Column

都立足立新田高等学校(東京)

2015.01.10

「基礎から」「1から」で再びの躍進を

 東東京地区を数えただけでも帝京関東一岩倉東亜学園堀越など、全国屈指の強豪が名を連ねる東京都。その中でも2014年・春都ベスト16東東京ベスト16に進出したのが足立新田である。

2006年夏の東東京大会ではベスト4進出の快挙。当時エースだった東京ヤクルト・秋吉 亮中央学院大パナソニック)は昨シーズン61試合に登板するなど都立校強豪のパイオニア的存在。そんな彼らはこの冬、何に取り組もうとしているのか?秋の都ブロック予選初戦敗退後、再びの躍進を期す練習内容を探った。

「キャッチボール重視」「自主性」の真意

シートノックに臨む選手たち

「引退した3年生のチームは、今の倍以上は下級生のときからレギュラー、またはレギュラーに近い子が多かったんですよ。特にバッテリーはそのまま残っていたので、冬にも実践に即した練習ができました。
ただ、今年は夏に残った選手がほとんどいない。1からやり直しだなと思っています。文字通りの新チームです」
 

 そう現状を語るのは就任4年目を迎える32歳・小野 将幸監督である。確かに夏にベンチ入りしていたのは、背番号5の里見 将太(2年)、背番号11の吉田 朋樹(2年)、背番号12の小田 正樹(1年)、背番号18の瀧口 優大(2年)、背番号13の瀬川 弘隆(2年)と、20人中6名のみ。レギュラーに絞ると里見1人だけである。チーム作りに必須となるセンターラインの整備もまだなされていない。

 ただその反面、「1から」だからこそできることも多い。そこで小野監督が重視したのが「キャッチボール」だ。

「まずはキャッチボール、ゴロの取り方、練習に取り組む姿勢、野球以外の部分を大事にしています。基礎技術がしっかりしてこそ、技術は一番伸びると思いますし、練習に取り組む姿勢、また学校生活の生活面もしっかりと行う事で、精神的な強さも身につくと考えています。特にキャッチボールでは色々な事を身に付けられると思います。キレのあるボールを投げるためのフォーム、コントロールなどです。また実戦に即した動きが出来るようになると非常に効果があると思います。例えば、内野手ならば、外野に打球が抜けて中継に入って、素早く内野に返球するなど。そういう事まで想定して練習するとうまくなりますからね」
 

 ここまで小野監督がキャッチボールなどを重視するのには、これまでの指導経験が関連している。小野監督は都立高島卒業後、日本体育大に進学時は中学時代に在籍していた東京北シニアで指導。甲子園出場校に数々の選手を送り出す名門の原動力ともなった、判りやすく噛み砕いた基礎指導は、卒業後に赴任した母校・都立高島で外部コーチを務め、そして5年前に赴任し、4年前から監督に就任している足立新田でも指導ベースの根幹となっている。

 加えて小野監督が重視しているのは「自主性」である。
通常、監督・コーチの見せ場でもあるノックだが、足立新田では練習中のノックは選手が打つ。その時、小野監督はネット裏で選手の動きを見ながら観察し、指示も簡単なアドバイスをするのみだ。そこには様々な狙いが含まれている。

「私がいない時でも、自分たちで練習メニューを組み立てることができ、自分たちで野球を考えられる選手でないと試合では戦えないんです。ノックを選手に打ってもらうのも、まず言えるのが、ノックが上手い選手は打撃もうまいですが、ノックが下手な選手は打撃も下手です。これは選手たちが実感していると思いますよ。また野球はいろいろな選手の打球を受けますよね。私が打つ打球だけには慣れてはほしくないんです」

 選手たちが集まって、話し合う様子を見つめながら、指揮官がタネ明かしをしてくれた。

 チームの現状を把握したメニューを組みながら、練習から実戦に近い状態を作って自主性と対応力を養う。これが彼らの強さを支えている。

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筋力トレーニング、四股踏みで土台固め

足立新田グラウンド

 このような練習を現在ベースにしている足立新田だが、同時に身体の土台作りにも力を入れている。きっかけは去年まで続いていたグラウンドの改修だ。まとまった練習が出来ない中で力を入れ、現在も継続しているのが、筋力トレーニングと四股を踏む練習である。

