Column

東亜学園高等学校(東京)【後編】

2015.06.07

 栄光と不遇の時期を乗り越え、今も東京都の強豪校として君臨する東亜学園。後編では、夏へ向けて、選手たちは何を課題において、どんなテーマで、日々の練習に取り組んでいるのだろうか。

起伏の激しい1年

練習後監督を囲んで(東亜学園高等学校)

 上田 滋監督は高校時代、東洋大姫路の選手として甲子園大会に出場している。東京では珍しい、関西の強豪校出身の監督である。関東と関西の違いをあえて言えば、「関東の方があっさりしているというか、打って打ってという感じ。しぶとくやるのが関西かな」と言う。

 そんなしぶとさを感じさせたのが、昨夏の5回戦岩倉戦であった。2点リードされて迎えた9回裏、東亜学園は猛攻し、小澤 賢太の3ラン本塁打により、8対6で逆転サヨナラ勝ちしている。もっとも上田監督は、「あそこは、たまたま良かったけれども、そこまでいくのが悪いのです」と言う。

 東亜学園というと、甲子園に出場した時の川島 堅高平 幸治をはじめ、社会人のTDKで活躍した田口 篤史、最近でも福山 聡史など、好投手を中心にした守りのチームのイメージがある。ところが、ここ1、2年は、投手力で苦しんでいる。

 昨夏の準々決勝の二松学舎大付戦では、四死球8に失策3と自滅に近い形で負けた。それでも、二松学舎大付戦のメンバーのうち、内野手の野瀬 祥一郎乗松 良多合田 琢哉、投手兼外野手の木下 雄太、捕手の松村 健海、控え捕手の白井 大悟ら、中心選手は残った。

 新チームの主将は、昨夏も4番を打った野瀬が就任した。ただ新チーム結成当初は、「笛吹けども踊らず、といった感じで、チーム全体でやろうという雰囲気が少なかったです」と、野瀬は語る。そんなチームの雰囲気を変えたのが、2回戦法政大高戦であった。

 この試合、7対4と3点リードして迎えた9回裏に、四球3と三塁打2本により、4点を奪われ、逆転サヨナラ負けした。
「悔しい負け方をしましたから、絶対勝ってやろうという雰囲気に変わりました」と野瀬は言う。ただ「マンネリ化した部分もありました」と付け加えた。

 その結果は、日大鶴ヶ丘試合レポート)、都立小山台と強豪を連破して3回戦に進んだが、勝てば夏はシード校という3回戦八王子戦は、投手が四球を連発して、1対9で敗れた。
「春、自分たちの実力が分かって、個人個人が毎日変わるように言い続けていたら、少しずつ変わってきました」と野瀬は言う。

 グラウンド横の壁には、武田 朝彦部長が、チーム全体や選手個人個人の課題を書き記したものが貼られている。チームの課題として一番上には、「とにかく練習の質が低い」と書かれている。

このページのトップへ

僕らの熱い夏 2015
第97回全国高等学校野球選手権大会
【ひとまとめ】2015年の全国各地の高校野球を占う!
[page_break:課題の投手陣の取り組み / 友人でありライバルであるオコエの存在]

課題の投手陣の取り組み

 チームの最大の課題が投手力であることは、はっきりしている。私が行った日は、シート打撃に松本 将大が登板していた。春は背番号10ながら、1回戦日大鶴ヶ丘戦、3回戦八王子戦に先発している。ただ八王子戦では1回1/3で四球5と、試合を壊してしまった。

 シート打撃で投げ終わると、ネット裏の高い位置からみていた上田 滋監督から、松本 将大松村 健海のバッテリーに、投球の攻め幅、牽制のやり方などの指示が出る。「春は自分が失敗してしまったので、普段のキャッチボールにしても、投球練習にしても、もっと細かく狙って、コントロールできるように意識しています」と松本は言う。

指示を聞く松村 健海選手(東亜学園高等学校)

 投球練習は、多い時で200球ほど投げているという。シート打撃をしているグラウンドの隅では、投手陣が走り込みや体幹トレーニングなど、基礎体力作りに余念がない。試合では結果はあまり出ていないが、体力作りを相当していることは、感じられる。

