Column

県立佐賀北高等学校(佐賀)

2013.06.25

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県立佐賀北高等学校(佐賀) | 高校野球ドットコム

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 あの奇跡から、やがて6年が経過しようとしている。
 “がばい旋風”と称された快進撃で優勝候補を次々と撃破し、劇的な逆転満塁本塁打で全国の頂上に登りつめた2007年の第89回選手権。それ以来、佐賀北は公立普通科高校でありながら「日本一」の冠と運命を共にすることを宿命づけられ、常に人々の注目を集める存在となった。

 2012年夏に、甲子園返り咲き(2012年8月8日 対仙台育英)を果たすまでの5年間、百崎敏克監督は多くの苦悩を抱えながらも、全国制覇以前から一貫して変わらないチーム強化に取り組んできた。練習時間は限られ、専用球場を持たない公立校。他の部活動とグラウンドをシェアし、新入生のスカウティングもままならない。そんな佐賀北と同じような境遇で、高校野球を戦うチームは全国に数多いことだろう。ミラクルの主役を演じた佐賀北の現状から、チーム作りに対する何かのヒントを見出してみたい。

百崎監督の取捨選択

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ボール回しはタイムを計測しながら行なう

 「むしろ一番高校生らしいことをしているかもしれないな」
 百崎監督はチーム作りについて、そう語った。
 佐賀北の全体練習は16時過ぎにぼちぼちと始まり、19時には終了している。その後は各自が自主練習を行なうものの、19時30分には完全下校を完了していなければならない。もちろん大会前になれば練習時間も増えてくるが、基本的にこの形態は変わらない。

 「強豪私学のように練習を極めるなんて、最初から無理だと分かっている。しかし、超進学校と言われる学校よりは練習ができているのです。それでもたしかに練習時間は限られている。そこでまず考えなければいけないのは、取捨選択です」と百崎監督は言う。

「もっと練習がしたい。やってしまえば、朝に間に合わない。勉強に集中すれば練習時間が削られる。」

 そんなジレンマの中で、百崎監督は実戦練習を切り捨て、基礎練習を選択したのである。佐賀北の平日練習は、グラウンドに出てきた選手から順次行なうウォーミングアップに始まり、キャッチボール、トス打撃、ボール回し、ポジション別ノックと、ルーティンがほぼ決まっている。つまり、基礎練習がほとんどだ。

 ボール回しはチーム全員が参加し、4つの塁上でタイム計測しながら回していく。本塁~一塁方向、本塁~三塁方向と左右10周行ない、途中ミスがあれば再度やり直し。60秒以内でフィニッシュすれば充分に合格点だ。ポジション別ノックは投手、捕手、内野手、外野手に分かれて行なう。捕球後、投手はバント処理、捕手は無人のネットに向かっての二塁送球、内野手は二遊間付近でのベースワークが中心となる。
また、外野は一部マシンを用いての左右前後のフライ捕球を行なう。

[page_break:基礎練習は基礎体力作り]

基礎練習は基礎体力作り

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スクワット、丸太ランとともにサーキットに組み込まれている腕立て伏せ

 「試合形式のフリー打撃やシートノックは行ないません。私は週末の練習試合こそが実戦練習だと思っていますから。そこで見つかった反省点を、平日に反復するのです」

 もちろん、サッカー部と兼用しているグラウンドのスペース問題は大きい。打球が飛びすぎてしまえばサッカー部の練習に支障となり、逆にサッカーボールが飛び込んでくることもあるため、フォーメーション作りなどを集中的に行なえないのだ。マシン打撃もバックネット方向に向かって打ち込むしかない。

「基礎練習は基礎体力作りなんですよ。試合でもテストでも、最後は体力勝負になりますからね。最後まで粘ろうと思っても、体力がなければ話にならないわけで。だからこそ、体力を養う意味でも基礎練習は欠かせないのです」

 百崎監督の経験によると、夏目前になると、どうしても強豪私学や、有名実業系高校に対して、技術的な差が生じてしまう。技術で勝てないなら体力で上回るしかないのだ。
さらに、メンバー外選手が練習に参加できなくなることにも問題があるという。

「ウチのようなスーパースターが不在の学校は、チームワークで勝っていかなきゃいけない。だからすべての者に同じ練習をさせないといけません」

勉強会で磨かれたチームワーク

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主将の真崎涼。昨年夏の甲子園はボールボーイとして憧れのグラウンドに立つ

