Column

明徳義塾高等学校(高知)

2014.03.27

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「自主練習」で構築される競争意識と強さ

 センバツ初戦で智辯和歌山(和歌山)との延長15回激闘を制した明徳義塾高等学校野球部。1976年創部と県内他校と比べて後発勢力にもかかわらず、これまでの成績は素晴らしいものである。

 まず甲子園では2002年夏・第84回選手権大会での全国制覇をはじめ、春センバツでは出場15回で過去にベスト4入り2回(1983年・、2004年・第76回大会)通算23勝14敗(今大会1回戦勝利時点)、夏も出場15回で2回のベスト4(1998年・第80回大会、2012年・第94回大会 準決勝試合記事:2012年8月22日)、通算28勝14敗。

 四国大会でも春季は18回出場でライバル高知の9回に次ぐ8回の優勝。秋季は24回出場中、高松商(香川)、高知商(高知)に並ぶ優勝7回。

 高知県各種大会の優勝回数に至っては県選抜大会(新人大会)19回(高知に並ぶ1位タイ)、秋季大会は高知商25回、高知18回に続く16回。春季大会は7回(高知商25回、高知17回に続く3位)、県総合体育大会19回(うち単独優勝11回。高知26回、高知商20回に続く3位)。正に王者の貫禄だ。

 ただし、そんな王道のベースに選手たちの自主練習があることは意外にも知られていない。では、彼らは全寮制の環境下でいかにして自主練習を行い、個人とチームスキルを高めているのか?高知県須崎市・横浪半島にその答えは隠されていた。

静寂と闇を切り裂く自主練習の音

消灯時間までの30分間も明徳義塾の選手たちにとっては貴重な練習時間

「ブン。ブン。ブン」

 時間は夜もふけゆこうとしている20時。明かりが灯るのは校内に校舎を取り囲むように立ち並ぶ各部活、男女別の寮と教職員住宅。そして敷地中央にある食堂とそれらを結ぶ街灯だけ。静寂が支配する闇に空気を切り裂く音があちらこちらで鳴る。

 ここは高知県須崎市の明徳義塾高校野球部寮「青雲寮」。18時半過ぎに食事・入浴を終えてから、20時の夕礼・22時の最終点呼を挟み22時半の消灯までが彼らの自主練習時間である。

 取材日は翌日朝早くから浦和学院(埼玉)との練習試合が予定(結局は雨天のため中止)されていたため、センバツメンバー組の自主練習は数名。ただ、他の選手たちは寸暇を惜しむようにこの時間を使い込んでいた。

 ある選手は寮ロビーの鏡を前に素振り。ある投手は玄関ガラスを鏡に見立て、タオルを使ったシャドーピッチング。バス車庫の前では3人が1組となってバトミントンのシャトルを使い、ピッチング・バッティング・守備を交代で担当。闇の中からもバットスイングの音が聞こえる。限られたスペースを争うようにして、彼らは熱気の中で黙々とバットや腕を振っている。

 しかも、そこには甲子園1990年の就任以来甲子園で春出場11回17勝10敗(今大会1回戦終了時点)・夏出場14回26勝13敗をマークする名将・馬淵 史郎監督の姿はない。佐藤 洋部長や藤山 晶広コーチも時たま姿は見せるものの、積極的にアドバイスを与えることはない。これぞ真の「自主練習」である。

 しかしながら、選手たちは個々でしっかり課題を把握している。素振り1つにしても、ある者は「体が開かないように数を振ります」。別の野手は「インサイドアウトを意識してしっかり振ります」。中には「自分はグラウンド内で出し切る。指導者の見ていないところで自主練習をすると自分の形が崩れたとき悪い癖がつく感じがあるので、基本しません」というエース・岸 潤一郎(3年・主将)のようなタイプもいるが、その岸も取材の合間にバットを持ち、指揮官から「ダスティン・ペドロイヤ(MLBボストン・レッドソックス)」と賞賛されたフルスイングを2度3度。「風呂上りにストレッチは毎日やっています」と、なんだかんだ言いながらも自主練習の意識はしっかり持っている。

「みんなひたすらやっていますよ」と、これが明徳義塾の日常であることを教えてくれたのはバット片手にロビーへと現れた森 奨真二塁手(3年)。彼は自分のスイングをチェックしつつ後輩の牧田 龍輝内野手(2年)とも野球談義を通じアドバイス。疑問点を受身でなく選手間で、その場で解決することができる。これも自主練習ならではの利点だ。

 そんな中、談話室奥の扉が開く。顔を出したのは佐藤部長。明徳義塾高時代は1996年に春夏連続出場を果たし関西大に卒業後、中学野球部コーチ・監督、高校野球部コーチを歴任した部長自身も「自主練習」を現役時代に行っていた1人である。

[page_break:自主練習を成果に結び付け「控え組」から這い上がった男たち]

自主練習を成果に結び付け「控え組」から這い上がった男たち

ロビーで素振りを行う明徳義塾の選手たち

 佐藤部長はかつて自分が辿った姿を横目にしながら、伝統の「自主練習」が明徳義塾野球部にもたらす効果を説明してくれた。

「レギュラー組の自主練習は全体練習が終わってから食事までの1時間半が主。試合がなければ朝5時から6時までの1時間も練習します。でも、ウチは控え選手ほどよく自主練習をしていますね。全体練習ではどうしてもレギュラー組が中心の練習になりますし、控え組が彼らに追いつくにはこの時間を大事にしないといけないですから。
 実際、この自主練習を経て、実戦で結果を出してレギュラーを獲得した選手もいますし、高校で補欠に終わっても、大学で主将を務める選手も明徳義塾では多くいるんです」

