Column

県立清水高等学校(高知)

2013.07.14

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これが僕らの「チームワーク」

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 今一度問いたい。「高校野球」ってなんのためにあるのだろう?
教育の一環?甲子園にいくため?自分の未来を切り開くため?それとも、お世話になった皆さんに恩返しするため?どれも正解だ。

 ただ、それらの存在意義を達成するためには自分だけ、そして野球部だけの力では成しえることはできない。いったい何をすればいいのか?選手の皆さんも、指導者の皆さんもその答えを求めて日々悩み、答えを探しているはずだ。

 足摺岬と太平洋を望む四国最南端の小さな街。高知県土佐清水市にも、そんな答えを探す野球部がある。高知県立清水高等学校野球部~森本哲也監督、門田賢拓部長と選手18人、女子マネジャー2人、そして地域が織り成す「チームワーク」を伝えていく。

「礼儀・作法・思いやり」の象徴「整理整頓」、「草抜き」

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今年4月に窪川から清水に異動した森本哲也監督

 南国ならではの「灼熱」に近い太陽がグラウンドに差す16時過ぎ。授業を終えた選手たちは着替えを済ませた者から学校グラウンドへとやってきた。ここまではのどかな高校運動部の風景。が、準備段階から彼らの野球が

 「今年3月、部室で眠っていたのを小橋雄介・前監督(現:岡豊副部長)が見つけてきてくれた」(エースの大西洋海・3年)「100円ショップ」でもよく売られているタッパー活用がその象徴である。各自1個ずつ支給されたタッパーをベンチに置いた選手たちは、その中にグラブや用具類を丁寧に乗せ、その前にスパイクをそろえてからグラウンド内に。ベンチには見事に整頓され、戻りを待つタッパーが残った。

 続いてグラウンド内に入った選手たちが約10分間行うのは海沿いの直射日光にさらされ、またたく間に伸びる草抜き。しかも誰が言うまでもなく黙々と。行為が習慣化されていることがこれだけでも判る。

 「『礼儀・作法・思いやり』は畑中先生のときからずっと引き継がれている伝統なので」。主将の弘田隆之参捕手(3年)は事も無げに話す。

 畑中先生~3年生たちが入学する直前、2011年3月4日に脳内出血により40歳の若さで急逝した畑中裕一元監督のことである。

[page_break:畑中元監督による躍進、小橋前監督による勇伏の時、そして大きな変化が]

畑中元監督による躍進、小橋前監督による勇伏の時、そして大きな変化が

 畑中監督は2004年4月に清水へ赴任すると、身体能力の高さを土壇場でも出し切れる、そして何よりも社会に出ても戦える精神力を厳しい練習により作り上げていく。これにより1950(昭和25)年創部、1969(昭和44)年秋には県大会準優勝に続き、四国大会初戦でも高松商に2対7と善戦した野球部は、再び力を蓄えていく。

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今年4月から清水に赴任した門田賢拓部長

 迎えた09年夏の高知大会。初戦で第4シード・高知工を5対4・9回サヨナラ勝ちで破ると、同じ幡多地区の中村も10対0・5回コールドで下し2000(平成12)年以来9年ぶり16度目の県ベスト8に進出。

 準々決勝では序盤の失点が響き高知西に5対7と惜敗したが、この当時中学2年生だった3年生は当時、兄・貴文がエースだった大西、同じく兄・伸一郎が二塁手だった俊足巧打の政岡誠二郎中堅手をはじめ誰もが「すごい盛り上がりだった」と語るほど、感動を体一杯で受け止めた年代。彼ら6人(当時)にとって県立清水高校への進学はいわば必然だったのである。

 ただ、県内外各地から選手が集う高知明徳義塾土佐高知商。さらに幡多地区でも人口の多い宿毛市、四万十市高校勢の壁は想像以上の高さだった。

 部長から監督に転じた小橋監督の下、連日21時過ぎまで及ぶ猛練習で実力差をカバーしようと試みた県立清水。しかし2011年夏は高知追手前に1対4。1年生選手が5名となった同年秋も中村に2対4と2大会連続初戦敗退に終わってしまう。

 それでも彼らはめげなかった。翌2012年になると春・夏は1勝ずつをあげ、続く新人戦ではベスト8進出。続く秋は再び初戦で中村に、今春も2回戦で室戸に辛酸をなめたものの、「僕は清水中では1年の途中で野球をやめてしまったので、どうしても高校では3年間あきらめずに続けようと思った」山﨑樹二塁手(3年)に代表される強い意志は、着実にチームの実力を押し上げようとしていた。

 そんな3月末。大きな変化が清水野球部に訪れる。小橋監督が岡豊へ異動となり、田辺真澄部長も副校長・教頭職に専念することになった。代わって安芸高→高知大で長身右腕として活躍した門田賢拓さん(22歳)が新部長に、3月まで窪川を率いていた森本哲也さん(40歳)が新監督に就任したのである。

[page_break:伝統を継承しつつ加えた「試合へ活かすための練習」]

伝統を継承しつつ加えた「試合へ活かすための練習」

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「僕は畑中先生と同期採用。先生がここの監督だったころも色々と教えて頂いたので、この清水で監督ができることをとても幸せに感じているんです。
ここに来て改めて感じることなんですが、中村宿毛からも一時間かかるこの土地だと、しっかりした取り組みがないと他の学校さんは練習試合にも来て頂けないんですよね。畑中先生はそこに気づいていたからこそ、こういった礼儀に取り組まれてきたと思うし、小橋先生も火を絶やさずやってきたことは凄いと思います」。

