Column

明豊高等学校(大分)【前編】

2015.02.11

あと1歩!を堅守で乗り越える

 堅守から甲子園を目指す!2014年、甲子園をあと1歩で逃した大分県・明豊高校はこの冬も守備にこだわった練習メニューを組んでいる。チームを率いる川崎監督の考え、二遊間を守る選手たちの思いについて迫った。

偉大なOB、偉大な名将…川崎監督の中で重なったもの


グラウンドの外には湯けむりも見られる(明豊高等学校)

 毎年恒例となった偉大なOBが自主トレする光景を、選手たちは、それぞれの思いで見つめていた。
「動きの俊敏さに驚いた」と話す者もいれば、「どうやれば、あの守備にたどりつけるのか」と自問自答する選手もいる。

 明豊高校グラウンドは大分県別府市市内の丘陵地帯に位置する。温泉地帯に近く、周囲には湯けむりが見られるほどだ。グラウンド脇からは別府湾が一望できる。ただ、冬場には、「鶴見おろし」という山から別府湾へ向けて冷たい風にさらされる。選手たちは、そんな厳しい環境で連日、約6時間の練習を積み重ねている。

「偉大なOB」とは、福岡ソフトバンク・ホークスの今宮 健太内野手2014年インタビューのことだ。シーズンオフに、自主トレで姿を見せている。ショートで2年連続ゴールデン・グラブ賞を獲得。小さい体を精一杯動かす姿勢に、選手たちは目を奪われた。

「今宮のすごいところは、自主トレでも必ず守備練習を入れるところです。他の選手ならランニングだけ、バッティングだけという人もいる。今宮は何があっても守備のメニューが入っています。選手たちは自主トレを見るだけで守備の大切さを分かってくれていると思います」

 川崎 絢平監督のこだわる「守りの野球」は明豊の1つの伝統でもある。一方、部長、監督として5年近く携わってきた明豊に来てからも、守備には強いこだわりを持っていた。

 智弁和歌山高校に進学して、1年夏からベンチ入りした。1997年夏。いきなり中谷 仁(元阪神など)らとともに日本一の勲章を得た。その後も2年夏3年夏と甲子園の土を踏み続けてきた。高校、立命館大を通じてショートを任されていた。選手時代も指導者になっても、守備の大切さにこだわりを持ち続けている。

 名将・高嶋仁監督からの言葉があった。それは1年生でベンチ入りできた理由だった。
「キャッチボールを見ただけで(ベンチ入りメンバーとして)選んだ」

 その言葉は今でも川崎監督の心に焼き付いている。「キャッチボールが大切なことは変わりありません。キャッチボールをしっかりできない選手がレギュラーになることはありえないと思っている。練習で正確に相手に返せないなら、実戦の時のミスにつながってしまうことが多くなります」と力説する。コーチとして2年間、母校・智弁和歌山では高嶋監督の下で指導者修行を積んできた。

「就任したときから守備への意識の高さを感じた」と明豊の伝統、甲子園の常連でもある智弁和歌山で培った知識が合わさったものが、今の明豊の練習方法に受け継がれている。

2015年度 春季高校野球大会 特設ページ

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キャッチボールから実戦形式

米安 王貴選手(明豊高等学校)

 とにかく守備に割かれる練習時間は長い。準備運動、ストレッチ、体幹トレーニングが終わった後、キャッチボールには長い時間を当てる。バリエーションは豊富だ。1対1の短い距離のキャッチボールに始まり、距離が長くなる。さらに3人1組、4人1組になってのものとなる。

 たとえば、内外野の連係、中継プレーを意識したものがある。2人の間には1、2人の選手が入る。ある時は中継に入って振り向きざまに素早く送球する練習をする。間の2人が入らず、スルーして直接、遠くの位置にいる選手にダイレクトに投げることもある。プレーに入らなくても、選手たちは声を掛け合ったり、互いの動きを確認したりしている。

「キャッチボールから実戦形式を採り入れています。時間をかけて選手たちにも意識をさせている」と川崎監督。キャッチボールへのこだわりは強い視線からも感じ取られた。選手たちの意識も高い。練習の間に細かなミスを確認するなどの行動も見られた。

 主将でもある米安 王貴(おうき)内野手(2年)も「1つ1つのプレーで手を抜かずに真剣に取り組むことが次につながる」と話す。

 キャッチボール後はノックに移る。守備に割かれる時間は想像以上に長かった。選手の一部がティー打撃、ベースランニングなどを行っている時でも、グラウンドでは守備中心の練習が積まれていた。

シートノックでは正面から左右への揺さぶるものもある。場面の設定も多彩だ。川崎監督が選手に意識させているのは次の通りだ。

・最初の1歩目
・打球判断
・キャッチ
・足運びのスムーズさ
・スローイング

「シートノックでもキャッチだけでは意味がない。その後の送球動作まで意識させて練習させている。ノックの練習をノックの範囲で終わらせないようにしている。そこには体力強化も含まれています」と説明する。

 新たな練習にも取り組み始めた。佐賀北百崎 敏克監督の提唱する「サイレント・ノック」を導入。甲子園のような大歓声に包まれた大舞台なら、選手同士の声も打ち消されることも想定される。声を出さずにノックを受けるという、いろんなシチュエーションを模索しての取り組みも見られた。

2015年度 春季高校野球大会 特設ページ

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[page_break:徹底した連係プレーの確認]

徹底した連係プレーの確認

連係プレーを意識した練習(明豊高等学校)

 シートノック後は併殺、投内、内外と連係プレーへと移っていく。
1月末となった取材日に、川崎監督は二塁ベースの後方で選手の動きを見守ることが多かった。あるときは選手を呼び止めて、手振り身振りを交えて指導する姿も見られた。特に二遊間の動きには目を光らせる。そこにも監督としてのこだわりがあった。

「もちろんバッテリーは重要だと思う。同じぐらい重要視しているのは二遊間です。それは、コーチ、部長、監督になっても、こだわりがあります」
川崎監督自身は智弁和歌山時代、ショートを守ってきた。ただ、監督となった今、こだわりはセカンドにある。

「守備上ではショートは守備範囲も広いし、派手なプレーで注目を集めることが多いかもしれない。ただ実際、試合になったときに内野で最も動いているのはセカンドです。イレギュラーな動きの多いポジションです。応用力が常に求められる。ベースカバーなど試合のシチュエーションに応じたステップを覚えないといけない。振り向きざまに強い送球も求められることが多い。グラブさばき、足の運び、俊敏さ、強肩、器用さなどを含めて多くの要素が求められている」

 この冬も二遊間に適応できる選手を、1人でも多く探し求めて練習を見守る。(後編に続く)

 前編では明豊の守備練習の内容について取り上げました。これほどの守備練習に時間を割くからこそ、伝統的に守備が上手い選手を輩出しているのでしょう。後編では明豊の二遊間の選手に秘めるスピリットを追います。

(文・中牟田 康

2015年度 春季高校野球大会 特設ページ

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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