 すなわち、全体練習、ポジション別のテーマ練習を支える自主練習がチーム内競争を生み、チーム全体の力を押し上げているという訳だ。事実、昨秋からこの春にかけては、控え組から自主練習を通じ這い上がった者が多くに渡っている。

西岡 創太尾崎 湧斗。この2人はよく練習しているね。それと吉住 健人。オレは毎朝5時半に犬を散歩させに外を回るんだけど、いつも練習している」

 馬淵 史郎監督も認める3年生3名がその筆頭格だ。

「下半身を意識したシャドーピッチングや坂道ダッシュをしています。毎日積み重ねることで自信が付き、普段の練習も思い切ってできるようになった」吉住は昨秋全くベンチ入りに絡めない立場から、3番手右腕としてのベンチ入りを勝ち取るまでに成長。

「朝の5時から6時までは素振り。全体練習終了後にはゴロ捕球。素振りでは肩が開かないように、ゴロ捕球では低い姿勢で捕る事を心がけている」尾崎は、昨夏甲子園準々決勝日大山形戦でスタメン抜擢も、不調が続き秋季四国大会後にレギュラー剥奪。今年に入っても紅白戦15打席ノーヒット。どん底から自主練習を重ねて這い上がり、練習試合緒戦となった慶応義塾(神奈川)戦でのホームランを契機にレギュラーを奪還した。

 そして西岡。「朝練習で素振りやキャッチボールを積み重ねた」努力が開花し、控え組からセンバツでは4番に大抜擢されるまでに。あくまでも全体練習内の実戦で成果を上げることが前提条件であるが、彼らは間違いなく自主練習で這い上がった男たちだ。

 そうなれば、当然これまで「レギュラー」と呼ばれていた選手たちも安穏としているわけにはいかない。

 22時の最終点呼直後、消灯時間まで残り30分を切ったにもかかわらず玄関前でバットを振り出したのは俊足巧打の左打者、明徳義塾不動の3番に座る多田 桐吾外野手(3年)である。「調子が悪くなったらするタイプです」と照れ隠し気味に微笑む多田は自身の自主練習論を話す。

「体の使い方とかを確認するためにも自主練習は大切だと思います。ですから、先日調子が悪い時はティーを5箱・3時間半かけて打ちました」

 この日は翌日対戦予定だった浦和学院左腕・小島 和哉(3年)を想定し、コース・ストレート・変化球の軌道を意識しつつ逆方向への打球をイメージしたスイングを繰り返す多田。いつの間にか振り出した雨音にも負けないスイングが22時半近くまで響いていた。

[page_break:「自主練習する」意思を持った選手の活躍が、明徳義塾の強さを生む]

「自主練習する」意思を持った選手の活躍が、明徳義塾の強さを生む

青雲寮・朝5時の起床・点呼で馬淵 史郎監督の指示を聴く明徳義塾の選手たち

 最後はやはりこのお方に登場して頂こう。「野球が奥深いし、言っていることが理にかなっている。でも、練習後や朝食時にはネタをかましてくれるんです。『ソーセージ食べたらバントうまくなるぞ』とか(笑)」と西岡をはじめ、選手たちの誰もが「野球以前に人間性を大事にする尊敬できる人」(吉住)と慕う馬淵 史郎監督である。

「自主練習は強制しないよ。自分の意思がないと効果はないし、体調のいいときも悪いときもあるだろうから。そこも考えてやっていく方がいいと思うので。ただ、同じ屋根の下で生活する仲間であり、ライバルと差を付けようと思ったら、個人練習をやっていくしかない。

 特に早朝練習はなかなか続かないもの。ティーやスイングに限られるし、実際に30分や1時間でどれだけ効果があるかはわからないけど、『起きて練習する』ことが大事。ひょっとしたら、全体練習よりも個人練習の方が自分で考える分、実りあるものかもしれない。
 強いチームになるためには監督が言う前に黙ってやるような選手が多くならないとイカン。でも、彼らは先輩の姿を見ているからね…」

 かくしてエース・岸いわく「打者全員が近田 拓矢大阪桐蔭亜細亜大)さんみたいだった」2月下旬のハワイ・プナホハイスクールとの国際親善試合からここまで実戦を積み重ね、そこで出た課題を消化するため自主練習を積み重ねながら「チームとして闘っていく」(尾崎)素地を整えてきたセンバツ。

 迎えた智辯和歌山戦(2014年3月24日)でも「センバツでは1試合1試合を大事に闘うこと。1人1人が自分の仕事をできれば優勝につながるので、高い意識を持ってつなげていきたい」と主将も信頼を寄せた『個人の力』が威力を発揮した。

 4回にチーム初安打。左打者に左腕・齊藤 裕太(2年)攻略への先鞭を付け、15回には2安打目を放ちサヨナラのホームを踏んだのは「自主練習が自信につながっている」と語っていた西岡 創太

 6打席3安打5出塁1得点。最後は一死満塁から無言のプレッシャーでサヨナラ暴投を誘発させたのは7番。森 奨真

 そして、「いちばんいいところで打ちたい」と話していた1番・尾崎 湧斗三塁手は…12回裏起死回生の同点スクイズと1安打に13回表一死からは三塁線寄りの強烈なゴロをアウトにする好守も。表のヒーローが15回188球を投げきった岸なら、影のヒーローは間違いなく彼ら3人だった。

 ただ、それも必然の流れだったことはもう読者の皆さんならおわかりだろう。自主練習を人一倍している選手たちが活躍する。それに刺激され、他の選手がさらに練習する。これが「明徳義塾の自主練習」であり、「明徳義塾の強さ」なのである。

(文=寺下友徳) 

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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