 ただ投手陣に課題があるからこそ、重要になるのが捕手である。昨年からマスクを被る松村は、
「自分がピッチャーのストライクが入る場所とか見つけないと、と思っています。とにかくいいところを、引き出したいです」と、語る。

友人でありライバルであるオコエの存在

 松村は東村山シニアの出身である。2年前に地区割りの変更があり、校舎が中野区にある東亜学園は東東京に編入されたが、地元感覚が強いのは、西武線沿線の西東京地域である。東亜学園では松村の他にも、野瀬 祥一郎合田 琢哉池田 宗太の4人は東村山シニアの出身である。そして抜群の身体能力でプロ注目のオコエ 瑠偉関東一(2015年インタビュー【前編】【後編】)も、同じチームであった。

 甲子園に出るためには、関東一を倒さないといけない。そのカギとなるのが、オコエである。「シニア時代は大したことなかったのに、結構成長してすごいなと思います。負けられないです」と合田は言う。また松村は、「(オコエが盗塁したら)刺したいです」と、力強く語った。

 夏に向けて、選手のモチベーションは上がっている。
「昔から家でチューブを使って、手首などを鍛えてきましたが、残りわずかな時間を少しずつでも高め合って、精一杯やっていきたいです」と、中心打者の1人である合田が言えば、主将で4番の野瀬は、「練習はもちろん大切ですけど、私生活の基本的なことから大事にしていきたい」と決意を語った。

 上田監督は、「ワンランク上の力がない」と嘆きつつも、「人間的にはしっかりとした子が多い」と、最後の夏にかける3年生に期待を寄せる。こうした選手の意識の高さと、監督の熱い思いが相まって、東亜学園は強豪であり続けているのだろう。

 夏に向けてのメンバーは、基本的には固定していくことになるという。投手に不安があるため、6、7人入れざるを得ないし、松村、白井 大悟という、捕手の2人も外せない。となると、控えの野手の枠は、限られてくるからだ。

 それでも今年の東東京大会は、シード校は6校だけ。ノーシード校にも、十分チャンスはある。「準決勝まで行けば、後は分からない」と上田監督は、闘志を燃やす。
シート打撃が終わると、キャッチボールをして、上田監督のノックが始まる。あと2年で還暦だが、その情熱に衰えはない。

(取材/文=大島 裕史

このページのトップへ

僕らの熱い夏 2015
第97回全国高等学校野球選手権大会
【ひとまとめ】2015年の全国各地の高校野球を占う!

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.04.24

春の埼玉大会は「逸材のショーケース」!ドラフト上位候補に挙がる大型遊撃手を擁する花咲徳栄、タレント揃いの浦和学院など県大会に出場する逸材たち!【春季埼玉大会注目選手リスト】

2024.04.25

筑波大新入生に花巻東、國學院栃木、北陸の甲子園組! 進学校からも多数入部!

2024.04.24

【佐賀】敬徳と有田工がNHK杯出場を決める<春季地区大会>

2024.04.24

【春季四国大会逸材紹介・香川編】高松商に「シン・浅野翔吾」が!尽誠学園は技巧派2年生右腕がチームの命運握る

2024.04.24

【福島】田村、日大東北、只見、福島が初戦を突破<春季県大会支部予選>

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.23

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.24

春の埼玉大会は「逸材のショーケース」!ドラフト上位候補に挙がる大型遊撃手を擁する花咲徳栄、タレント揃いの浦和学院など県大会に出場する逸材たち!【春季埼玉大会注目選手リスト】

2024.04.23

【春季埼玉県大会】地区大会屈指の好カードは川口市立が浦和実を8回逆転で下し県大会へ!

2024.04.21

【神奈川春季大会】慶応義塾が快勝でベスト8入り! 敗れた川崎総合科学も創部初シード権獲得で実りのある春に

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.05

早稲田大にU-18日本代表3名が加入! 仙台育英、日大三、山梨学院、早大学院の主力や元プロの子息も!

2024.04.23

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.02

【東京】日大三、堀越がコールド発進、駒大高はサヨナラ勝ち<春季都大会>

2024.04.12

東大野球部の新入生に甲子園ベスト4左腕! 早実出身内野手は司法試験予備試験合格の秀才!