Column

敦賀気比高等学校(福井)

2014.12.13

 2014年夏、5試合で計58得点、5試合連続の7本塁打と圧倒的な打撃力をバックに1995年夏2013年春に続く全国ベスト4に駆け上った敦賀気比。その強さの秘密を東 哲平監督と前チーム主将の浅井 洸耶選手に迫った。

仲間を思いやる「守備重視」の敦賀気比野球


東哲平監督と浅井洸耶選手

 まず敦賀気比の野球で大事にしていることとは?という問いに、東 哲平監督は明確にこう答える。
「私生活をしっかりした上で、野球でも勝つことです」

 敦賀気比は全寮制である。新入生は「何が何でも野球で甲子園に行く!」という思いを持って目をギラギラさせながら入学してくる中、寮生活や練習における「野球部としての」私生活を含めた厳しさは勿論ある。

 が、最近はその厳しさにも変化が生じてきた。指揮官ですらも選手たち同士の仲の良さに驚かされているという。
「今の子供たちは優しい子が多いです。昔の野球部のような先輩後輩の関係が必要以上に無く、仲間が仲間を思いやれる関係とチーム作りが勝手にここ数年で出来てきている。選手たちが敦賀気比の野球部を作り上げていると思います」

 グラウンド上や寮生活、私生活でも仲間を思いやる伝統がここ数年で作れて来ているのが躍進の理由だというのだ。

 また、この夏は強打で圧倒した敦賀気比だが、東監督の見解は全く逆だ。
「ウチは基本的に守備重視の野球です」

 では、攻撃と守備ではどのくらいのウエイトをおいているのか?と問うと「守備が8に対し、打撃が2」だという。その理由はこうだ。
「守備が0点で抑えれば試合に負ける事は無いです。守備が良ければリズムが生まれ、バッティングにも繋がります」

 実際、練習時間でも8割が守備練習に費やされる。
しかも「2割」の打撃練習は1ヶ所バッティングと3か所バッティングを行うに過ぎず、特別な練習はしていない。ところが試合内容では活発な打撃が目立つ。いったい、この短い時間でどのような意識と技術を持てば、破壊力ある打撃が出来るのだろうか?

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[page_break:「思いきり振る」意識徹底で破壊力ある打線を築く]

「思いきり振る」意識徹底で破壊力ある打線を築く

 強打へのキーワード。東監督は「敦賀気比のモットー」がカギを握っていると話す。
敦賀気比高校の野球はとにかく全力で最後までみんながやりきることです。それがつながっているのかもしれません」

 確かにそうだ。守備練習を凝視すると「思いっきり投げて、思いっきり走って、思いっきり打って、どんな形であろうがアウトにする」事を心がけて練習している。
よってバッティング練習も基本的に全力スイングをするのがモットーだ。小手先で器用なバッティングをしても、いい投手が来たら力負けする。そのため打撃練習では、「思い切って振れ!」が口癖だという。

思いきり振ることを意識して
打撃練習に励む

 では、選手側は練習量、練習内容についてどのように思っているのだろうか?

 夏の甲子園では主将ばかりでなく、「3番・遊撃手」として21打数7安打とチームをけん引。3回戦では福岡ソフトバンクドラフト1位の松本 裕樹(盛岡大付)から勝ち越しソロを放ち「強打・敦賀気比」のイメージを決定的なものとした浅井 洸耶に聞いてみた。きっかけは11月中旬から3月初頭まで約4か月半に及ぶ「冬の練習」だという。

「雪国にある学校なので、冬には外での練習は殆ど出来ないんです。ですから、室内での打ち込みはかなりやりました。メニューとしてはティーバッティングを含む全力での打ち込みを約800本。全力での素振り6秒に1回スイングを30分間。これが一番辛かったですね。毎日やり続けると手の皮がボロボロになるんですよ。寮に帰っても風呂でのシャンプーは指先の腹しか使えない(笑)。

 でも、冬を超えると、スイングスピードもものすごく速くなりました。バットスイングが速くなると、タイミングの取り方にも余裕が出て、冬前の感覚でバットを振るとボールに当たらないんです。ほぼ全員に起こった現象です」

 冬に取り組んだのは「フルスイング」を通じての体力・型作りばかりではない。その土台となる身体作りにも力を入れた。
「身体が細い選手が多かったので冬場で身体を大きくする事をまず心がけ、一人一人に目標体重を決めてご飯の量を増やし、筋トレを行い身体を強く大きくしました」(浅井)

 では、これほど選手たちが本気になって、練習に取り組めたきっかけは何なのだろうか。主将の語った要因は意外とも言えるものだった。
「僕らの代は1年秋に6連覇がかかった1年生大会で敗れているんです。さらには2年秋にも選抜に行けず。最弱と言われたチームでした。それがあっての冬。毎日の苦しい練習を全力でやる事で必ず強くなる。絶対、夏の甲子園で結果を出すとの強い気持ちを当時のメンバーは常に持っていたと思います」

