県立小松高等学校(愛媛)【後編】
前編では、選手の個々の打撃力アップの手法に迫った。後編では、山形中央の石川直也投手をいかにして攻略していったか、そのアプローチ法を探る。さらにこの春へ向けて、どんな思いで臨んでいるかについてもうかがった。
知将が明かす「好投手攻略法へのアプローチ」
昨夏甲子園でも登板した3年・松井 智也(左)・早柏 佑至(右)(県立小松高等学校)
こうして選手個々の特徴を活かしつつ、打撃強化に努める愛媛小松。ただ、その一方で宇佐美監督は「旧チームの練習はやりやすかった」と明かす。それは済美・安樂 智大(現:東北楽天)(関連コラム・インタビュー)の存在があったからだ。
「冬の練習はピッチングマシンの球速を最初130キロ後半から1週間ごとに3~4キロ上げていって、最終的には150キロ後半から160キロを打たせました。ここで『これだけの練習をやったんだ』となれたことが、技術的にも精神的にも夏の自信につながったような気がしますね」
結局、夏の愛媛大会は済美が3回戦で東温に敗れたことにより、愛媛小松打線と豪腕の直接対決は実現せず。しかしながらここで得たスイング形成法は、甲子園出場時の山形中央・石川 直也攻略に存分に活かされることとなる。
「まずは相手の監督が初戦にエースナンバーを背負った石川くんを先発させてくることを読んで対策を始めました。速いボールに加えてピッチングを高い位置に据えて、190cmの身長から出てくるフォークの縦回転に目を慣れさせる練習をさせたんです。もちろんDVDも見せました。もちろん左投手の対策もしていました。けど、山形大会準決勝のDVDでは佐藤 僚亮くんが打たれていて(笑)。あれだけ出来がいいことは想定外でしたが……」
指揮官の意識付けは「石川さんは速く見えなかったし、力を抜いてシャープに振り抜けた」大上をはじめ、数多くの打者をよりリラックスさせる効果を生むことに。その結果は……。前編の冒頭に記した通り、4回途中での石川降板につながったのである。
「強さ」に加えたヨガによる「柔軟性」
ヨガトレーニングに勤しむ小松の選手たち
(県立小松高等学校)
ここまでは「強さ」を中心に話を進めてきた愛媛小松の打撃強化への取り組み。ただ、チーム内では一昨年6月から取り組んでいる「もう1つのこと」がある。関節の可動域と正しい身体の使い方を染み込ませるためのヨガトレーニング。取材日はちょうど「精神的なメリハリも兼ねた」(宇佐美監督)ヨガと筋トレ中心の火曜日。さっそく筋トレ班と入れ替わりでヨガを行っている様子を見せてもらうことにした。
きやま治療院・木山 繁さんの動きに合わせ、呼吸を整えながら開脚や前屈、さらに指関節の細やかな場所までストレッチを行う選手たち。新2年生たちはまだ顔をしかめる場面も多いが、新3年生たちは黙々とメニューをこなしていく。
「柔軟性やマウンドでの落ち着きにつながった」松井 智也、「可動域が広がってボールにキレが出てきた」早柏 佑至。昨夏、この2人をはじめ5人の継投策で夏の愛媛を制した裏に、パワーと瞬発性の融合があったことは想像に難くない。
「股関節やインナーマッスルを意識することが大事なんです。能力を引き出す際の小道具にしてくれれば」。指揮官の意図は着実に浸透している。
秋の悔しさにつながった「心」仕上げ、再び聖地を目指す
甲子園出場によって地区別新人戦出場は辞退し、迎えた昨秋の県大会。松井・早柏の投手陣に4番・捕手である大上の主力3枚が残った愛媛小松は当然のごとく優勝候補の一角としてあげられた。準々決勝は昨夏決勝戦で大勝した松山東。しかし結果は……。
「相手のチャンスで自分から崩れて点を取られてしまった」。2番・二塁手の小西 奎輔(3年)が悔いたように、攻守に精彩を欠いた愛媛小松は3対4で松山東の前に敗戦。
「秋の敗因は気持ち。個々の能力はあるが、気持ちは相手の方が上だった」と宇佐美監督。そして今年1月23日、秋の県大会準優勝の松山東は21世紀枠で甲子園出場。正に「明と暗」。彼らの悔しさは増幅されている。
「甲子園に行ったのは先輩のチーム。挑戦者として僕らはがんばりたい」
リードオフマン・主将の伊藤 智樹(3年)はこう春以降の意気込みを語った後、さらに言葉を続ける。
「あの松山東戦があったからこそ、冬の練習も乗り越えられている。敗北の悔しさをバネにして松山東と対戦するまで、他の高校には負けません」
どんなに技術を高めても、体力を上げても、柔軟性を整えても、最後にそれを実行に移すのは人間の「心」。愛媛小松は春・そして夏に向かって心を仕上げ、再び聖地で歓声を浴びる道を切り拓いていく。
(文・寺下友徳)