Column

龍谷大学付属平安高等学校(京都)

2014.06.19

 春の選抜大会優勝、その後も公式戦連勝を続けてきた龍谷大平安が、5月31日の近畿大会準決勝報徳学園に敗れた。相手の校歌を聴きながら、河合 泰聖主将(3年)は、「気持ちの良いものではないですね」と思ったことを語った。
 それから数日後、夏へ向けてスタートをきった龍谷大平安のグラウンドを訪ねた。

河合を中心にチームは力を合わせる

練習前に指示を聞く選手たち(龍谷大平安)

 前のチームから出場している河合 泰聖は、選手たちからの信頼も厚い。積極的な性格で、キャプテンシーを発揮して、チームを勢いに乗せた。それが秋の躍進、選抜優勝につながったのは確かだった。しかし、春季近畿大会準決勝報徳学園戦。

 3回、先発の2年生投手・元氏 玲仁がピッチャーゴロを悪送球。そこからリズムが崩れ失点となった。ファーストの河合が「持ってこい!」と叫ぶも、送球は逸れてしまった。しかし問題は悪送球の後だった。

「本来なら、あの場面で河合を代えている。でも、この交代がチームにとってプラスになるかを考えて代えなかったんです」

 敗戦の翌日は練習を休みにした。自主的に練習に出てきたのは3年生が3、4人。
「春が終わったら、どれだけ早く夏に向かって走り始められるかが大事なんです。彼らもこのままではアカンというのも分かっている。でも俺ら長いこと野球をやってきたものから言わせれば、そう思うのなら、それを行動に移せよ。甘いんやと。今の子は継続することをよく知らないんですよね」

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[page_break:指揮官が思う平安のレギュラーに必要な資質]

指揮官が思う平安のレギュラーに必要な資質

練習風景(龍谷大平安)

 原田監督が描く、平安レギュラーへの道。それは一にも、二にも守備である。その基本が「キャッチボール」だ。

「野球で全ての基本はキャッチボール。それができない子はバッティングもさせない。中学までは、まともにキャッチボールができなくても試合に出れたかもしれない。
 でも、高校は違うんです。大学でも同じ。キャッチボールが基本。相手が捕りやすい胸のあたりに投げる。ここに野球のすべてが詰まっていると思います」
 と原田監督。監督の持論はこうだ。

 どんな状況にあっても相手の胸元に正確に投げられる選手の守備というのが信頼できるのだ。

「捕りやすいと思うボールを投げなさいと教えています。だから、球質にもこだわります。ただ届いたら良いというものではないのです。次のプレーに移りやすいボールを投げないといけないのです」
 入学して間もない選手は、まずキャッチボールができていない。「遠投何メートルというのは、それほど必要ではないです。それより正確性を求めます」と原田監督は語る。

 実戦で内野手が長い距離をノーバウンドで投げる機会はそれほどない。内野のフィールドの内側なら、最長で一、三塁間(本塁と二塁間)が36.88メートル。それ以上なら、ワンバウンドでの送球が多くなる。守備機会での送球なら、まず塁間。その距離なら、受ける相手に素直な球質の送球ができなければいけないと原田監督は説く。そして、どこに投げてもらうかを、受ける相手が指示することが大事だと言う。

「例えばファーストなんかは打球の飛ぶコースによって構える位置が違う。それによって、ここへ投げろと示さないとアカンのです」
 冒頭の項目で述べた近畿大会準決勝報徳学園戦でのピッチャー元氏の一塁暴投。振り返ってみれば、ファーストの河合は「(近くまで)持ってこい」と示している。キャッチボールの基本をしっかりと実践していたのだ。

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[page_break:「キャッチボール」を土台に守備と洞察力を高める]

「キャッチボール」を土台に守備と洞察力を高める

練習風景(龍谷大平安)

 確かに守備が伝統の龍谷大平安において、キャッチボールは重要なキーワードだ。その延長線上に、鍛えられた守備があるのは間違いない。しかし、そこにいたるまでの距離は、練習に費やされた時間と工夫を考えると、ずいぶんと遠いところにある。

 この日の平安の練習メニューの締めとして行われたノック。常に実戦を想定したものだった。ランナーつきのノック以外でも、例えば、二塁ベースの付近の走路にカラーコーンを置いて、ショートとセカンドの動きに制限を加えている。これは、走路でランナーと重なることを想定してのものである。

 こういった実戦練習の狙いは、洞察力を育むためだ。

「実戦になった時に何が大事かと言えば、どれだけ頭が動くか。基本的なこと、つまり、受ける相手のことを考えて送球する。それだけで試合は進まない。

 1.イニング、2.点差、3.アウトカウント、4.ボールカウント、5.打者の特徴、6.ランナーの特徴、7.ウチのピッチャーとバッターの兼ね合い、8.キャッチャーとバッターの兼ね合い、9.風向き

