はセンターからセカンドへ移った。

「練習で全員に内野をやらせてみて、適正が分かってきたんですね。それで、センターから右のゾーンは内野を抜かれるヒットをよく打たれていたので、思い切って足の速い木村をセカンドで起用しました。春季大会ではライト前に抜けそうな打球も捕ってくれましたし、コンバートの成功が準優勝できた一つの要因になったと思います。ただ、外野から内野へポジションを変えた選手が多いので、守備はもっと数をこなす必要があります。ゴロのパターンを覚えて、体が自然と動くようになるまでやるしかないですね」(佐相監督)。

 とはいえ完全下校が19:30に定められている県立相模原。練習時間には限りがある。そこで、効率良く練習するために選手はいくつかのグループに分けられ、バッティング、守備、体力トレーニングをそれぞれのエリアでローテーションしながら同時に行っている。

「就任当初は、何かある度にいちいち集まっては、みんなで練習を進めていましたが『ミーティングは短く、練習は長く。移動を速くして数をこなす』ことを徹底させました。だから、今は全員がどこかで何かしらの練習をしているので、ボーッとただ見ているだけの選手はいません」(佐相監督)。

 グラウンドは陸上部と共用。決して恵まれた環境とは言えないが、様々な工夫と監督の目が届かない場所でも黙々と練習を続ける真面目さでカバーをしている。

階段を上がった先にある甲子園

 2014年の春季県大会ベスト16夏の選手権神奈川大会ベスト8秋季県大会ベスト4。そして、今年の春季県大会準優勝と、着実に階段を上がってきた県立相模原。さらに一つ上の階段を上がることができれば、夢の甲子園に手が届く。

「県立相模原に入学した時から甲子園へ行きたいという気持ちがありましたが、今は本当に近づいてきたなと感じています。近づいてきたからこそ、もっと頑張ろうと思いますし、もっと頑張れば甲子園に行けると思います」
と、井口主将はチームに手応えを感じている。

エースの宮崎 晃亮はもっと高い目標を掲げる。
「自分の力だけでは勝てないですが、チームメートの力を借りて、自分もチームのためにできることをきちんとやって、甲子園で優勝を目指したい」

そして、そんな宮崎の頼もしい言葉を聞いた佐相 眞澄監督は少し笑いながらつぶやいた。「優勝とは言わないけれど、甲子園で勝ちたいですよね。あの場所で校歌を聞いてみたい……」

「自分たちの実力で甲子園へ行く」。半年前に誓った思いを現実のものとするために、県立相模原は夏に向かってラストスパートをかける。

(取材/文=大平 明

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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