Column

九州文化学園高等学校(長崎)

2012.09.05

野球部訪問 第78回 九州文化学園高等学校(長崎)

実戦力から学ぶ

[pc]


[/pc]

 「元プロ野球選手である監督のもと、野球がやりたい」

 そんな思いを胸に創部間もない[school]九州文化学園[/school]へ入学を決意した齊藤克己は、中学時代、同校の公式戦をスタンドから観戦したことがあったが、練習を間近で見たことがなかった。
 入学を決めてからの齊藤は「高校野球、そして九文(九州文化学園)はどんな練習をするんだろう」という期待と不安が入り混じる中、残り少ない中学時代を過ごしていた。
 そして高校入学前の2011年3月、齊藤は入部予定の数名に声を掛けて、同校野球部の練習を見に行くことにした。
 向かった先は[stadium]九州電力相浦発電所グラウンド[/stadium]。専用グラウンドのない同校野球部が練習で使用している場所だ。校舎が鎮座する小高い丘から北西へ約5キロ、愛宕山の麓からリアス式海岸として有名な九十九島を横目にアップダウンを繰り返す坂道を越えると、ようやくたどり着いた。最後に小さな森をくぐり抜けると、齊藤の目の前に飛び込んできたのは、先輩たちの生き生きとした練習風景。そして元気のいい声がこだましていた。

経験がものを言う

▲打撃練習

 「とくかくみんな声がよく出ていて、雰囲気がいいチームだなと思いました。自分のイメージとしては、走ったり、筋力トレーニングをしたりとか、きつい練習が多いのかなって思っていたのですけど、走者を置いてのバッティング練習とか実戦的な練習ばかりだったのでビックリしました」(齊藤)

 選手は授業を終えると、学校から約5キロの道のりをランニングでグラウンドに向かう。そして到着すると、全体練習としてキャッチボールをするだけで、紅白ゲームかバッティング練習に入る。とはいえ、それぞれ個人の体調に合わせ、アップや柔軟などを行う時間は設けてある。

「平日は基本的に紅白ゲームかバッティング練習しかしません。アップやクールダウン、筋トレや走り込み、それにシートノックもしません。シーズン中の土日は試合ばかりで、オフシーズンも真冬に雪が降っていても紅白ゲームをやります」

 こともなにげにそう話す古賀豪紀は、同校の監督であり、オリックスに5年間在籍した元プロ野球選手でもある。
 古賀は、練習ではなくゲーム(試合)が好きだ。単純明快にいうと「経験がものを言う」という思考回路である。例えば、ゲーム以外は、ほとんどがバッティング練習だというのにはこういう根拠がある。

▲左から橋ノ口裕太部長、古賀豪紀監督

「バットを(しっかりと)振れない子に技術的なことをいうより、とくかく振ること、思い切り遠くへ飛ばせと、どんどん振らせています。そしてバッティング練習では、(打撃投手として)野手が投げて練習することはありません。必ずピッチャーが投げた球を打ち、その打球を捕って併殺の練習をしたり、守備練習をします。とくかく生きた球で練習をするようにしています」

 そして指揮官は、冗談まじりにこうも付け加えた。
「ゲームでいうと私がプログラマみたいなもんですかね」

 対応能力をつけるため、一、三塁からの設定ゲームを9回まで、二塁からの設定ゲーム、はたまた逆回り(打ったら一塁に走るのではなく逆の三塁へ走る)のゲームなど、様々なパターンを取り入れている。

 実戦重視の方針から、年間のゲーム(試合)数をみても圧倒的な数字だ。監督が指揮を執る練習試合があれば、別会場で部長がもう1試合の指揮を執るなど、土日で4試合以上をこなすことが当たり前といったところ。対外試合だけでも年間130試合ほどをこなし、平日の授業が早く終わった際の紅白ゲームやオフシーズンの紅白ゲームも含めると優に200試合を超えることになる。

 固定概念にとらわれず、選手たちがいかにゲームから学ぶことができるか。その実戦重視の背景には、自らが切り開いてきた人生経験が生かされているのかも知れない。

このページのトップへ

[page_break:目一杯の練習はしない]

目一杯の練習はしない

▲左から小崎拓也、齊藤克己、古賀紘平

 元プロ野球選手の肩書を持つ古賀だが、小学時代も中学時代も野球がしたいという思いとは裏腹に、経済的な理由で野球を断念していた。

 シューズと体操服があればできるという理由で中学時代に選んだ部活動はバレーボール、地元では名の知れた存在だった。当然の如く高校(西海学園)へもバレー選手としての入学かと思えば、本人の熱望でバレー選手である古賀が特待生として野球部入部を認められたのである。そこで初めて本格的に野球に取り組むこととなる。

 高校3年間で目立った成績こそ残していないが、高校3年時に九州三菱自動車が硬式野球部を結成という情報を聞きつけると、即座にセレクション受験を決意した。大学野球で鳴らした有望選手など、錚々たるメンバーが受験する中、「とにかく声だけでも目立とう」という気持ちを前面に出すも受験当日に不合格ということを知らされた。

 だが、古賀には野球の神様は宿っていたのかも知れない。次の進路を考えていた最中、元気のよさを買われ後日、補欠からの合格という吉報が届いたのだ。

▲九州文化学園野球部 投手陣

 そこからの古賀はさらに勢いが増した。志願の代打初打席で初球のとんでもないボール球を本塁打し周囲を驚かせると、その直後の都市対抗野球では九州三菱自動車の4番に抜擢。それ以降も勢いが止まらず、気が付けば九州屈指の強打者に上りつめていた。そしてプロの世界へ。