 森本監督は時に声を少し詰まらせながら、県立清水高野球部を築き上げた先人たちの労苦をしのぶ。よって森本監督も「挨拶や礼儀は県下一」の金看板を下ろす気は毛頭ない。この日の練習でも選手たちから発せられる声は、18人とは思えない張りを伴っている。

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アップは遠くからだんだん距離を詰め、実戦的な動きも入れる

 ただ、練習自体にはアレンジを加えた。長時間ゆえにともすると「練習のための練習」になりつつあったメニューを門田部長との二人三脚で、より試合へ活かすものとした。

 取材日の練習メニューも、そのエッセンスがふんだんに含まれている。アップやキャッチボールは「体に切れをだしていくため」(門田部長)長い距離からだんだん距離を詰める形式。塁間でのランダンプレーでウォームアップをした後、行われたランナー付きでのけん制、ケースノックでも守備側、走者側がまるで実戦さながらに攻防戦を繰り広げる様があった。

「課題は時間の使い方と、場の流れを心から読むこと本人たちはのんびりしている気はないんですけど、まだメニューとメニューとの動きが甘いんです」

 森本監督は完成系には達していない現状を明かしたが、濃密な内容は強豪校に決してひけをとらない。

 しかも、だ。選手たちの表情は頭と体をフルに使っても生き生きとしている。その証拠に練習の合間には攻撃側・守備側問わず具体的なアドバイスをする姿が各所に見られた。

 「ウチのチームは仲がいいのが一番の強み。『もっとこうした方がいい』と言いたいことがいえるんです」主将の弘田も胸を張る。

 伝統の規律と、練習のアレンジによって培われた「チームワーク」は、間違いなく勝利へと舳を向けている。

[page_break:自分たちを支える人たちのために「真の強豪」と対峙する]

自分たちを支える人たちのために「真の強豪」と対峙する

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清水のエース・大西洋海(3年)

 いつしか長い南国の日もとっぷりと暮れていた。ノック、朝練習に続き「思い切り振ることを意識させている」(森本監督)バッティング練習を終え、最後のミーティングに入るころ。時計の針は20時を指す。恐らく高知県内の公立高でここまでの練習量をこなしている学校はない。「これでも短くなった方です」選手たちは笑った。

 しかし、何が彼らをここまで突き動かすのだろう。最後の夏を迎える3年生5選手に聞いてみた。

 エースの大西は新人戦準々決勝で味わった選手権ベスト4帰り・明徳義塾に自分がまったく通用しなかった悔しさから。

「威圧感とオーラで圧倒されて、インコースに投げ切れなかったんです。だから、ここまではインコースを投げることを意識しています」

 春は切り込み隊長として、時にはマウンドでも奮闘した上田尚左翼手の場合は、学校まで毎日片道15kmをバイク通学する際に掛けられる声援。

「『頑張って』って手をあげて応援してくれるんです」

 もちろん監督・部長が自分たちを支えてくれていることも理解している。

「森本先生はお茶目なところもある一方で、しっかりした意思を持っているし芯がしっかりしているし、門田先生からは基礎をしっかり教えてもらいました」

 そしてもう1つ。誰もが話すのはもう1人の3年生。陰日なたにチームを支え続けた女子マネジャー・山﨑みなみさんのために。

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深々とグラウンドに一礼する清水高校野球部

「たった1人でマネジャーをやることには覚悟や葛藤もあったと思います」(政岡)
「ボールを磨くなど色々な面でサポートしてくれているおかげで集中できています」(山﨑樹)
「自分たちのために手助けをしてくれて本当にありがたく思っている。尊敬しています」(上田)
「バイトもできないし、女の子同士で共通の話題もできない中、ずっと一人でがんばってくれた。勝たせてあげたい」(主将・弘田)

 中学時代はテニス部。入部時は家族の反対を受けながらも「野球が好きだし、高校しかできないことをしたい。だからこそやってやろうと思った」と語る山﨑さんはこの2年半を振り返る。

「最初は言えない大変さもありました。監督さんや地区のマネジャーからアドバイスをもらいながら仕事も自分で考えました。野球部と一緒にいすぎたので、思い出はありすぎるくらい。マネジャーをやめたら?『どうなるが(土佐弁で「どうなってしまう」)』と思いますね」

 6月29日・高知大会抽選会・県立清水の初戦はセンバツベスト4の高知に決まった。抽選会の取材を終え、抽選会場を出ようとすると、そこには県立清水高校野球部の姿があった。

 真っ直ぐにこちらへ視線を向ける選手たち。その目には県立清水高校グラウンドで口々と語っていた「一丸になって強豪を倒したい。力を出し切って一番長い夏にしたい」意思が改めて宿っていた。

 そこに怯えはない。7月13日10時半。[stadium]高知県立春野運動公園野球場[/stadium]で彼らは見せてくれるはずだ。真の強豪と対峙しても動じない「チームワーク」というものを。

 真っ直ぐにこちらへ視線を向ける選手たち。その目には清水高校グラウンドで口々と語っていた「一丸になって強豪を倒したい。力を出し切って一番長い夏にしたい」意思が改めて宿っていた…。

                   ◇

7月13日。投手陣では先発の大西は和田恋、2番手の上田は市川からそれぞれ空振り三振を奪い、1番に入った弘田は5盗塁。「個人1試合最多盗塁記録」の金字塔をセンバツベスト4から打ち立てた意味は、5回コールド・1対13という結果より限りなく尊い。

やはり彼は見せてくれたのだ。真の強豪と対峙しても動じない「僕らのチームワーク」というものを。

(文=寺下友徳

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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