Column

履正社高等学校(大阪)

2014.03.25

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 4季連続センバツ出場。5季連続大阪府大会 決勝戦進出。
 代が入れ替わっても、その勢いは弱まることはない。
 
履正社は、なぜ強いのか。選手の能力を引き出しているのは、何なのか。
 そこには、戦術、技術論、練習法など数多く履正社流の取り組みがあるが、今回は、それ以前の段階で、練習に取り組むための『心構え』にフォーカス。
 なぜ、自主練習に意識高く取り組めるのか?練習では、何を考えているのか?
 実は、そこに特別なものは、何ひとつなく、基礎なるものは、意外にもシンプルで、誰でも明日から真似られるものだった。

部員全員が自宅通学、周りと同じ条件の中でどう伸びていくのか

 今、高校野球界で、大事にされ始めた『やらされる練習でなく、選手自ら考える練習』というワード。今回のセンバツ出場校でも、その方針でチームを作り上げてきた高校は多い。むろん、履正社も、そのひとつである。

 しかし、選手が考える力をつけるために、どうすればいいのだろうか。同様の悩みを持つ指導者も多い中で、この疑問に対し、単純明快な答えをくれたのが、キャプテンの金岡 洋平だ。

「周りの人が言ったことを素直に聞く」ことが自分で考えることのヒントになる

「人の話を素直に聞くことです」
 金岡は言葉を続ける。
「気持ちが落ちている時や、上手くいかない時でも、監督さんや、周りの人が言ったことを素直に聞くようにしているんです。これが、自分で考えることのヒントになります。
グラウンドの中や外でも、人から言われたことを素直に聞いて、それを実行してみる。分からなかったり、出来なかったら、また聞けばいい。周りの選手をみていても、せっかく自分のために言ってもらってるのに、素直に聞かない選手がいれば、成長する気がないんだと、みんな思っています」

 履正社OBで、2010年のドラフト1位で、ヤクルトに入団した山田 哲人も、高校2年の冬にこんな経験をしている。

 岡田龍生監督は、当時を振り返る。
「山田は、2年冬から一気に伸びた選手でした。潜在能力はあったんでしょうが、開花させてなかったら、無いのも一緒。きっかけがあって、自分でスイッチをいれたんでしょうね」
 高校野球を引退してから、山田は岡田監督にこんなことを打ち明けた。
「2年の秋までは、監督さんから何か言われも、左の耳から右の耳に抜けていくだけでした。でも、ある授業で、担当教科の先生が素直になるということについてお話ししてくださって、そこから、人の話を聞いてみなきゃあかんなと思ったんです」

 

山田が、野球選手として急激に成長していったのは、この時からだ。

「まずは人の話をちゃんと聞く。この人は何を言わんとするのかな?という聞き方で聞いているうちに、随分、考え方は変わってきます。
 自分に何が足りないのか、そうすると、やらなあかんことが見えてくる。そうなると、あとは自分で取り組み始めていくんです。
 
これが足らん!これしなさい!と言われてたら、そこに考える力は養われてこないでしょ。そこは自分で考えて自覚しないとやらないんです。何も考えていかなければ、ものごとが積み重なっていかない。クエッションマークを積み重ねていかないと。
それに気付いたやつはどんどん、ようなりますよ」(岡田監督)

 

人の話を聞いて、自分自身で考えるための引き出しを増やしていく。

 そんなシンプルなことをなぜ、強豪・履正社の選手や、監督がわざわざ語るのか。
 
それは、履正社野球部では、それを実践していかないと、伸びていくことが出来ない環境だからだ。自分だけの知識だけで、高校野球の2年半、プレーしている選手と、周囲からの意見を素直に聞いて、自分の世界を広げている選手とでは、大きな差が生まれることを履正社の部員たちは、日頃の練習を通じて痛感している。

  岡田監督が、それを求めた理由は2つある。
「僕自身の反省もあるんです。高校時代は、まるでロボットのように、言われたことをそのままやるだけの3年間でした。それで、その先の大学や社会人で、ものすごく苦労したんです。自分でやれる選手にならないと、上に行った時に限度があるなと。それなら、高校時代に自分で考えてできる基盤を作って、上にいっても、困らない状況にしていかないとあかんなと感じました」

 そして、もう1つが、履正社野球部の環境だ。
 
履正社には、専用グラウンドはあるが、寮はない。
全員が自宅から通い、通学に往復3時間かかる生徒も少なくない。
また、平日の練習時間は16時半からの3時間。最寄り駅からグラウンドまでは、歩ける距離ではないため、練習後はバスを利用するが、バスの最終出発時刻も20時半。
 遅くまで練習をしたくても、グラウンドに残ることは出来ない。

 

1日3時間の全体練習と、週末の練習試合。そして、朝や夜に、家で行う自主練習。練習が出来る時間は、全国の多くの高校と同じ条件である。
 
その中で、履正社は、彼ら以上に練習が出来る環境にある、強豪校に勝つための練習をしていきたいと考えている。それが、『自分で考えることが出来る』練習環境を作った2つ目の理由だ。

[page_break:社会人野球のような高校野球がしたい]