 プロ退団後は地元の佐世保で米軍レスキュー隊、そして教員になるために居酒屋を切り盛りしながら大学へ通うという多忙な生活を経て、今に至っている。

 自らが切り開いてきた様々な経験があるからこそ、どうすれば人が伸びることができるのか。そんな本質的なことを古賀は知っているのかも知れない。

「『例えば肉ばかり食べたらたまには野菜も食べないと』って思うような感覚、つまり自分で考える力をつけてほしいんです。だから、練習も腹八分か七分くらいしかしません。例えば、練習を目一杯やると家に帰ってからすぐ寝てしまう。でも、腹八分くらいの練習にしておくと、家に帰って素振りをしようとか、走ろうって自分から思うように、物足りないくらいで終わらせるんです。自分でやろうって思った時って、何かが違うじゃないですか。そこが練習だと思っていますし、グーンと伸びるところだと思うんです」(古賀監督)

▲九州文化学園野球部 捕手陣

 重要なのは、自分たちで問題を見つけ、それを自分たちで解決できるようになること。例えば、同校は雨の日は練習が休みだというが、そこからも浸透しつつある古賀イズムが垣間見える。

「九文は雨でも練習ができる(室内練習場など)場所がないので、グラウンドが使えないほどの雨の日は休みです。でも、自分は帰って明日のための準備をします。雨の日だからこそ自分からやれば、これからの自分の強さになると思っています」(齊藤)

このページのトップへ

[page_break先輩を越えるために]

先輩を越えるために

[pc]


[/pc]

 野球未経験者も多くいた創部当初から数えると、今年で4年目となる。その最高成績は県大会3回戦だが、確実に右肩上がりの成長曲線を描いている。旧チームの戦績をみても、昨秋の長崎大会3回戦で長崎日大(同大会準優勝)に敗れ、今夏も3回戦で優勝候補にあげられていた創成館(同大会準優勝)に延長12回の末敗れている。
 特に創成館戦では終始、追う試合展開の中、1対3という2点ビハインドの9回二死から連打で同点に追い付いている。その同点打を放ったのが、当時2年生で唯一のスタメンを張った齊藤克己だ。齊藤はその場面を振り返り「とにかく繋げることだけを考えた」というが、そんな重圧のかかる場面で力を発揮できたことこそ、実戦力の賜物ではないだろうか。

▲九州文化学園野球部 齊藤克己 主将

 長崎県の高校野球を地区別で表すと長崎地区、佐世保地区、中地区という3地区に大きく分かれる。中でも九州文化学園のある佐世保地区は、今夏、8年ぶり4回目の甲子園出場した佐世保実を始め、2009年のセンバツを制した清峰昨年のセンバツ出場校・波佐見など、強豪校がひしめく激戦区である。

 その佐世保地区で今年も8月に新人戦が開催された。予選のリーグ戦を順調に勝ち上がった九州文化学園は、決勝トーナメントに進み、1回戦で清峰に競り勝ち、準決勝で波佐見に1点差で敗れた。

「うちにはそんなに飛び抜けた選手はいませんが、実戦経験が多い分、勝ち方がわかってきている」と指揮官は手応えを掴み始めている。

 その象徴的だったのが新チーム結成後、主将に就任した齊藤のコメントだ。
「入部前は、ただ楽しくやっているようにみえたのですけど、実際に入部すると、その陰では自分たちの努力が必要なんだなって思いました。そう考えながら、実戦経験を積んでいくと、相手打者によってのポジショニングとか、周りに掛ける声とか、どんどん見える景色が変わってきて、試合での視野も広がってきました」

 中学3年生の齊藤の目に映った先輩達の生き生きとした練習風景――。
それは、イメージ通りにプレーするための練習だけではなく、イメージ通りにならない試合にも対応できる実戦力アップの証。そして“野球の本質”を実感できるからこそ、九州文化学園野球部にはワクワク感が存在している。

(文=アストロ

このページのトップへ

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.03.28

大阪桐蔭、大会NO.1右腕に封じ込まれ、準々決勝敗退!2失策が失点に響く

2024.03.28

中央学院が春夏通じて初4強入り、青森山田の木製バットコンビ猛打賞も届かず

2024.03.28

【センバツ準々決勝】4強決定!星稜が春初、健大高崎は12年ぶり、中央学院は春夏通じて初、報徳学園は2年連続

2024.03.28

健大高崎が「機動破壊」以来、12年ぶり4強、山梨学院は連覇の夢ならず

2024.03.28

星稜・戸田が2安打無四球完封で初4強、阿南光・吉岡はリリーフ好投も無念

2024.03.23

【春季東京大会】予選突破48校が出そろう! 都大会初戦で國學院久我山と共栄学園など好カード

2024.03.24

【神奈川】桐光学園、慶應義塾、横浜、東海大相模らが初戦白星<春季県大会地区予選の結果>

2024.03.23

【東京】日本学園、堀越などが都大会に進出<春季都大会1次予選>

2024.03.27

報徳学園が投打で常総学院に圧倒し、出場3大会連続の8強入り

2024.03.25

異例の「社会人野球→大学野球」を選んだ富士大の強打者・高山遼太郎 教員志望も「野球をやっているうちはプロを狙う!」父は広島スカウト

2024.03.08

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.03.17

【東京】帝京はコールド発進 東亜学園も44得点の快勝<春季都大会1次予選>

2024.03.11

立教大が卒業生の進路を発表!智弁和歌山出身のエースは三菱重工Eastへ、明石商出身のスラッガーは証券マンに!

2024.03.23

【春季東京大会】予選突破48校が出そろう! 都大会初戦で國學院久我山と共栄学園など好カード

2024.03.01

今年も強力な新人が続々入社!【社会人野球部新人一覧】