Column

霞ヶ浦高等学校(茨城)【後編】

2015.05.15

「霞ヶ浦が考える好投手になるための基本事項」

 前編では、霞ヶ浦野球部での考える投手になるための条件を教えて頂いた。後編では霞ヶ浦の環境の下で、急速にレベルアップを遂げたエースの綾部 翔投手を中心に、成長の過程を伺い、また夏に向かう彼らへ今年の思いを伺った。

基本を徹底することで理に叶ったフォームを習得

綾部 翔投手(霞ヶ浦)

 187センチ大型右腕・綾部投手のストレートの最速は145キロ。入学当時の最速は126キロだったというから、約2年で20キロ近くアップしたことになる。高橋 祐二監督は「他の投手もだいたい10キロは速くなっていますよ」とこともなげに言うが、綾部投手は「もし霞ヶ浦高に来ていなかったら、こんなに速くなっていなかった」と認識している。

「立ち投げを続けたのも大きかったと思います。高橋監督からは“力まないで投げろ”“開きを抑えて下で投げろ”“前で離せ”といった指導を受けています」

 入学以来大きなケガをしなかったのも、綾部投手の順調な成長を後押ししたのだろう。高橋監督は“週500球まで”を忠実に守り、「1回の投げ込みで90球を超えるとフォームがバラバラになり、肩の疲労も出てくる」というところまで考えている。また、フィジカル面は、(AFAA認定の)パーソナル・フィットネストレーナーの資格を持つ石崎 学コーチがサポートと、体制もしっかりしている。石崎コーチは、高橋監督がバレー部の監督をしていた20年ほど前から、高橋監督のもとでトレーニング指導を担当している。「ウチには故障をする投手はまずいないはずです」(高橋監督)という言葉も、なるほど、うなずける。

 綾部投手をはじめ、霞ヶ浦高投手陣の成長を促しているのが、理に叶ったフォームを身に付けるための「基本の徹底」だ。綾部 翔安高 颯希浅賀 蒼太の3投手に「指導を受けた中で、一番ピッチングに生きていることは?」と訊ねると、申し合わせたように「“立ち”“はがし”“受け”という基本です」という答えが返ってきた。

 ところで“立ち”“はがし”“受け”とは、いったい何のことなのだろう?

「“立ち”はバランス良くマウンドに立つことです。はじめにスッとした形で立てないと“ヒップファースト”の形を作れませんし、スムーズな体重移動もできませんからね。“はがし”とは、グラブ側の肩甲骨をきれいにはがすことを指します。要はグラブの小指をひねりながら、“カベ”を作るわけです。うまくグラブを使えないがために、開きが早くなってしまう子が多いので…そして“受け”ですが、これは“投げ終わりの時に股関節で受ける”ということです。右投手なら左の、左投手なら右の股関節でしっかり受けることで、ヒザが割れなくなるのです」(高橋監督)

 左サイドクォーターの安高投手は「“立ち”“はがし”“受け”を実践し続けることで大きく変わりました」と言った後、こんな話を披露してくれた。
「僕は変則なので、入学するまでは(変則に基本は)関係ないのかなと思っていたんです。ですが、高橋先生から基本の重要性を教えてもらい、変則であっても基本が大切だとわかりまして。基本を意識しながら練習したところ、体に負担がかからない投げ方ができるようになりましたし、たくさん投げても疲れにくくなりました」

 安高投手は1年秋、再試合となった常総学院高との決勝で完投劇を演じた。これも“立ち”“はがし”“受け”を徹底してきた賜物なのだろう。

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先輩からのアドバイスと後輩への思いも戦う力に


左から安高 颯希投手、綾部 翔投手、浅賀 蒼太投手(霞ヶ浦)

 前述の通り、高橋監督は1.筋力 2.スタミナ 3.メンタルの3つを強化ポイントとしているが、「その中で一番難しいのがメンタル」だという。
「メンタルは個人差があるので。“ビビリなタイプ”でもボールが良くなれば、それが自信になって、急に人が変わってしまうこともありますし…その一方で、はじめから向こう気が強い子は、メンタルを強化しなくても、どんな場面でも臆せず投げられますからね(笑)」

 それでも、バレー部時代を含めると、今年で指導歴が34年目となる高橋監督は“魔法の言葉”を使いながら、選手のメンタルを強くしている。例えば、浅賀投手がそうだ。浅賀投手は「2年の夏くらいまでは、なかなか自分のボールに自信が持てなかったんです。でも高橋先生から『いいボールを持っているんだから、自信を持って投げろ』と言われまして。その言葉を信じて投げたところ、強豪相手の練習試合でも“押し込めるようになった”んです」

 話は変わるが、霞ヶ浦高は上級生と下級生がしっかりコミュニケーションを取るのが1つの伝統になっている。下級生は上級生のアドバイスをレベルアップのヒントにしている。綾部 翔安高 颯希浅賀 蒼太の3投手もそんな環境で成長してきた。3人にとって大きな存在だったのが、昨夏までの不動のエース・上野 拓真投手(現青山学院大1年)だ。浅賀投手と安高投手は、上野投手と同じ左腕ということもあり、けん制を学んだという。一方、綾部投手は「上野さんから変化球の投げ方を教えてもらいました」。

 時は巡って3人は3年生に。最後の夏は、1、2年生を引っ張っていく立場になった。むろん3人はそれをよく自覚している。綾部投手は「僕らの代はまだ(関東大会といった)大きな舞台に行っていないので、必ず夏の大会で優勝して、後輩たちを[stadium]甲子園[/stadium]に連れて行きます」と力強く誓ってくれた。

<取材後記>

 高橋 祐二監督はプレーヤーとしての経験がないバレーの指導を任されていた時、“どうやって伝えれば、しっかり選手に伝わるか”ということを常に意識されていたそうです。「自分がやってきた野球なら、こういう感じと“感覚”で伝えることもできますが、それができなかったので」と高橋監督はおっしゃっていました。しかしそうした中、高橋監督は具体的に、わかりやすく伝える術を身に付けられ、バレーの監督として実績をおさめます。そして、野球部を指導されるようになってからも、同じやり方を踏襲されているそうです。

 感覚ではなく、具体的に、言葉で分かりやすく伝える―。どうやら霞ヶ浦高の強さの秘密はこのあたりにもありそうです。

(取材/文・上原 伸一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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