霞ヶ浦高等学校（茨城）【前編】

投内連係を行う選手たち（霞ヶ浦）

　霞ヶ浦高野球部には、希望者も含めると19人の投手がいる。部員数は73人なので、約4分の1が投手ということになる（投手の人数、部員数は5月8日現在のデータ）。これは（育成手腕に定評がある）“高橋 祐二監督の指導を受けたい”という投手が、それだけ多い証でもあろう。エースの綾部 翔、そして主戦格の安高 颯希と浅賀 蒼太の3人（いずれも3年）も「高橋監督のもとなら、投手として成長できると思って霞ヶ浦高を選びました」と口を揃える。

　ただ、希望者全てが投手になれるかというとそうではない。高橋監督は「3つの資質」があると考えている。

1．投げ方にクセがない
2．肘を柔らかく使える
3．立ったときのバランスがいい

　上記の3点を持った者だけを投手にしている。その上で1．筋力　2．スタミナ　3．メンタルの3つを強化していく。これが高橋監督のやり方だ。高橋監督は「3つの資質が備わっている子は、鍛えていけば“こうなるな”とわかるので」と話す。

　“霞ヶ浦高名物”とも言えるのが、高橋監督が指揮を執るようになった2001年から取り組んでいる「30メートルの立ち投げ」。マウンドは使わず、投手から30メートルのところにベースを置き、捕手を立たせて行う。霞ヶ浦高ではこの「30メートルの立ち投げ」を一年通じて、火曜と木曜の週2回、投手の練習メニューに組み込んでいる（主戦クラスの場合、シーズン中は月曜日がノースロー、火曜日が立ち投げ、水曜日がブルペン、木曜日が立ち投げ、金曜日がノースロー調整、土曜、日曜日は試合、というのが一週間の大まかな流れだ）。

「立ち投げの主目的は“球筋”を良くするためです。ボールの回転が良くなってキレが出てくれば、多少コースが甘くなってもファールを取れますしね」（高橋監督）
ポイントは、体全体を使いながら、ゆったりとしたフォームから、八分程度の力で、“スーッと糸を引くようなボール”を意識しながら投げる。球数は1年生が30球。2、3年生は80球（真直ぐ60球、胸を張ってのカーブを20球）と決まっているという。

「30メートルの立ち投げ」は、高橋監督の狙い通りの成果を生んでいるようだ。綾部投手は「それまで沈んでいたストレートが伸びていくようになった」と、安高投手は「中学時代はシュート気味だった真直ぐが、浮き上がるような感じになった」と教えてくれた。

　とはいえ、「立ち投げはやったからといって、すぐに効果が出るものではない」と高橋監督はキッパリ。他のメニューもそうだが、正しいやり方で地道に継続することが、成長のカギなのだろう。

　高橋監督は野手の送球に対しても“きれいな球筋”を求めている。守備練習でもさかんに野手陣の球筋の良し悪しを指摘していた。
「地肩だけで投げている強いボールはいりません。伸びのあるボールを投げてほしいと思っています」

左から安高 颯希投手、綾部 翔投手、浅賀 蒼太投手（霞ヶ浦）

　これから6月にかけて、どの学校も夏のベンチ入りをかけた競争が続く。投手の層が厚い霞ヶ浦高では、特にピッチャーの争いがし烈だ。高橋 祐二監督は全投手に練習試合での登板機会を与え、それぞれの能力を見極めている。ベンチ入りするためには3つの条件を満たさなければならないという。

「1つはストレートの制球力です。アウトコースとインコースのハイとロー、この4つをきっちり投げ分けられるかどうか。2つ目は真っ直ぐ以外で確実にストライクを取れるボールがあるかどうか。変化球が2球続けてボール、ボールとなった時、ストレートしか投げられないと、それを狙われてしまいますからね。最後の3つ目ですが、これはウイニングボールがあるかどうか。決め球とカウントを整えるボールは違うほうが望ましいと思っています」

　高橋監督は「計算が立つ投手でなければ、トーナメントは戦えない」とも言う。
「私は“偶然”のナイスピッチングしかできない投手は、戦力にならないと考えています。“えいっと投げて、たまたま抑えた”ではピッチングとは言えないからです。やはり“必然”でないと…たとえばランナーが出た時も、どういう配球なら打ち取れるか、思考をめぐらし、打ち取りたいと思って打ち取ってこそ、ピッチングなのです」

　つまるところ、“いかに一球に意図を持つか”ということなのだろう。高橋監督は続ける。
「投手がこういう球を投げて、こう打たせると意図を持った時、野手もそれに対応できる守備体系をとります。それなのに、安易に逆球をほうってしまうとどうなるか？組織的な守りが機能しなくなりますよね。計算してアウトが取れなければ、トーナメントを勝ち上がることもできないのです」

　霞ヶ浦高は毎年好成績を残している。これは一球、一球、意図して投げられる投手がいて、投手中心に計算してアウトを積み重ね、守りで攻撃のリズムが作れているからに違いない。

　この夏、霞ヶ浦高投手陣の屋台骨を背負う存在として、高橋監督から期待されているのが前出の、綾部 翔、安高 颯希、浅賀 蒼太の3投手だ。期待が大きいからだろう。注文も厳しい。

「エースの綾部には大エースになってほしいですね。今春の守谷高戦（2回戦）のように先に先取点を許しているようではダメ。綾部が先発した試合は、たとえ100点取られようが最後まで任すつもりなので、プライドを持って投げてもらいたい。安高と浅賀は先発2番手になりますが、4回戦以降は6日間で4試合戦わなければならない中、準々決勝または準決勝でいかに力を発揮できるか。そこでしっかり投げられなければ、ベンチにいる意味がないでしょう」

　もちろん3人の投手は、高橋監督の思いに応えようと、必死に日々の練習と向き合っている。夏に向けての自らの課題も明確だ。まるで監督の話を聞いていたかのように「エースとして、できるだけ少ない失点で抑え、守りから守備のリズムを作れるようにしたい」と口にしていたのは綾部投手。強気のピッチングが持ち味の安高投手は「ふだんから課題の投げ急ぎをしないことが、夏へのテーマです」。目下「バランスが崩れて、リリースがバラバラになっている」という浅賀投手も、懸命にフォームの修正に励んでいる。

　毎年、霞ヶ浦の投手のレベルが高いのは、好投手になるための明確な基準があるからだった。そして球筋をよくするための練習法もあった。霞ヶ浦では入学時から10キロ以上もスピードアップするという。後編ではその具体的な練習法を伺った。

（取材／文・上原 伸一）