社会人野球のような高校野球がしたい

 履正社では、全体練習時間が3時間と限られているからこそ、ここでは2つのことを求めている。

“合わせの練習”以外の時間では、具体的な練習メニューは通達されない

 1つが、連携プレーなどの“合わせの練習”をする場。 
 もう1つが、自分で練習内容を決めて実施する場だ。

 岡田監督は、“合わせの練習”の場について、こう語る。

「10人おったら、10人課題が違うわけだから、全体練習では、1人のための練習はもちろんできません。やっぱり、全体練習の場にくるまでに、自分で出来ることを各自がやってこないと無理なんです」

 例えば、サインを覚えてくること。これも、みんな覚えてきていても、一人だけ覚えていなかったら、野球にならない。また、バットを振ること。これも、履正社では、自分ひとりで出来る練習とみなす。

 選手自身もこの時間を大切にしている。キャプテン金岡は言う。
「僕たちは、寮生活ではないので、他の強豪校の選手と比べると、通学時間に多くの時間を取られてしまう。だからこそ、少ない時間の中でも質を上げていかないといけないんです。
 もし、全体練習の時間で、やる気がなくて周りの選手に悪い影響を与えている部員がいれば、グラウンドから出て行ってもらいます。その一人のために、みんなが犠牲になるわけにはいかないので」
 馴れ合いではなく、常に戦う集団である彼らは、ここが、戦場であることを知っている。

 そして、“合わせの練習”以外の時間では、具体的な練習メニューは通達されない。
 フリーバッティングでは、守りの選手はつけず、時間の空いた選手たちが、その時間で何をするのかは、本人に任せている。

 投手陣にしても、投球練習での球数も指示はせず、そもそも、その日に投げるのか、投げないのかも自分で決めてもらう。もちろん、走る量も自分で決める。
「一から十まで、言うわけじゃなく、結局、来る時間と帰る時間が決められているので、その中で、どう枠組みを上手く使うのかが重要になってきます」(岡田監督)

 

一見、ライバル校と比べた時、時間の制約があるのであれば、なおさら、貴重な全体練習の時間は、指導陣が全てのメニューを決めたほうが効率良くできるのではないかと感じてしまう。
 それでも、岡田監督は、選手が自ら考える力をつけることの大切さ、そして、それが試合でも、その先の上のステージにおいても、大きな力になることを知っている。

 この冬、選手たちは、自主的に野球に取り組むことが出来る、アマチュア野球界の頂点ともいえる社会人野球チームへの練習見学にも行った。
 理想は、「社会人野球のような高校野球がしたい」と岡田監督は語る。

[page_break:自分にしか押せないスイッチをいつ押すのか?]

自分にしか押せないスイッチをいつ押すのか?

 では、そんな彼らが、およそ3時間の放課後の練習を終え、バスに乗り、帰宅したのち、何をしているのか。
 ストレッチ、ランニング、プロテインを飲む、素振りをする……選手によって様々だが、これも至って、特殊な自主練習のメニューはない。

すべては考えることから始まっていく

 翌朝の時間の使い方も自由だ。家からグラウンドまで遠くない場合は、自主練習にやってくる選手もいる。
「朝、グラウンドに来ている選手は、ピッチャーならチューブトレーニングをしたり、打撃練習なら、前日のバッティング練習で、ここがダメだったなと振り返って修正したり。ノックでは、こういう取り方でやってみようとか、毎日、それぞれが課題を変えて取り組んでいます。また、グラウンドには来られなくても、家の周りで練習している選手もいます」(金岡洋平

 岡田監督は、「決して、グラウンドでの練習がうちは全てではないんです」と話す。

「彼らが持っているプライベートの時間をどれだけ野球に費やすかは、僕らには管理できない。本人がどれだけ、高い意識を持ってやっていけるか。結局は、そのスイッチは、僕らにも押せないし、誰にも押せない。自分でスイッチを入れるまで僕らは待つしかないんです」

 2年半、常にスイッチが入った状態のままの選手は、履正社であっても多くはない。
 金岡は、本音をこう話してくれた。
「もちろん、入学時から、甲子園を目指して入ってきたり、プロを目指している選手が多く入ってくるので、最初は意識の高い選手は多いと思います。でも、やっぱり練習がしんどくて、何か月か経つと、目標への意欲も弱まって、中だるみしていく部員も増えていきます」
 そんな時に、自分の歩きたい道を気付かされ、岡田監督の言う“スイッチ”を自分で押すためのきっかけを作ってくれるのが、「周囲からの言葉」だと、金岡は教えてくれた。
 そして、その後の自分の技術の成長を助けてくれるのも、周りの人々からのアドバイスだ。

 試合や練習試合から何を見つけるのか。
 全体練習では何を学び、何を感じ取るのか。
 そのために、自主練習はどう取り組むのか。
 すべては考えることから、始まっていく。

 
深く、もっと深く考えるために、自分の経験だけを頼りにしない。
 
人の話を素直に聞くこと。

 
それこそが、野球が上達するために、また甲子園に行くために、大事なものなのだと、彼らが気付くための仕掛けが、履正社のグラウンドには溢れていた。

(文・取材=安田未由

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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