Column

県立松戸国際高等学校(千葉)【後編】

2014.12.28

「ノーサインでのスクイズが理想!監督のロマンはみんなのロマンに」

 前編では、松戸国際が重視する感性を働かせる取り組みについて迫った。後編では、具体的にどんなチーム、どんな選手を目指しているのか。また夏へ向けての意気込みを詳しく語っていただいた。

勝者らしく振る舞うことが、精神的な強さへ


ミーティングの様子

 前編で、選手たちはベンチ横にある言葉を読み合わせをして、お互いの行動を確認する作業を大事にしていると述べた。特に「勝者らしくふるまい、行動する」という言葉は松戸国際ではとても大事にしていることである。石井監督は市立船橋時代にマナーを巡ってこんなやり取りがあったことを話した。

「私が就任した当初、相手投手から死球を受けて、怒っている選手がいました。マナーが悪いのだから、指導者として指導しなければなりません。また相手を怒らせると何がいけないかといえば、格上のチームに対してやってしまうと、燃えさせて、返り討ちにされてしまうんですよね。
勝負事は最後まで分からないのだから、淡々と振る舞うのは大切なことなのです」

 石井監督のこの考えにより、試合での振る舞いが変わったのがエースの植谷だ。植谷は、2アウトからのピンチで打者を抑えても、ガッツポーズを見せることなく、淡々とした表情で、捕手からボールを受け取って静かにボールをマウンドに置く。打たれても、抑えても、淡々としている。植谷に聞くと、
「ポーカーフェイスというのを意識しています。これでも小学校、中学校の時は、味方がエラーした時、顔に出していたときがあったんです。でも高校では、ピンチの場面でも、抑えてこそ投手だと自分に言い聞かせています」

 私学の強豪校の打者を相手にしても抑えてしまう速球のスピードや、スライダーのキレがある植谷だが、ピンチの場面でも力を出せるのは、「勝者らしくふるまう、行動する」ことを心掛けているからだろう。

チーム内 コミュニケーション術
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ソフトバンク・岩嵜投手が一番楽しかったと語るノーサインでのスクイズ

石井 忠道監督(松戸国際)

 自主的に話し合い、練習に取り組み、また試合では、感性を働かせて、駆け引きが出来るようになってきた選手たち。そんな選手たちに対して、周囲は「言われないで、自分たちで野球が出来るチーム」と評価する。

 今年のチームを石井監督は、
「あのチームに近づいてきていますね」と語る。

 あのチームとは、2007年夏に出場した市立船橋だ。市立船橋時代、石井監督が最後に指導した世代である。その時は、岩嵜 翔(現ソフトバンク)、山崎 正貴(元オリックス)と2人のプロ入りした投手が注目されていたが、石井監督曰く「非常に心が通ったチーム」だったという。

「やっと私が目指すチームになってきたと思いましたね。彼らは自分からサインを出して、動けました。バント、盗塁、スクイズ。点差、カウントなどの状況を見て、何を仕掛ければよいのか、私が言わなくてもノーサインで出来るんです。
私は練習試合の時、裏で見ていることが多いのですが、ノーサインで、細かい野球が出来る選手の姿を見た人が良く言うんです。『何か秘訣があるんですか?』と。私は『テレパシーを送っているんだよ』と笑って返しました(笑)」

 そして、当時エースの岩嵜とは今年3月に食事をする機会があったという。そこで高校時代の話で盛り上がった。岩嵜が高校時代で一番楽しかったシーンが、ノーサインでスクイズを決めたことだ。
「彼が三塁走者で、当時の主将の野田 和宏が打者。岩嵜が相手チームの守備陣の仕草を見て、スクイズが出来ると察知をして、野田とアイコンタクトをしながら、相手の隙をついてスクイズを決めたんです。選手自らが観察をして、ノーサインで、狙い通りに決める。それは快感だったと思います」

 石井監督も嬉しそうに語っていた。これが石井監督が求める選手、プレー、チームだろう。ノーサインで細かい野球が出来るまでに徹底的に練習をし、戦術は練習試合で教え込む。あとは、選手が実践できるように見守るだけだ。
そしてアイコンタクトで、何をやるかが分かるほどの信頼関係がなければならない。それには日頃のミーティングでのコミュニケーションが問われることになる。

 ノーサインでも野球が出来る選手になるためには、感性を働かせる行動を求め、選手たちが自主的に話し合って課題を明確にしながら、練習に取り組むこと。そしてアイコンタクトなどの一瞬の仕草で、その選手が何をするのかが分かるほどの信頼関係を築くこと。そのサイクルによって自主性が高い選手、チームへと成長していくのだ。

チーム内 コミュニケーション術
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監督が語る「男のロマン」は、「みんなのロマン」へ

 11月には千葉県の21世紀枠の推薦校に選出された松戸国際。21世紀枠関東地区の候補校に選出の期待がかかったものの、群馬富岡が選ばれ、21世紀枠からの甲子園出場はなくなった。向かうは夏だけだ。

石井監督は、取材日(12月12日)の練習前、選手たちにこう語りかけた。

4回に3点を返した松戸国際【第67回秋季関東地区高等学校野球大会 準々決勝 健大高崎戦より】

「実力で選抜を掴むチャンスがあった関東大会準々決勝で負けて、これ(21世紀枠)は他力本願だけど、ここでも逃した。もう夏しかない。お前たちがここまでになってきたのは、真剣に練習をしているから。良くやっていると思う。あと一歩で見えるところまできた。

 でも夏の千葉は厳しいぞ。まだ自分に対して甘さがないか?限界を決めるのは自分だ。強くなるのは、自分の心次第だ。専大松戸習志野などの強豪は冬を超えて本当に変わるぞ。2012年はに勝った木更津総合でやられた試合レポート。生半可な気持ちじゃ初戦で足をすくわれるぞ!」

 見据えるは夏。夏の千葉は僅か2週間という期間で、7、8試合。さらに5回戦から決勝までは5日間で4試合を戦う。非常にタイトな戦いを勝ち抜くために、選手たちにはより真剣になって練習に取り組んでもらいたい。そういう思いを伝えていた。

 また、石井監督には限られた環境の中、一から甲子園を狙えるチームを作り上げた自負がある。そんな環境から甲子園に出場出来れば、石井監督は「男のロマンですね」と笑う。主将の岡本は、
「最初はピンとこなかったのですが、最近は、部室でみんなとこの環境の中で、甲子園に出場出来ればすごいなと感じていて、今になって監督がいう『男のロマン』が分かります」と語ってくれた。

 選手たちも「男のロマン」に共鳴しつつある。このロマンを成就すべく、選手たちはさらに自分たちを追い込み、仲間を思いやり、前進する。

(文・河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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