Column

履正社高等学校(大阪)

2014.05.30

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 「うちの場合は、部員が一学年最大で18人という決まりごとになっています。そのうちピッチャーとして入部してくる選手は毎年5、6人。メンバーに占める数が多いので、ベンチ入りの競争もピッチャー陣が一番厳しいですね」
 大阪府茨木市に位置する履正社の練習グラウンド。出迎えてくれたのは就任28年目の岡田 龍生監督だ。

 「ベンチ入りメンバーの投手枠は例年、春が4人、夏が5人と決めています。アンダースローやサウスポーといった異なるタイプで投手陣を構成したい気持ちがないわけではないですが、結局は、純粋に実力順で選びます。その結果、いろんなタイプの投手で構成されることもありますし、右のオーバースローが5人揃うこともある、という感じです」

投手は実力の順に選出する

グラウンドには私語もなく、それぞれが目的意識を持ち練習に励む

 年によっては、ベンチ入りメンバーを投票で決めることも履正社では珍しくないという。今年の春の選抜に出場したメンバー18名は選手間の投票で決まった。

「投票形式もやったりやらなかったりです。やるとしても参考にするだけのときもありますし、今年の春のように、投票結果を100パーセント反映させるケースもありますし。そこはまちまちです」

 投票は匿名ではなく、記名式。主将立会いのもとで開票はおこなわれる。投票式を毎年採用しない理由は「選び方を固定すると部員同士が好かれようとして、人気投票のようになってしまうから」だという。

  しかし、投票結果の完全採用だと、指導者サイドが思い描くメンバーと大きく異なる可能性も出てくる。そこに怖さはないのだろうか?
「こっちの思いに反して人気投票の色が濃くなってしまったり、好き嫌いが入ったりしたら、しょせんそれまでのチームだったということ。きちんと成熟したチームのときは投票結果と指導者の思いがばちっと100パーセント合うものなんです。まぁ、仲間を客観的に評価できる成熟したチームが出来上がった時に投票式を採用しているという言い方もできるかもしれないです」

 正式なメンバー発表の時期は7月に入ってから。夏の大阪大会直前にひとりずつ背番号を渡すやり方で行う。
「指導者サイドが決めた場合はその根拠を全員の前で説明します。『この選手は足を評価した』『この選手は三塁ランナーコーチとして入れた』といったように。投票の場合は、結果発表をそのまま伝えます。自分の票数が知りたい選手は聞きにきたら教える、と伝えていますが、まだ聞きに来た選手はいませんね」

 今年の夏はどのような決め方をする予定なのだろうか?
「まだ決めてませんが、今のチームは非常に信頼のおける成熟したチーム。春に引き続き、完全投票でもいいかなと思っています」

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[page_break:サボろうと思えばいくらでもサボれる環境]

サボろうと思えばいくらでもサボれる環境

 履正社の平日の練習時間は16時半からの約3時間。どんなに遅くなっても20時半には全員がグラウンドを後にする決まりがあり、単純に時間だけで考えると練習量は豊富とは言えない。
 そのかわり練習の内容は独自性に溢れており、投内連係やシートノック、シートバッティングなどの全体練習以外は投手、野手共に、練習メニューを選手個人の裁量で決められることになっている。

練習メニューは申告制。サボろうと思えばサボれるが誰もが一生懸命に汗を流す

 「その選手に一番合った練習や調整法があるはずですから、それを選手自らが試行錯誤しながら探し出してもらいたいんです。ブルペンに入るのか入らないのかも個人で決めさせますし、投げる球数も選手たちが自分で考える。
 遠投だけの日があってもいいし、走るだけの日があってもいい。走ることに関しても、長距離を走るのか、短距離を走るのか、何本走るのか、といったことまですべて選手たちで決めさせています。
どれだけやったのかを指導者に報告する義務もありません。うちのような練習時間の短いチームは選手たちが自分の練習法をきちんと管理し、実行できるようにならないと、とても勝てる組織にはならない。ですから指示待ちの選手はうちのチームで生き残っていくのは厳しいと思います」

 岡田監督の話を聞いた後、外野フェンス沿いをランニングしていた1年生数名に話をうかがったところ、「本当に個人練習のメニューは選手任せです。ここまで自由だとは思わなかった。入部してびっくりしました」
「練習を抜いたところで怒られないけど、結局抜いたら自分に返ってきてベンチ入りメンバーから遠ざかるだけの話」
「メニュー内容も量も自分で決められるのでやらされる練習がいっさいない。でも裏を返せば、自分の意志が試される環境。自分に勝てればやらされる練習よりもはるかにうまくなれるような気がする」
 といった声が返ってきた。筆者経由で、その声を知った岡田監督は言った。

「正直、サボろうと思えばいくらでもサボれる環境です。でも周りがこれだけ一生懸命に頑張っていると、サボるとたちまち置いて行かれてしまう。そしてサボってる事実は指導者以上に選手同士が一番把握している。そういった選手は投票でも絶対に入れてもらえないものです。日頃サボってるやつに誰も自分の青春を託そうなんて思わない。きっと自由な分、子どもらはむしろしんどいと思いますよ。やらされる練習をこなすことよりもね」

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[page_break:やはり強いオンリーワンタイプ]