「現状の弱さ」を認め、「甲子園で結果を出す」高い目標を持って、「全力」で取り組む。その積み重ねが聖地の大観衆を沸かせる強打に結びついたのである。

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「思い切ってやる」の相乗効果

 先ほど触れたように、敦賀気比のモットーは「思い切って打つ」だけではなく、「思い切って投げる、思い切って走る」ことである。なかなかできるようでできないことを、体現し続ける狙いは何か。それは、練習を練習のためでなく、「試合のため」と捉えているところにある。東監督は常々選手たちにこのような話をしている。

思い切って走る
【長崎がんばらんば国体2014 試合写真:明徳義塾戦より】

「日頃の練習を全力でプレーし、やりきらない限り体が正しい形を覚えないですし、心も成長しない。うちの場合全力でやった練習でのミスはOK、試合でのミスも全力であればある意味OKと考えているんです。

 ですから、私が心掛けている選手育成とは、『大事な試合で全力でやれる勇気と自信を持たせてあげる為に日頃から何をするべきか』。日頃から思い切りやっていかないと、やはり大事な場面で萎縮をして、消極的なプレーをしてしまいます」
 

 実は、この「全力」をすることによる相乗効果もある。それは、高校球児のみならず、野球人の多くが抱える悩みである「イップス」についてだ。

 敦賀気比でも下級生の時には非常に良いプレーをしているが、いざ上級生になると、責任感から高く意識を設定し過ぎ、自分を苦しめ、結果イップスを発症してしまうケースがあった。実は今だから明かせる話だが、浅井もかつてイップスに苦しんでいた時期がある。

 ただ、東監督もそれは織り込み済み。だからこそ「全力投球での暴投はOK」にしている。そしてそこに、冒頭に触れた「仲間を思いやる関係とチーム作り」が加わってくる。

 もちろん、現チームにもその精神は伝えられている。ノック中でも全力投球の暴投をしてしまった選手に対してグラウンドに響くのはチームメイトからの励ましの声。それがいつしか輪になった。東監督が話す「思いやりのある気持ちからのチーム」がここでも成り立っているのである。

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敦賀気比の強さは「選手が創りだすサイクル」


甲子園で活躍した3年生たち
彼らの強さは選手たちが創り出す

 もちろん選手が築き上げる以上、「敦賀気比のチーム気質」は代によって多少は変わってくる。前主将・浅井のビジョンは以下の通りであった。

「僕はキャプテンとして口で言うタイプでは無かったので、プレーで示し、そしてチームワークを常に気にしながらチームを作っていきました。チーム作りでは先輩、後輩は関係無く友達の領域まで持って行くことが出来ました。これが良いか悪いかは別として、このチームに合っていたし、僕がやりたかったチーム作りです」

 チームワークの良さ、思いやりからチームの土台を作り、「失敗を恐れず思い切ってやれ」と言う方針や、常に全力で行う練習とシンクロさせ、モチベーションを高く維持し続けることで揺るぎない自信を身に付かせる。これが夏の大舞台における結果を生み出したのだ。

 浅井がその考えを形創るようになったきっかけ。それは2年時に野球を辞めたいと思うほどの大スランプに陥った彼に対し、仲間たちがとった行動だ。

「普通、試合に出られない選手が一人出れば、一つポジションが空く。『スランプの僕を蹴落としてやろう』と考えるじゃないですか?でも、敦賀気比野球部では全体練習でも、個人練習でも僕を蹴落とそうとする行動や、そういった態度をする奴は一人もいませんでした。もちろん東監督もそうです。

 僕自身、当時はみじめで苦しかった時期だったのですが、そこを乗り越えて、最後の夏に結果を出せたのは、チームや監督さんのおかげだと思います。自分を一回りも二回りも成長させてくれました。だから今、野球がめちゃくちゃ楽しいし、大好きなんです!その恩に報いるためにも僕は将来、必ずプロ野球選手になります!」
と語る浅井。チームメイトが浅井を救い、浅井がチームメイトを救う。この「サイクル」こそ、敦賀気比の強さを形創る源なのである。

 選手権ベスト4入りを成し遂げた先輩に続き、後輩たちも、北信越大会優勝を決め、センバツ出場へ大きく前進した敦賀気比。その強さには明確な理由がある。浅井ら3年生たちから「よき伝統」のバトンを受け継いた1・2年生が一冬超えた時、福井県勢では未だ成し遂げていない全国大会優勝は、手の届く位置にあるはずだ。

(文・南乃 啓之介

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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