4季連続センバツ出場。5季連続大阪府大会 決勝戦進出。
代が入れ替わっても、その勢いは弱まることはない。
履正社は、なぜ強いのか。選手の能力を引き出しているのは、何なのか。
そこには、戦術、技術論、練習法など数多く履正社流の取り組みがあるが、今回は、それ以前の段階で、練習に取り組むための『心構え』にフォーカス。
なぜ、自主練習に意識高く取り組めるのか?練習では、何を考えているのか?
実は、そこに特別なものは、何ひとつなく、基礎なるものは、意外にもシンプルで、誰でも明日から真似られるものだった。
部員全員が自宅通学、周りと同じ条件の中でどう伸びていくのか
今、高校野球界で、大事にされ始めた『やらされる練習でなく、選手自ら考える練習』というワード。今回のセンバツ出場校でも、その方針でチームを作り上げてきた高校は多い。むろん、履正社も、そのひとつである。
しかし、選手が考える力をつけるために、どうすればいいのだろうか。同様の悩みを持つ指導者も多い中で、この疑問に対し、単純明快な答えをくれたのが、キャプテンの金岡 洋平だ。

「周りの人が言ったことを素直に聞く」ことが自分で考えることのヒントになる
岡田龍生監督は、当時を振り返る。
「山田は、2年冬から一気に伸びた選手でした。潜在能力はあったんでしょうが、開花させてなかったら、無いのも一緒。きっかけがあって、自分でスイッチをいれたんでしょうね」
高校野球を引退してから、山田は岡田監督にこんなことを打ち明けた。
「2年の秋までは、監督さんから何か言われも、左の耳から右の耳に抜けていくだけでした。でも、ある授業で、担当教科の先生が素直になるということについてお話ししてくださって、そこから、人の話を聞いてみなきゃあかんなと思ったんです」
山田が、野球選手として急激に成長していったのは、この時からだ。
「まずは人の話をちゃんと聞く。この人は何を言わんとするのかな?という聞き方で聞いているうちに、随分、考え方は変わってきます。
自分に何が足りないのか、そうすると、やらなあかんことが見えてくる。そうなると、あとは自分で取り組み始めていくんです。
これが足らん!これしなさい!と言われてたら、そこに考える力は養われてこないでしょ。そこは自分で考えて自覚しないとやらないんです。何も考えていかなければ、ものごとが積み重なっていかない。クエッションマークを積み重ねていかないと。それに気付いたやつはどんどん、ようなりますよ」(岡田監督)
人の話を聞いて、自分自身で考えるための引き出しを増やしていく。
そんなシンプルなことをなぜ、強豪・履正社の選手や、監督がわざわざ語るのか。
それは、履正社野球部では、それを実践していかないと、伸びていくことが出来ない環境だからだ。自分だけの知識だけで、高校野球の2年半、プレーしている選手と、周囲からの意見を素直に聞いて、自分の世界を広げている選手とでは、大きな差が生まれることを履正社の部員たちは、日頃の練習を通じて痛感している。
岡田監督が、それを求めた理由は2つある。
「僕自身の反省もあるんです。高校時代は、まるでロボットのように、言われたことをそのままやるだけの3年間でした。それで、その先の大学や社会人で、ものすごく苦労したんです。自分でやれる選手にならないと、上に行った時に限度があるなと。それなら、高校時代に自分で考えてできる基盤を作って、上にいっても、困らない状況にしていかないとあかんなと感じました」
そして、もう1つが、履正社野球部の環境だ。
履正社には、専用グラウンドはあるが、寮はない。全員が自宅から通い、通学に往復3時間かかる生徒も少なくない。また、平日の練習時間は16時半からの3時間。最寄り駅からグラウンドまでは、歩ける距離ではないため、練習後はバスを利用するが、バスの最終出発時刻も20時半。
遅くまで練習をしたくても、グラウンドに残ることは出来ない。
1日3時間の全体練習と、週末の練習試合。そして、朝や夜に、家で行う自主練習。練習が出来る時間は、全国の多くの高校と同じ条件である。
その中で、履正社は、彼ら以上に練習が出来る環境にある、強豪校に勝つための練習をしていきたいと考えている。それが、『自分で考えることが出来る』練習環境を作った2つ目の理由だ。