Column

大阪市立桜宮高等学校(大阪)

2012.06.30

野球部訪問 第71回 大阪府立桜宮高等学校(大阪)

 大阪の公立の雄・桜宮高校。今春は大阪府大会で4強入りし、強豪私立勢と肩を並べた。
 また、昨夏は5回戦でPL学園に4対10で敗戦したが、20082010年の夏は、ともに8強入りを果たしている。2010年のこの勝ち上がりの中で、桜宮は3回戦で大阪桐蔭と対戦し、5対2で破った。現在の3年生部員たちは、当時1年生。どんなチームが結果を残すことが出来るのかを目の前にいる先輩たちから常に学んできた。

 
そんな環境の中では、「ここで野球をしていれば、俺たちもやったらできるんや!」
 さもすると、漠然とした考えだけ持って、受け身の姿勢になりやすい。しかし、福原和行監督は、桜宮に就任して7年間、チームの結果を出しながらも、常に自立型の選手を育てる工夫を続けてきた。だからこそ、山野雅之がキャプテンとなった今年の代もまた、変わらずに強いチームであり続けることが出来たのだろう。

今日のペケを明日マルにするための上達方法

福原和行監督

 昨秋大阪府大会4回戦関西創価に2対8で敗れた桜宮。今年の正月明け、目標設定用紙を作成し、甲子園決勝戦が行われる8月22日までの行動計画を全員で書いた。
 そのシートをもとに、選手間で何時間も話し合いをした。昨秋までは「甲子園一勝」を目指していたチームの目標はこの冬、「日本一を本気で目指さないとチームに甘えが出る」と、『甲子園優勝』に変わった。
 そのためには、どういう練習をしないといけないのか。何が出来て、何が出来ていないのか。ゴールデンウィーク中の練習試合の戦い方まで、この1月の段階で全員で落し込んだ。8月まで野球部がどう動くのか、全員で共有し、頭の中で事前に把握することで、チームとしてブレが少なくなる。福原監督は言う。

「漠然と一日を過ごすことはありえないよ。今日よりも明日、明日よりも明後日うまくなっている。上手くなるのに時間かかると一般的にいわれるけど、そんなことない。そのための練習をしよう」

毎日記入し、練習後に振り返りをする練習日誌

 また桜宮の部員たちは毎日、『練習日誌』を書く。実は、この日誌はただ毎日書いて終わりではない。練習後にペアを組み、その日に立てた練習の目標に対して、イメージ通り練習が出来たのか。自分がやろうとしたことにどれだけ近付けたかを見極め、その自己評価を日誌を見せながら30秒間で相手に伝える。そして、残り30秒で今度は、相手から他者評価をもらう。
「今日はノックで、前に出て受けて、バウンド前で合わせて取ろうと思ってたんやけど、ボールを怖がって思うように出来なかった。明日はもう一つ前に出たい」

 そんなコメントのように、今日の練習をどんなふうに練習したいかを前日にイメージしながら書くことが、大事なポイントとなる。また同時にコミュニケーション能力もつくという。福原監督はこの練習日誌の目的をこう話す。

「練習の質を高めようと一般的に言われますが、質ってなんや?って考えていくと、練習に対する意識ですね。だけど意識ってなんや?って考えると、例えば、今日はこんな練習をしようとか、こんなふうに取り組もうとちゃんと課題を持ってグラウンドに来ているか?自分が思っている課題を自分で評価し、周りからの評価をもらっているか?監督に言われて、どうこう言うのではなくて、自分の中で出来た出来なかったを考えてほしいんですよね。僕が望んでいる自立型の選手やチームになるためには、自分で自分の状況を把握することが一番大事なことだと思うんです」。

 日々の振り返りと実行、計画の繰り返しの中で、中学時代はチームの主力選手ではなかったとしても、入学してから確実に上達を続ける部員が多いのも桜宮野球部の特徴である。

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[page_break:大阪桐蔭との対戦で気付かされたもの]

大阪桐蔭との対戦で気付かされたもの

グラウンド真横の河川敷の坂道でダッシュ

 昨秋は大阪府大会4回戦で敗退したチームが、この春はベスト4まで勝ち進んだきっかけの一つに、今年3月8日に行われた練習試合がある。
この日、桜宮は大阪桐蔭と練習試合を行い、連敗を喫した。しかし、部員たちは野球の技術の差以上に、大阪桐蔭と自分たちとの決定的な差を痛感したという。