 「全員で声を掛け合い、全員で拍手をし、試合に出ている選手たちが戻ってきやすいベンチを作ること」を理想とする百崎監督が、チームの一体感を高めるために取り組んでいることがある。テスト前の週末に行なう「勉強会」だ。

 普通科校の佐賀北は、テスト前2週間になると部活動が禁止、あるいは制限されてしまう。そこで百崎監督は「野球はいっさいやらないから」と、テスト前の休日に部員を集めて、授業と同じ6コマ設定の勉強会を開催することにした。

 当日、選手たちは弁当持込で参加し、百崎監督自身も担当教科の国語を指導しているという。じつは、この勉強会こそが「チームワーク強化」の手助けになっているというのだ。

「野球の技量が高い子は、普段の練習でメンバー外の子を引っ張っている。逆に野球でレギュラーになれない子が、勉強でレギュラーの子をカバーしてあげる。これを続けることに意味があるのです」

 テスト前2週間に練習はできなくとも、週末の勉強会では週末練習以上の時間を使って“集中する”という作業を行なっている。その中でそれぞれがカバーリングをし合うことで共闘意識が芽生えていくと、百崎監督は言うのだ。

 「その効果は大きい」と語るのが主将の真崎涼だ。
「学年に関係なく助け合う、教え合う。結果的にチーム一丸になれる。自分は入学した当時から、ずっとそういう環境の中でやっています。それこそが佐賀北の伝統なのではないでしょうか」

 テスト期間中、選手たちは百崎監督が野球の話を仕掛けても、いっさい耳を貸さないほどの勉強モードに突入する。その点、百崎監督が重要視するメリハリが充分に活きていると言っていい。また、広島や岡山に遠征したとしても、帰宅後は課題に取り組まなければいけない。眠い目をこすり、文武の両面に打ち込む選手たち。「強豪私学と比べても、決して楽ではないと思いますよ」という百崎監督の言葉ももっともだ。

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甲子園スタンダード

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 また、佐賀東時代に部長、神埼佐賀北監督として計5度の甲子園を経験している百崎監督は、日常から選手たちに「甲子園」を意識付けさせている。例えば移動に関してもそうだ。

「甲子園の大会中は、決められた時間前までに会場入りしなければいけない」
「甲子園では、決められた時間内にベンチを空けなければいけない」
「そういう緩慢さは甲子園では許されない」
「そんな掛け声では、甲子園の打席には届かない」

 など、自らが経験したことを選手に言い聞かせながら意識を高め、時間の流れが非常に早い“甲子園タイム”によって選手たちを動かしているのだ。全国制覇を達成した夏もそうだった。当時、初めて甲子園の土を踏んだ選手たちだったが、日頃から百崎監督が「甲子園ではこうだから」と意識を植え付けたことで、現地に入っても普段とまったくペースを乱すことなく、大会を過ごすことができた。つまり、自分たちの野球に集中することができたのだ。

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佐賀北が誇るクリーンアップ。左から3番・朝日秀磨(3年/右投左打)、4番・山口慶一郎(3年/右投右打)、5番・古川大地(3年/右投右打)

 このようなこともあってか、佐賀北ナインは時間との向き合い方が非常に上手な印象を受ける。平日練習でもそうだ。昼休みになると、百崎監督が作成したメニューがマネージャーを通して選手に伝達される。各メニューには時間やセット数が明記されている為、全体で行なう基礎練習はだいたい1時間もあれば終了しているのである。主将の真崎は、昨年の甲子園(2012年8月8日 対仙台育英)で自ら志願してボールボーイを務め、選手と同じフィールド上で百崎監督が説く“甲子園基準”を体感した。

 「甲子園はいつも先生が言っているとおりの場所でした。自分はベンチの横にいましたが“あぁ、普段から言われているのは、こういうことだったのか”と思いながら見ていました。やはり全国制覇を経験している監督さんですから、説得力が違いますね」

 チーム一丸、目指すはもちろん2年連続の甲子園。しかし、百崎監督が目指しているところは、それだけではない。

「“あれ以来”、どこへ行っても『あ、あの佐賀北か』という目で見られるようになった。それをプレッシャーだとはまったく感じませんが、応援してくれるチームであり続けたいとは思います」。

(文=加来慶祐

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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