Column

松山聖陵高等学校(愛媛)

2014.07.04

 一年前、今春の東都大学リーグで亜細亜大6連覇の救世主となった右腕・嘉陽 宗一郎を大黒柱に、6年ぶりとなる全国高校野球選手権愛媛大会ベスト4へ進出した松山聖陵高等学校。今季は1999(平成11)年沖縄尚学(沖縄)の三塁手として沖縄勢センバツ初優勝、春夏連続出場を経験した荷川取 秀明監督に導かれ、新たな形での「全員野球」で夏の愛媛初頂点を目指そうとしている。そのキーワードを6月の練習から探った。

心を合わせた「拍手」と「アップ」

心を一つにして全員野球で夏に挑む

 6月18日・水曜日夕刻。選手権愛媛大会のメイン会場・[stadium]坊っちゃんスタジアム[/stadium]。その外周を松山聖陵の選手たちは必死の形相で走っていた。今月は3年生と下級生の選手権メンバーは野球部寮を使った長期合宿中。疲労もピークにある中で最後に行なわれた「全員リレー」は、彼らの疲労感を容赦なく増幅していく。

 にもかかわらずアンカーのゴールを迎える選手たちの輪からは、まるで爽やかな風が吹き抜けるかのように拍手が鳴り響いた。これが「僕らの代から気付いたら、みんながするようになっていた」というのは主将の国吉 翔平だ。これで選手同士が健闘を称えるのである。

「みんなで打って、守って、みんなで喜ぶ」と藤田 大輝(2年)が説明するように、練習に対して、選手だけでなく、荷川取 秀明監督や平田 直輝コーチからも、選手の頑張りを讃える声がかかり、ゴールの後、選手とスタッフの間には笑顔があふれる。

 翌日、松山市久万ノ台の小高い丘の上にある学校横のグラウンドで始まった通常練習でも、心を合わせた動きは継続された。グラウンド整備は全員が担当。「謙虚な心と全力疾走!」を5回連呼し一礼後に始まったランニングや体操は正に「一糸乱れず」。続いて「3、4年前からチームのベースを作り、緊張感を作るために採り入れている」(荷川取監督)ラダー・ハードル、1年生はタイヤを使ったステップトレーニングでも、同じ動きが列をなした。

「僕は全員が同じ方向に向いて戦うことが強いと思っているので、最後まで競わせながら、自分に何ができるかを考えて行動できるようにチームを作っています」

 指揮官の一貫した方針の下で、3学年が全て入った形で5班制を作り行なう毎朝の学校・寮周辺のゴミ拾いや、寮内の食事当番制など、グラウンド外でも全員でかかわることを重要視する松山聖陵野球部。「沖縄尚学当時に行なっていて判断が養われたので、松山聖陵でも取り入れている」3人1組でのキャッチボールを含めた一連のアップは「3年生に言われないようにしっかりすることを心がけている」齋藤 友紀(2年・遊撃手)など、上級生から下級生まで全員の意識が統一されていることがはっきり解るものだった。

第96回全国高等学校野球選手権大会 特設ページ

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松山聖陵、2014年バージョンで加える「丁寧さ」

野球王国愛媛で存在感を示す松山聖陵

 ただ、継続と同時に選手たちのキャラクターなどに応じた変化も「全員野球」の徹底においては必要不可欠。「2004年の就任当初は自分の想いが強すぎたが、卒業生たちから引き継いだ悔しさや経験を加え、半分指導しながらも最後は自分たちが野球をする雰囲気、人間育成に努めるようになりました」と荷川取監督は自らも変化してきた歴史を語る。

 では2014年の松山聖陵にはどんな変化を加えようとしているのだろうか?キーワードは「丁寧さ」である。
「昨年は嘉陽中心のチームだったが、今年は絶対的な選手はいない。最後の歯車や判断が遅れる部分がにあったので、そこを選手たちでつける働きかけはしています」

 指揮官はチームスタイルと結果を見て、この決断を下した。

確かに練習のそこかしこにも、「丁寧さ」は見える。ブルペンでの捕手陣は最速145キロ右腕の木村 智彦、変則左腕の加藤 裕史、183センチの長身から投げ下ろす右腕・石川 大祐の3年生3本柱の投球を1球1球、しっかりグラブを止めて受け、送球もしっかりと行なっている。木村なども投球練習後は「リリースをしっかり意識した」ダウンで締めている。

 逆に言えばその路線に乗れない場合、ないしは指揮官いわく「許されないポイントを超えた」場合は、たとえ昨年のレギュラーであっても温情はない。実際、現状では昨年のレギュラーが控えに回ることが濃厚である。

 さらに言えば今年の松山聖陵3年生は11人(2年生20人・1年生31人)。普通であれば最後の夏、ベンチ入り20名枠の愛媛大会で「3年生全員ベンチ入り」となるのが当然だろう。しかしながら、荷川取監督は現時点で村田 旅(3年・一塁手)に対し「和を乱すことがあればベンチに入れない。それは言っているよな」と、現時点において3年生で1人ベンチ外となることを告げている。

 そこで村田は内野手へのノッカー役を買って出た。「声を出している選手に対し、ギリギリのところへ打つ」彼の激しさを伴ったノック。チームの課題だった守備力も徐々に上がってきた。

 そんな村田の打球を通じての想いを1年生たちも感じている。「4番・一塁手」で愛媛大会デビュー濃厚な稲葉 智也は「上級生に迷惑はかけられない」と強い気持ちを吐露。遊撃手としてベンチ入りをにらむ新居 裕崇(1年)も「1人1人が地力をつけることが課題だし、グラウンド整備とかでつきっきりで指導してくださった先輩たちのためにも、チームのためにできることを考えて動きたい」と全身で気持ちを述べた。

「役割+アルファのことをして、自覚が積み重なったチームが強い」。表向きは落ち込むことなく、技術だけでない心の「丁寧さ」を上級生から下級生へ伝承していく村田の姿勢も全員野球の1つの姿。「乗り越えてほしい」。指揮官も最後まで村田の努力具合を見ている。

第96回全国高等学校野球選手権大会 特設ページ

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「全員野球」で目指す愛媛・夏の初戴冠


1年生が取り組むタイヤを使ったステップトレーニング(松山聖陵)

 こうして迎える。昨秋は野手陣に昨夏の経験者をそろえるも県大会1回戦で愛媛三島に5対7で敗戦。今春も中予地区予選では済美に快勝しながら、準々決勝では序盤の失点が重く東温に4対7。昨年は第2シードも今大会はノーシード。そんな現実を踏まえても、松山聖陵の意気は極めて高い。

 沖縄県宮古市立平良中出身の主将・国吉 翔平が「沖縄県からここに進ませてもらったことを感謝しながら、3年間やってきたことを信じて出す」と語れば、エースの木村も「今までやってきたことをしっかりやって、信じて頑張りたい」と続く。

 そしてその木村が「平田コーチは僕らのお兄さんで、こんなことを言ったら2年間草抜きをさせられそうですけど(笑)…お父さんです」と話した。荷川取 秀明監督は、夏への最後のピースをやはり「全員野球」とする。

「最後には1つの塊になることが必要。それで負けたらしょうがないです」

 指揮官の覚悟と選手たちの覚悟が伴った「全員野球」。確固たる積み上げで臨むその結晶が目指すものは「愛媛・夏の初戴冠」である。

(文・寺下 友徳

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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