Column

常葉学園菊川高等学校(静岡)

2013.02.23

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 ピンストライプのユニフォームが甲子園に戻ってくる。
 2007年のセンバツ、初戦で佐藤由規(現・東京ヤクルト)を擁する仙台育英を下し勢いにのると、準々決勝の大阪桐蔭戦ではエース・田中健二朗(現・横浜DeNA)が中田翔(現・北海道日本ハム)に対して真っ向勝負を挑んで勝利。準決勝(対熊本工)、決勝(対大垣日大)はともに逆転で、初優勝を成し遂げる。甲子園未勝利のチームが一気に全国の頂点へ登りつめた。翌08年夏の甲子園では準優勝に輝き、一躍高校野球界のトップに躍り出た常葉菊川。豪快なフルスイングに積極果敢な走塁は高校野球の常識を覆し、全国に強烈なインパクトを与えた。

敗戦を糧に上り詰める

 その後、常葉菊川の野球スタイルは変わることがなかったが、結果に結びつかなかった。2010年の夏は決勝戦で兄弟校の常葉橘に甲子園を阻まれると、翌2011年夏はベスト4で惨敗。冬から夏にかけてグッと力をつけてくるものの、勝ち切れなかった。
 昨年の夏も長身右腕・岩本喜照(九州共立大進学予定)を擁しながらもベスト8で敗退。『菊川の野球も陰りが見えたか』。そう感じつつあった、近年の常葉菊川
 3年生が抜け、新チームになっても印象は変わらなかった。突出した選手が少なく、前評判も決して高くなかった。事実、8月下旬の西部地区大会では小笠に敗退。好左腕・松村涼の前にあっさりと抑えられてしまった。敗者復活戦にまわり、負ければ秋が終わりの状況。浜名戦では何度もピンチがありながらも、延長戦に持ち込み、さらに粘って15回を戦い再試合へ。翌日の再試合で勝利し、紙一重のところでの静岡県大会進出。かつてのような圧倒的な強さは見ることができず、この時点でセンバツ出場までを予想することはできなかった。

▲常葉菊川 堀田竜也投手

 それでも、静岡県大会に入ると、エース・堀田竜也(2年)の踏ん張りで勝ち上がる。この時期、森下知幸監督は少しずつだが、手ごたえを感じ始めていた。

「西部地区大会で小笠に負けて、浜名に再試合。考えてみればあそこで負けていれば終わりだったので、ポイントになると思いますね。でも、やっと力がついたなっていう試合は準決勝の飛龍戦。あの試合で逆転できたということですね」

 東海大会出場をかけた飛龍との準決勝。序盤に3点の先制を許しながら、逆転勝ち。常葉菊川らしい野球が少しずつ戻ってきた印象を受けた。

 東海大会の初戦の相手は07年センバツの決勝で対戦した大垣日大。この試合、先発した堀田は11安打を浴びながらも粘りの投球を展開。打線もつないで得点を奪い、6対5で競り勝つ。さらに、準々決勝で愛知1位の東邦相手に堀田が11安打を浴びるも、チャンスで畳みかける常葉菊川らしい野球で、2回、7回に3点ずつを奪って準決勝に進出した。準決勝で県岐阜商にサヨナラで敗れたものの、センバツ切符に大きく近づいた。

 主将の松木大輔(2年)が、あらためて昨秋を振り返る。
「正直、チームがまとまらない時は少ししんどかったのですが、サブの選手が支えてくれたのが大きかったです。みんなに助けてもらってばかりでしたね」

 新チーム結成後、こんなことがあった。
 昨夏からのレギュラーだった遠藤康平(2年)は新チームでも中心的な存在だった。ただ、遠藤は野球センスこそ優れているものの、エラーした時の気持ちの変化が目立った。自ずとチームの士気が下がる。そんな遠藤を見かねた松木から厳しい言葉が飛び、数試合の間、練習試合のメンバーから外れることもあったという。主将の厳しい決断が遠藤を変えた。
 スピーディーな動きと強肩を生かした高い守備力に加え、打つ方では3番。県大会準決勝で逆転勝利のきっかけとなるレフトオーバーの二塁打を放ち、東海大会の東邦戦でも4対3で迎えた7回に満塁から試合を決める2点タイムリーを放った。ここ一番で勝負強さを発揮した遠藤。精神的にも一回り成長した遠藤の活躍なくして、センバツ出場はあり得なかっただろう。

