Column

帝京高等学校(東京)

2012.12.21

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 毎年、140キロを超えるスピードボールを投じるピッチャーを輩出し、なおかつパワー抜群の強力打線を作り上げる帝京高校。
 前田三夫監督のもと、選手はどんな練習、トレーニングに汗を流してスピードとパワーを身につけているのか。オフシーズンの取り組みから見えてきた強豪高校であり続けられる背景にあるものとは。

持久力と瞬発力、両方を持ち合わせた筋肉を作るということが理想

 一般的に冬場は体力強化に充てる期間とされるが、前田監督もその捉え方には相違はない。

▲タイヤを引きながらバック走

「生徒たちには『おまえたちの体ができるのを待っている。今の体では勝負にならない』と、この冬は体を大きくするように言っています。秋の大会後に体重を測ったんですが、年内中に3キロ増やすことをノルマにしています。やはりこの時期に体を作らないと駄目ですから。1人でも達成できなかったら正月も休みなしにすると言ってあります。当然、ただ太るんじゃなくて、筋肉量を増やすということですね。そこからパワーやスピードというものが出てくるんだと思います。筋肉は俗に言う、マグロの筋肉とヒラメの筋肉があります。持久力と瞬発力、両方を持ち合わせた筋肉を作るということが一番の理想ですね」

 この日の体力強化メニューは約20メートル四方の正方形の辺を、腰をかがめて片手で地面に触れながら周回したり、ジャンプをして着地後すぐに後ろ回りにでんぐり返しをするように体を丸めて回転し、背中がすべて着いたところからお腹の力を使って反転し、起き上がりながら再びジャンプするのを連続30回行うなど、特別な道具を使うことなく、体をいじめ抜くものだった。

石川亮(帝京)

「うちはオーソドックスで、特別なことはしていないと思います。重点を置いているのはウェイトトレーニング。あとは重いタイヤを引くトレーニングは昔から続けています。重さを測ったことはありませんが、乗用車の小さなタイヤではなく、トラック用の大きなタイヤですから重たいですよ。これは良いですね。足が太くなります。特に太ももとお尻。効果を感じています」(前田監督)

 これが実にハード。
 塁間。本塁、一塁、二塁など二つの塁間のベースランニングなどを通常のダッシュだけでなく、後向きでのダッシュも繰り返す。しかもタイム設定があり、クリアできなければスクワットなどのペナルティが容赦なく課せられる。石川亮捕手を筆頭に、特に2年生の太ももは、みな丸太のように太いのは、このタイヤ引きによるところが大きいのだろう。
 1年生のうちはタイムをクリアできない生徒も少なくないというが、石川捕手を中心に学年の壁を乗り越え、「○○、頑張れ」「○○さん、頑張って」と声が飛ぶ。こうした辛いトレーニングをともに乗り越えることで団結力が深まっていくのだろう。

「タイヤ引きは毎日はやりません。強化メニューのサイクルとしては、タイヤ引き、インターバル走、タイヤ引き、休みというサイクルで今は行っています。インターバル走はライトポールとレフトポールを往復する距離をだいたい40秒で走ります。およそ250メートルくらいですかね。3つの組に分けてやるので、Aチームが出発して、20秒くらい経過したらBチームが出て、Aチームが帰って来たところでCチームがスタートする。Aチームの休憩はBチームが戻ってくるまでで、Bチームが着いたらスタートする。3つのチームがグルグル回っているわけです。これを7~10本続けてやります。休みは息を整える程度しかありませんから、心肺機能も鍛えられます。これも効きますよ」(前田監督)

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[page_break:合宿所がないため、個々に任せる食事面にも気を配る]

合宿所がないため、個々に任せる食事面にも気を配る

▲前田三夫監督(帝京)

 帝京では長距離走やピッチャーのロードワークのようなものは行われない。

「長い距離を走らせるのも一つの手だとは思いますけど、マラソンだとか、そういうものは私は昔からほとんどやらせていません。心肺機能の面で言えば、ウェイトトレーニングでの種目間を休まないで一気に20種類ほどやらせるようにしていますね」