やはり強いオンリーワンタイプ

誰もがライバル。レギュラーに選ばれる選手は、他の選手も認めるほど練習熱心な人が多い

 ベンチ入りメンバーに入ってくる選手の特徴や傾向を、岡田監督に聞いてみた。
「やはりベンチに入ってくる選手は、野球に対する本人の意識レベルが高い。特にうちのようなチームだと、練習が個人に任される部分が多い分、意識が高いかどうかで、差がすごくつきやすいと感じます。
 あとはオンリーワンの個性、自分ならではの特色を持っている選手も強い。代わりのきかない選手になれれば、指導者はベンチに入れたくなるものです」

「今の選手はなんでも平均的にこなす反面、同じようなタイプの選手が多いと感じる」と岡田監督。

「だからこそ、周りとかぶらない特色を打ち出すことはすごく大事になってくると思います。これはなにも野球だけの話に限らない。今は昔と違って就職事情も厳しい。やはり雇う企業サイドもこの人の代わりはなかなかいないと思われる人材にお金を払いたいものです。自分ならではの特色をアピールすることは、今後の人生においても非常に重要なカギを握ってくるんだぞという話は常日頃から選手たちにはよくしています」

 学年は異なるが、実力が同じと判断できる選手が二人いた場合、履正社では上の学年を使うのか、それとも下の学年を使うのか。この問いに岡田監督は即座に「同じ実力なら下を使います」と即答した。

「これはチームの方針として浸透しているので、投票で選ぶ際も選手たちは力が同じなら、下の学年の選手の名前を書いてきます。
 同好会のようなチームならばトコロテン式に学年が上の者から背番号を渡していけばいいのかもしれないけど、うちは日本一を目指していくチームなのであって、3年生の思い出作りのために夏の大会があるわけじゃない。最後の夏に背番号もらうことだけで満足してるような選手はいらないと、選手たちにははっきりと伝えています。

 学年関係なく、あくまでもベストの18人、ないし20人を選んでいく。その上で、実力が同じなら、次の年も使える下級生を選ぶ。上級生は長くやっている分、下の学年よりも上回るものを要求するのは当然です。社会に出ても、入社3年目の社員と新入社員が同じ仕事しかできなかったら、下の方が評価されるのと同じですよ」

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[page_break:エース、そして三塁ランナーコーチの条件とは?]

エース、そして三塁ランナーコーチの条件とは?

「1」は一番練習している選手という意味。この夏、晴れて「1」を背負うのは誰か。

 ベンチに入れたくなるピッチャーの条件とはどのようなものなのだろうか。

「まずはなんといってもストライクが取れるピッチャーです。いくら球が速くてもストライクが入らなければ試合には勝てませんから。そしてストライクを取れる変化球がストレート以外に必ず2つ以上あること。

 1つだと大阪府のベスト8以上のチームには通用しないんです。大阪で優勝を目指そうと思えば、最低2つなければ通用しないし、ベンチ入りを果たすのも難しくなる。あとは緩急をしっかりとつけられる投手ですね。

 今はバッティングセンターで熱心に打ち込んできた選手が多いからか、速球には強いけど、緩急をつけた投球には弱いというタイプが多い。緩急をつけられる投球は勝つ上で大切な要素になるんです」

 背番号1をつける選手に共通する要素はなにかありますか?
「やはり自ら練習できる選手。そしてチームで誰よりも練習する選手。ぼくは背番号1の1というのは『一番練習する』の1だと思っています。だからこそナインの信頼も一番になる。こいつで負けたら仕方がないとみんなに納得させられる選手だけが1番をつける資格があると思っています」

 ベンチ入りメンバーが18名とした場合、17番、18番の選手を選ぶ際の基準や傾向のようなものはあるのだろうか。
「やはり特色を持っている選手を選んでるケースが多いですね。例えば、打撃と守備は他の選手に見劣りするけど、足だけはべらぼうに速い選手。試合に出場する機会はおそらくないけど、三塁ランナーコーチをやらせれば右に出るものがいない。そんな一芸を備えている選手が最後の2枠を獲っているケースが多い気がします」

 岡田監督は「三塁ランナーコーチとしての能力が高ければエースや4番と同等の評価をし、メンバーに入れる」ときっぱりと言った。三塁ランナーコーチに求められる資質のようなものはなにかあるのだろうか。
「やはり判断能力に優れ、思い切りのいい選手ですね。視野の広さも必要だし、相手の特徴をきちんと記憶しておける準備力も不可欠。歴代の名三塁ランナーコーチを振り返ると、みんな人間的にもしっかりした選手ばかり。行き当たりばったりで人間的にいい加減な選手で、三塁ランナーコーチとしての背番号をつかんだ選手は過去にひとりもいないので、名三塁ランナーコーチに必要な資質と言っていいでしょう」

 岡田監督は言う。
「選手たちには常々、『正しい努力』をしなさいと伝えています。結果は出せなかったけど自分は頑張った、一生懸命やった、そのことに満足して終わっていないかと。厳しいようだけど、『それは結果を導く正しい努力だったのか?』と常に自問自答してほしい。社会に出たら一生懸命やったかどうかなんて一切評価されない。企業に就職しても求められるのは結果。プロ野球選手でもいくら一生懸命練習しようが、結果が出なかったらクビなんです。ぜひとも、このチームで、野球を通し、正しい努力ができる人間になってもらいたい」
  履正社野球部の強さは必然の強さ。岡田監督の言葉を聞きながら、そんな確信を得た自分がいた。

(文・服部 健太郎

【5月特集】レギュラーを逃さないためのチェックシート

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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