奈良大学附属高等学校(奈良)【後編】
後編では奈良大附属の環境について迫りました。私学ですが、実はそれほど施設は恵まれているわけではなく、他部活と兼用になることが多いようです。そんな中で、選手たちはどういう調整をしているのでしょうか。
選抜出場が決まってもいつも通りの冬を過ごす
打撃練習前にベンチプレスを行う(奈良大学附属高等学校)
奈良大附属は名前からわかる通り私立だが、その練習環境は立派なウエイトトレーニング器具や室内練習場があるわけでもなく、雨の日は校舎内でランニングと筋力トレーニングを行う。
グラウンドも他の運動部と共有で、この日は15時までサッカー部の公式戦が行われていたため、その時間帯は学校近くの坂道でダッシュを繰り返すなど、周辺の環境で、できる限りの練習に取り組んでいた。
今年は坂口 大誠、奈良大附池田 陵太と全国クラスの投打の中心選手がいるが、スーパー1年生が毎年のように入ってくるわけでもなく、その雰囲気は強豪私立というよりも公立校にかなり近い。
選抜を控えた初めての冬だが練習メニューは、「いつもよりは若干ランナーをつけてのノックやシートバッティングを増やしてるのはありますけど、いつもとそんなに変わりませんよ」と例年通りの調整を行う。雪の積もらない地域ということもあり、シーズン中、オフシーズン関係なくボールを使っての技術練習とトレーニングを年間通して行っている。選抜までの残り1ヶ月の中で、何より望まれるのは打線の強化。
近畿大会では京都鳥羽戦(試合レポート)は8回まで、箕島戦(試合レポート)は5回まで互いにゼロ行進が続き最終スコアも共に3点以下のロースコアの試合だった。坂口が相手打線を抑える一方、奈良大附属打線も効果的に得点を奪うことが出来ず主導権を握れなかった。選抜で勝ち上がるためには攻撃陣の奮起が欠かせない。
クリーンアップに名を連ねるW池田と進化するエース
左から松下侑平選手、坂口大誠投手、池田悠介選手(奈良大学附属高等学校)
ここで選抜へ向けてキーマンを紹介していきたい。8番・ショートの松下 侑平は、その守備力を買われていたが、「朝練もずっと頑張って、練習の雰囲気を見ていると打撃もやってくれそう」と田中監督は期待をかける。
また、これまではベンチ外の選手だったがファーストのレギュラーとして池田 悠介(2年)に1桁の背番号を与えクリーンアップを打たせる方針だ。
本人も「長打力が持ち味なのでそこを見てもらいたいです」と全国デビューを心待ちにする。その影響で近畿大会ではファーストを守っていた池田陵は本来のセンターへ。池田陵はスイングスピードや反応速度も速いが、最大の特徴は打ってから一塁に到達するまでの速さ。普通のセカンドゴロでもセンター寄りの打球なら一瞬でも握り変えればセーフになる。
旧チームで1番を打っていた時の打率は.450ほどもあった。3番を打つ現在は出る打撃よりも決める打撃が求められるため打率.380前後だが、その分長打が増えている。プロ野球選手で例えるなら糸井 嘉男(オリックス)や柳田 悠岐(ソフトバンク)(2015年インタビュー【前編】【後編】)タイプ。鋭い打球と抜群の脚力が大観衆の目を釘付けにする日も近い。
さらにエース・坂口もさらなるレベルアップを目指し新球取得に挑戦中。すでに感触は上々で「これが完成したら選抜でもいいところに行けると思います」と手応えを感じている。
「ピッチャーらしいピッチャー。打順や打ち方を見て次のボールを考えるクレバーさがある」というのが田中監督の評価。近畿ナンバーワン右腕と呼ばれる理由は単にいい球を投げるからだけでは無いようだ。
[page_break:初の甲子園では自分たちの野球を]初の甲子園では自分たちの野球を
髙橋 康太朗捕手(奈良大学附属高等学校)
選抜での目標を3番・主将としてチームを引っ張る池田陵はこう語った。
「チーム全員悔いの残らないように自分のプレーをして楽しむこと。個人の目標はいいピッチャーとの勝負を楽しむことです!」
不動の大エース・坂口は「みんなでの目標は校歌を歌うことですね。個人の目標は粘りのあるピッチングをみせることです!」
坂口とバッテリーを組む髙橋 康太朗は「ピッチャーを気持ち良くいい球を投げさせられるように、試合が近づいてきたら調子を見てコミュニケーションとってやっていきたいです」と語る。
試合経験豊富な前田 勇大は「周りの人たちが手伝ってくれて初めて甲子園という舞台に立てる。恩返しの意味を込めて全力で野球する姿を見せられたらいいと思います」
中山 怜央選手(奈良大学附属高等学校)
さらに、坂口以上の球威を誇る控え投手・中山 怜央(2年)は、「緊張すると思うんですけど自分達の野球をして楽しみたい」
と話した。田中監督が「甲子園に行くからには奈良代表として上に行きたいんですけど、先ばっかり見ずに足元見つめて1戦1戦全力で戦って行きたいです」とやや控えめだからか、主力選手からも何が何でも勝つ、というよりも自分たちの野球をという答えが相次いだ。
ただ、池田陵も坂口も、県内の甲子園常連校ではなく、その次に甲子園に近い学校、県下の両雄を倒せる可能性のある学校として奈良大附属を選んだ。集大成は夏に見せるとして、ひとまず奈良大附属の野球をみせるチャンスが1ヶ月後に訪れる。
(文・小中 翔太)