 まず筋力トレーニングについだが、月1回野球部に来校するトレーナーの指導の下、オフ期間は週3回・シーズン中でも週2回のウエイトトレーニングを採用。これには学校のカリキュラムもアシストしている。

 たとえば多くの野球部員が2学年から専攻している「スポーツ健康系」は、トレーニング器具を扱い、自ら身体を動かすことで生涯スポーツ能力や資質を伸ばすカリキュラムだ。これによって彼らはトレーニングウエイトトレーニングをより正しく、深い理解を持って行えるようになっているのだ。

 四股を踏む練習では都立高で唯一、相撲部も野球部を力強くアシストしている。同期の秋吉 亮と共に足立新田の名を全国に轟かす千代 大龍(九重部屋・初場所前頭5枚目)を輩出した顧問の先生に四股の踏み方を教えてもらい、学校にある中庭で、毎日四股を踏む練習を行っている。

 また、食事量は「自主性」を重んじるチーム方針により、選手が決定する形を採っているが、それでも3年生と一緒にトレーニングを行ってきた2年生の体つきは、1年生と比べて実に逞しい。

 昨冬については、その効果はテキメンだったようだ。前チームの主将・宮崎 聖也(3年)は「全員の打球の速さ、飛距離が格段に変わった」と語る。多くの選手がさく越えの本塁打を打てるようになり、守り勝ちが多かった秋に比べ、春以降は前チームのエース・秋吉 飛呂(3年・秋吉 亮の弟)が不調でも、打線がカバーできるようになった。宮崎自身も春季都大会上野学園戦で2本塁打を放っており、主軸打者としてパワーアップした姿を見せている。

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ブロック予選初戦敗退から這い上がり 躍動を期す

秋吉 飛呂選手に話しかける小野監督

 とはいえ「経験不足」を補えるほど今回は甘くはなかった。練習試合でも負けが多く、厳しい立ち上げ期間。「8月のブロック予選を勝ち抜ければ本大会は9月中旬。勝てれば本大会へ向けて、より意識を高めて取り組んで、チームが成長するのではないか」小野監督はそう考えブロック予選大会に臨んだが…。

 ブロック予選初戦の相手は王子総合。初回に2点を奪われ、1回裏に5番若山選手の2点適時打ですぐに同点に追いついた。3回表に1点を勝ち越されたが、3回裏に里見選手の適時打などで3点を入れ、逆転に成功し、5回まで6対5とリード。

 ところが、6回に3点を入れられ逆転を許し、7回にも1点を入れられてしまった。その裏の攻撃で2点を追い上げ、1点差に迫ったが、追い上げ及ばず惜敗となった。

 この試合を振り返り、小野監督は「まだ力不足ということですよね。スタメンに出場している選手は、練習試合では本当に良かったのですが、この場面で発揮できないのは、練習が足りないということでしょう」と話す。

 ただ、決して悲観はしていない。

「もちろん勝つことが一番ですが、昨年夏全国優勝した大阪桐蔭も、一昨年秋はコールド負け(府大会4回戦:1vs13履正社)だったように、負けた時にどう感じて、練習に取り組めるかだと思います。またベンチ入りしていない選手も、レギュラーに負けない選手たちが多くいます。切磋琢磨しあいながら、取り組んでほしいですね」

 どんな取り組みをすれば勝てるかは先輩たちが示してくれている。キャッチボール、取り組む姿勢ばかりでなく、ウエイトトレーニングや四股などの身体作りなど、経験不足を埋め、飛躍をする手法は確かにある。

 そしてあきらめず努力をすれば、都立高からでも活躍できることも彼らは知っている。大先輩の秋吉 亮に続き「都立足立新田」が神宮の杜で再び躍動する瞬間。その時を引き寄せるために、彼らは今日も自らと向き合い、鍛錬に励んでいく。

(文・河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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