「全力疾走とか声の大きさとか、ちょっとした一つ一つの行動に対する一生懸命さが明らかにうちよりも良かったんです」(3年生部員)

 福原監督は試合後に、選手たちに尋ねた。

「お前ら、あの試合で大阪桐蔭に何か勝てたものはあったか?」

 「全部負けていました」甲子園で優勝を目標に掲げていた選手たちは、改めてこれから取り組むべきことを知った。
 翌日、選手間だけのミーティングを開き、これからの自分たちの取り組みについて話し合った。練習での決めごとを作り、「それを守れなかったら連帯責任でこんなことをしよう」とある選手が提案すれば、「ええ加減のやつのために、俺たちの時間を奪われるのは嫌や!」と、それぞれの意見を本気でぶつけ合った。4時間半かけて、納得のいくまで話し合ったチームは、翌日からガラリと変わったという。3年生部員たちは、こう振り返る。
「あの試合が、春のベスト4にもつながったことは確か。夏は、一つ一つ勝たなあかんけど、決勝でもう一度大阪桐蔭とやりたいと全員が感じていました」

 その後の選抜大会で大阪桐蔭は初優勝を遂げている。実際に試合でもウォーミングアップから含めて、桜宮ナインは、「さぁ、大阪桐蔭と戦うぞ!」という気持ちで臨んでいた一方で、大阪桐蔭は、甲子園を見据えて、すべて甲子園に合わせてキャッチボールのやり方から、ランナーコーチャーの行き方、アウトになったあとのベンチへの戻り方まで、甲子園で起こることをシュミレーションして行っていたのだ。

「そういった取り組みから、うちの部員たちも刺激を受け、春の大会に向けて自分たちで成長していってくれたのは大きかったですね」(福原監督)

 この春は、冬の間に磨き続けた走塁を生かし、準々決勝までの6試合で30個以上の盗塁を決めた。しかし、準決勝の大商大堺戦(参照:2012年5月13日)では、自慢の走力も封じられ盗塁数はゼロ。4対11で敗れた。

「レベルが上がるほど、バッテリーの牽制が上手だったり、簡単には盗塁をさせてくれない。その中でいかに走れるのか。もうワンランク、それぞれのレベルを極めていかないと難しいことが分かりました。練習で出来ないことは、試合で出来ないので、練習のレベルを上げていこうと選手たちには伝えました」

 福原監督は、この試合の3日後の練習で、選手たちから振り返りシートを受け取った。
 いま、何が悔しいのか。この春の大会をどう見ていたか。また、今の自分自身をどうみているか。自分の武器は何なのか。8つの項目を選手たちは25分間の時間で全て埋めて記入した。練習でやってきたことが通用するんだと実感した反面、まだまだ出来ていないことも見つかった。それだけでも、チームにとっては大きな収穫となった。

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[page_break:『俺たちの進化が問われる夏』]

『俺たちの進化が問われる夏』

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 今年のチームはとにかく選手間のミーティングが多いと福原監督は教えてくれた。
「文句の言い合いをしながら練習してる光景をよく見ますね。お前のそこはあかんのじゃ!って涙流しながら言い合いしてると思えば、厳しいこと言い合ったあとに、頑張っていこうや!とまとまっていく。内野の意見交換会をしたいと提案をしてきたり、自分たちにミーティングの時間をくださいって、よく僕に言いに来ますね」

 報恩――これは、桜宮野球部の伝統として大切されている言葉の一つであるが、自分のことを自分できちんとできる。これまでの色んな方々から受けた恩を自分が成長することで周りに恩返しをしていく。

 そんな意味が込められている。今年のチームも福原監督の教えを受けながら、まさに自立したチームへと育っていった。キャプテンの山野をはじめ、3年生部員たちはこの夏の目標をこう語ってくれた。

「大阪を勝ち抜いて、全国で一番取ります!また、どんな人からでも応援されるチームになります」

 まだ桜宮は、夏の選手権への出場経験はない。だが、そのための準備は整えてきた。
 2012年夏、桜宮は初の頂点を掴みにいく。

(文=編集部:安田未由

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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