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フルスイング野球回帰

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 昨秋は送りバントを使っていた常葉菊川。これまでのイメージとは少し違う。公式戦では計23犠打。1試合平均1.6犠打と、確実に塁を進めるケースが目立ったのだ。だが、森下監督はセンバツまでに常葉菊川の代名詞となった「バントなしのフルスイング野球」を完成させたいと目論んでいる。

 フルスイング野球回帰へ、キーポイントとなるのが1番打者の登地慶輔(2年)。駒のように体の軸を中心にクルッと回転し、鋭い打球を放つ好打者だ。登地が出塁すれば、必然的に得点パターンとなる。
「勝つための野球をしますけど、5年前のような爆発的な打線が最終目標です。3番、4番につなげられるように出塁してチャンスを作りたいです」。

 主将であり、4番を任される松木も続ける。
「5年前の打線のイメージを抱いているファンは多いと思います。もう一度、全国にあの打線を見せるのが目標です」

▲常葉菊川 森下知幸 監督

 常葉菊川のフリーバッティングを見ていると爽快だ。
両サイドではバッティングピッチャーが投げ、真ん中はバッティングマシン。各箇所2人で打ちこみ、時間で区切り、ローテーションで打つ場所を入れ替えていく。このチームの打撃ファームの特徴は、テークバックを大胆に取り、フォロースル―も大きいこと。反動をつけている分、鋭い打球音を伴って、ライナー性の強烈な打球が飛び交う。何度見ても飽きることがない。

「秋の段階ではそこまでの打力もなかったし、ピッチャーの安定性もなかったので、1点1点という野球をやりました。その中でバントも使ってきました。ただ、あのとき(07、08年)に作ってくれたものがそういう野球ですので、今入ってきている彼らもそこに憧れて常葉菊川を選んでくれたんだと思います。センバツにいったら、彼らの見たことのないようなボールも来るだろうし、それを打ち返すためには大変だと思います。でも、いつできるかは可能性として分かりませんが、そこを目指していきたいと思います」

 森下監督のいう「そこ」とは、まぎれもなくフルスイングで相手を圧倒する打線。「2013年版フルスイング野球」が完成間近のようだった。

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[page_break:不安の投手力を守備で補う]

不安の投手力を守備で補う

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▲左から登地選手、松木選手、堀田選手

 06年、07年のチームと今回のチーム。森下監督が「もっとも違う」というのが投手力だ。07年は、田中、08年は戸狩聡希(現・ヤマハ)と野島大介萩原大起(現・愛知学院大)と全国クラスのタレントが揃っていた。
 しかし、昨秋は堀田が結果を残したものの、絶対的なエースと言いきれないのが実情だ。それだけに、守備力が重要になってくる。「守備にはこだわりを持っている」と公言する森下監督が熱く語る。
「全体的に選手が守備を好きになってきているのかと思いますね。好きになってくれないと絶対上手になりませんからね。守備練習はしんどいと思います。でも、しんどい守備練習を彼らなりに、楽しみができてくるようになると上手くなると思うんですね。そういう段階にはなってきているかなと思います」

 この日の練習でも、打球に届くか届かないかの絶妙なコースへノックする森下監督の腕にも力が入る。少しでも気持ちの入っていないプレーが見えると、激が飛ぶ。さらに、気になる場面があれば、選手を集め、細かな説明を繰り返していた。
 とはいっても、やはり、甲子園で勝ち抜くには投手陣の成長が必要になる。最後に堀田に、センバツに向けての抱負を聞いた。

「バッティングのチームで先制点を取ってくれると思うので、勝つように投げるだけです。今は変化球よりも、ストレートを磨くことを考えています」

 130キロ台後半のストレートをマークする球速よりもキレを重視する堀田。左腕・穂積大河(2年)とともに、失点を最小限に減らしたいところだ。
 戻ってきたピンストライプが今年はどんな野球を見せ、どう進化してくるのか。対戦する相手にとって、戦いにくいチームであることは間違いない。

(文=栗山司

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関連記事:独占インタビュー 戸狩聡希選手(常葉菊川ーヤマハ)

 常葉菊川学園時代、2年春のセンバツで優勝。翌夏の甲子園では準優勝に導いた左腕。現在はヤマハで活躍中。今年で入社4年目となる戸狩 聡希選手にお話を伺いました。

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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