 この9個の要素を考えて守備をしなければいけないんです。そのうち1球ずつ変わってくるのが5つくらいある。
 ただ、5つのことを1球ずつ考えるのは、この子たちには無理なので、最低3つを考えなさいと言っています。最も重要なのが、ボールカウントですね。
一番はやはりボールカウントです。そこでエンドランでくるのか、盗塁でくるのかを考えて守りなさいということですね。だから試合になったら、守備位置が一番大事」

 原田監督の話を聞きながら、ある試合を思い出した。それが昨春の選抜初戦早稲田実業戦)であった。
 無死一、三塁の場面で、左で引っ張る傾向のある打者を迎えた場面、一二塁間が大きく空いていて、そこを抜かれてタイムリーを赦してしまったのだ。

 甲子園のような大舞台。さらに勝負所となれば、指示が思うように伝わらないことがある。選手たちは、勝利を手にするために、場面に応じたシュミレーションをして、準備をしなければいけない。

 さらに原田監督は内野手と外野手の条件も語った。
「内野手はゴロを普通にさばいて、普通に送球する。外野手はファインプレーなんかいらない。
 ある程度の準備をして守備につく。私が社会人(日本新薬)の時は、左中間と右中間は絶対に抜かさないというポリシーを持って守っていました。それをしようと思ったら、さっき話した9個の条件をずっと頭に入れながら、後は観察です。観察した結果と自分の予想が一致するようになると、すごく野球が面白くなる」

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[page_break:激しくなるポジション争いを制するのは……]

激しくなるポジション争いを制するのは……

キャッチボール(龍谷大平安)

 春夏連覇を目指す龍谷大平安。現在レギュラー争いが最も熾烈になっているのがセカンドだ。
選抜で3番セカンドとしてレギュラーを張っていた姫野 大成(3年)は、春の近畿大会で打順が9番に下がった。
春季大会を通じて、不調に苦しんでいる。取材に伺った際の練習でも、常に同じようなことを指導者陣から指摘されていた。

 同じ内野手の控えとしては、辰己 大輝佐々木 翔斗(ともに3年)が春の大会でセカンドとして起用されている。

 選抜後にベンチ入りを果たした選手もいる。近畿大会で代打起用された2年生の西川 寛崇だ。

 秋は試合出場することがあったものの、選抜ではベンチ外。
「甲子園では、アルプススタンドの一番上で団旗持ちだった」と話す西川は、セールスポイントの打撃を伸ばし、ベンチ入りを掴み取った。
春の大会で得た自信は大きく、「夏もベンチから外れたくない」と力強く決意を語った。

 選抜で記録員としてベンチ入りしたのが石原 遼大(3年)。実はマネージャーではない。昨秋の府大会では、
ライトとして先発出場したことがある選手だ。「(秋の府大会決勝で)左の大腿骨を骨折してしまって」という石原を、
原田監督はあえてベンチに入れた。さらに、開会式ではプラカード係としてメンバーと一緒にグラウンドを行進した。
「夏は選手としてベンチに入りたい」と京都大会20人のメンバー入りへ希望を捨てていない。

 そんな龍谷大平安では、どの時期に夏の大会のメンバーを発表するのか。
「仮の登録メンバーは早く提出しますが、発表は1週間くらい前ですね。ちょうど激励会がある頃です」と原田監督。そして、19番目と20番目の選手を決める要素については、こう語った。

 「よく聞かれるのですが、同じ力ならば下級生をベンチに入れます。3年生が最後だからとうのは絶対にしない。下級生と同じ力になってしまったら負けだと私は思います。甲子園はベンチ入りが18人なのですが、それもすんなり減らします。大事なのは、勝負に勝つ為に必要か必要でないか。みんなも文句は言わない。実力の世界。迷うことはあまりないですね。

 夏のメンバー入りへ向けて選手たちは最後の勝負に臨んでいる。
練習試合と練習の一つ、一つが選手にとって勝負の場だ。原田監督は取材の最中も、選手の動きに目を向け、
時に厳しく声をかけていた。その眼差しはまさに勝負師。
 ただ、指揮官はそれ以外の会話や、コミュニケーションも大事にしている。
選手がベンチに戻ってきた時、着替える時、何気なくすれ違う時などで頻繁に声をかける。ニックネームをつけることも多い。そんな時は選手にも笑みがこぼれることがある。チーム全体で、オンとオフの切り替えが上手いというのが窺える光景だった。

 今年、春夏連覇の権利があるのは全国で龍谷大平安だけだ。今月28日の抽選会で春夏連覇へ向けての日程、相手が決まり、指揮官も戦略を練る。そして7月12日に京都大会が開幕する。

(文・松倉雄太

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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