 ウェイトトレーニングを行っている人なら想像がつくだろうが、しっかり鍛えていなければ酸欠状態に陥る危険性があるため無理に真似ることは控えて欲しい。

 帝京の場合、専任のトレーナーが付き添い、前田監督も一緒に行うなど、目が行き届く状況を作った上で行っている。

 スピードアップを目的としたショートダッシュなどもこの時期はメニューに組み込まれることはない。

「シーズンに入ればスピード系だけをやることもありますけど、この時期はやっていません。スピードをつけることも大切ですが、スピードだけをつけるトレーニングはないですね。スピード、もしくはパワーに特化したものというよりも、両方を効果的に伸ばしていくようなトレーニングが多いでね。パワーがないとスピードが出ない。スピードを上げるためにはパワーが要る。そのあたりのバランスだと思うんです。プロだったら打つことや走ることのスペシャリストがいても良いですけど、高校野球の中ではそういう選手は作りたくない。バランスの良い選手にしてあげないといけない。体を作ることに関しては18歳までが一番伸びるそうですから、私たちの責任は重大です。だからこそ、安易にこの筋肉を鍛えたから球速が速くなるとか、そういうものは私は考えていません。きちんとした体ができればボールは速くなりますし、切れのある変化球も投げられます。バッターもしっかりスイングできますし、そうなれば長打とか、強い打球が飛ぶようになりますから」

 合宿所がないため、個々に任せる食事面にも気を配る。

「『いくら一生懸命グラウンドでトレーニングを積んでも、体にエネルギーを入れてやらないと大きくなれない。食べるのも訓練の1つだ』とは口を酸っぱくして言って、自覚をうながすようにしていますね。いつも生徒の体つきを見てチェックもしています。やっぱりよく食べる子の方がパワー、力感が出るんですよ。技術があっても体がついてこないとそれを生かしきれない。体ができれば自信が出てくる。自信が出ればどんどん前向きになる。練習への取り組みも変わってくる。特別な何かではなく、全般的にバランス良く体をレベルアップしていくことがスピード、パワーを向上させる基本だと思っています」

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[page_break:「実戦の勘」を重要視]

「実戦の勘」を重要視

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 冬場に体作りを大切にするという考えは一緒でも、実戦的な練習を控える高校が多い中、前田監督が「実戦の勘」を重要視していることは他校との大きな違いだ。

 この日も体力強化メニューの前には3ヵ所でのフリーバッティング、シートノックだけでなく、紅白戦を実施。秋の大会では思うような結果を残せなかった打線だが、目を見張る3本のホームランが生まれるなど、着実に力をつけていることを感じさせた。フリーバッティングも実戦を意識したものだった。1つは押し手の返し方を覚えるために、長さ1mくらいの重たい特注バットで顔ほどの高さの緩い球を打つ、主に冬場に行うものだったが、他のマシンによる2ヵ所は、「目を慣らすため」の140~145キロの速球と、変化球への対応力アップを念頭に置いた、2つのホイールを真横にしたもの。マシンのホイールは速球のときは縦、カーブだったら斜めにして回しますが、2つのホイールを真横にするとホイールとホイールの間に入る瞬間のボールの縫い目の位置によってどう変化するかわからなくなるのだ。

▲オフは実践に重きを置いてトレーニング

「私らが高校時代はみんな実戦練習をやりませんでしたけど、勘を取り戻すのに時間がかかる。私は実戦は放さないでやった方が良いと思います。昔はボールを握らせないでやっていたこともありますけど、試合が解禁になってやってみると、勘がなかなか戻らない。

そういう経験から、これはやれるときにやらないと駄目だと考えるようになったんです。ピッチャーも投げないことで筋肉が落ちるんです。それで2月あたりからボールを持たせると肩を壊したりする。休ませるという考えもあるでしょうけど、負担のかからない範囲で投げておく方が逆に怪我の防止に繋がると思います」

 この日の練習は13時からで、17時半にはクールダウンを開始。練習時間は決して長くない。年間を通しても1日練習を行うことはほとんどないというように、内容だけでなく、時間の面でも練習は効率的に行われている。当たり前を大事にしながらの「合理的」かつ、長い経験によって裏づけされた「実戦重視」。帝京高校が強さを築き上げてきたメソッドを垣間見ることができた。

(文=鷲崎文彦

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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