Column

開星高等学校(島根)【前編】

2015.03.20

「身体づくり」「選球体」そして「ファミリー」で創る強打
~「絶対王者」が慌てた先制攻撃~

 昨夏、2年ぶり4度目となる甲子園全国制覇を成し遂げ、今や高校野球界の「絶対王者」といっても過言ではない大阪桐蔭。ただ昨夏甲子園の初戦、初回。彼ら1回裏の守りは「4失点」から始まった。今回のセンバツでもエースナンバーを背負う左腕・田中 誠也から一挙5安打。「試合開始から一気に行く」統一意識を持ち、彼らが慌てる見事な先制攻撃を展開したのが今回紹介する開星である。

 昨シーズンはセントラル・リーグ盗塁王。現在オープン戦で打撃絶好調を誇る梶谷 隆幸(横浜DeNAベイスターズ)(2014インタビュー【前編】【後編】 2015年インタビューや、エース・4番として高校通算40本塁打を放った白根 尚貴(現:福岡ソフトバンクホークス育成契約内野手)2011年インタビューなど、過去にも数多くの強打者を輩出している山陰の雄。では、その強打はどのようにして形作られているのだろうか?

タイプを明示した「身体づくり」

中学軟式野球部とグラウンドを二分する開星高グラウンド

「さ、寒い!!!」

 開星高校がある島根県松江市の風に触れた瞬間、最初に出た言葉はこれ以外なかった。広島県から島根県を結ぶ国道54号線の途中にはまだ50cm近い雪が残り、峠を越えて待っていたのは日本海から宍道湖を通る強い北風。空は晴れていても時折、白いものがちらつく。山陰地方における冬の寒さは以前から聞いてはいたが、こればかりは現地に立たないと解らない厳しさである。

 そんな島根県の県都が眼下に見える丘の上、開星高校も寒さに凍えていた。グラウンドもスペースは中学軟式野球部と二分。足下の土は凍結を繰り返しているため軟弱。守備練習をするにも満足な練習は難しい。就任3年目の山内 弘和監督は

「山陰の冬はずっとこんな気候ですのでグラウンドが使えない。そこを逆手に取って、秋が終わった時点で身体づくりに取り組んでいます。月1回・梶谷もオフにお世話になっている広島県の『アスリート』からトレーナーに来ていただいてトレーニング指導を頂いたりしながら、3月の頭まで週6回はウエイトトレーニング。そこに技術を加えていくのが例年の方針ですね」

 山内監督は現役時代、開星の前名称・松江一の一塁手として3年夏には第75回・夏の甲子園初出場。広島経済大を経て2000年からはコーチに就任。その時から野々村 直通前監督に練習メニュー作成などを任されている。

 そのウエイトトレーニングで叩き出された数字は選手全員に明示され、共通認識となる。さらに過去の甲子園出場時の選手データや、トップアスリートたちのデータを比較することにより、選手たちは明確に自分の現在位置を知ることができるのだ。

「当然ポジションや1番の体型や4番の体型は違いますから、そこは僕からアプローチするようにしています。たとえば打者であれば『梶谷タイプ』とか、『白根タイプ』とか」(山内監督)

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[page_break:ノルマ制の「1ヶ月2kg増」]

ノルマ制の「1ヶ月2kg増」


開星高校3年生主軸打線、右から石倉 永遠(右翼手)田邨 光(遊撃手)・石原 司(投手)

山内 弘和監督(開星高校)

 そういった身体づくりの基本ともなる体重。開星では厳しいノルマの下で体重増加に取り組む。確かな実績がそれを裏打ちしているからだ。山内監督はさらに言葉を綴る。

「特に投手の場合はスピードと体重は比例しますね。白根は入学時に最速131キロでした。そこから20㎏体重が増加した3年夏は最速149キロ。旧チームの持田 隆宏(右翼手兼投手・亜大進学予定)も入学時から17㎏体重が増えて、最速も129キロから146キロになりました。もちろん体質によって体重が増えづらい選手もいますが、そこを指導者が『仕方がない』と言ってしまうと、子どもたちも伸びません。体重が増えないということは筋肉も付いていない証拠ですし、どうしても体重が減る夏場への貯蓄も考えて身体づくりに取り組んでいます」

 ちなみに旧チームでいえば、持田は「梶谷タイプ」。171センチ80キロまで最終的に成長したリードオフマン・黒田 雅也(捕手・主将・JFE西日本入社)には、「森 友哉(大阪桐蔭→埼玉西武ライオンズ)」を要求していた。

 ちなみに梶谷 隆幸選手の開星高校時代を例にとれば、高校入学時180cm65㎏しかなかった体重が3年春には72㎏。甲子園出場を果たした最後の夏には77㎏まで増加。ヘルニア症状を改善するために寸暇を惜しんでストレッチを続けたことが今の強引・豪快なプレースタイルを支える柔軟な身体を生み出した。当時、コーチとしてその過程を最も近くで見ていた山内監督は、この話をよく「けがの功名」として伝えるそうだ。

 ただ一方で、一足飛びに体重が増加しないことも指揮官は十分に理解している。よって開星では冬場の体重増加には「月間ノルマ」がある。1ヶ月で2㎏増。事実、監督室前には全部員の増減が克明に記され、貼り付けられていた。

「これが達成できない選手は筋トレとかはさせますが、全体練習には入れません。打撃面であればフリーバッティングがあっても打たせませんし、全体練習中はジャージを履かせています」

 となれば選手たちも必死だ。昨夏の9番遊撃手「休み時間もおにぎりやパンなどを食べるようにして、お腹の中に入っている状態を保とうとしている」田邨 光(178センチ81キロ)をはじめ、選手42人は各々の方法で努力を続けている。

 厳しい気候をプラスに捉え、厳しさをもって取り組む。そして個々の特徴を理解しつつも、低くないハードルを設定する。これが開星を最も基礎の部分で支える体力面でのアプローチだ。

 前編まで開星が基礎とする体作りについて迫っていきました。後編では、開星の強打を作り上げる技術論に迫っていきます。お楽しみに!

(取材/文・寺下 友徳

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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