Column

府立交野高校(大阪)

2012.04.16

野球部訪問 第62回 府立交野高校(大阪)

躍進から一転、初戦敗退のチームに

“府立交野
高校野球部 村木監督”

 何かに取り憑かれてしまっているかのようだった。苦笑交じりに村木監督は言う。

「力もないのに、勢いだけで勝ったんやから、わきまえろよ!っていう神様の戒めちゃいますかね?」

 大阪府立・交野高――。一昨年3季連続で府大会ベスト8の好成績を残した普通公立校だ。『私学30強の激戦区』と呼ばれる大阪府にあって、交野の躍進ぶりには目を見張るものがあった。

 しかし、昨年の交野の成績は惨憺たるものだった。3大会連続で初戦敗退。それも、全ての大会で初戦から強豪校とぶつかるという不運が重なってのものだった。村木監督の、なかば自嘲気味の冒頭の言葉は、私学全盛の大阪で戦う指揮官の、ちょっとしたジョークだ。
村木監督は続ける。

「一昨年に3季連続でベスト8に行ったのは、いろんな偶然が重なったからやと思っていたので、その分が、降りかかってくるやろうなというのは思っていました。でもね、昨年のチームなんかは、そんなに力があるわけでもなかったのに、初戦から大阪桐蔭東大阪大柏原と試合ができた。幸せなことやったと思います。どのチームにもプロに行った選手がいましたからね。石川慎吾(日ハム)はどんなバッターやねんとか、いい経験でした」

 交野はごくごく普通の公立校だ。野球に特化しているわけでもなく、進学校であるわけでもない。体育科もないし、実業系の学校でもない。
そんな普通のチームに、なぜ躍進が訪れたのか。

 指揮官に尋ねると、村木監督からは意外な言葉が返ってきた。

「結果なんでね。たまたまだと思いますよ。大会には勝ちにいきますんで、作戦面など色々やりますけど、普段から、勝つためにどうしようとかは考えていないです。自分らなりで一生懸命やって、勝つときは勝つし、負ける時は負ける。執着してやっているわけではないんですよ」

 勝っても、勝てなくてもいい――。

 動(やや)もすると、捉え方を間違ってしまいそうな表現だが、この言葉は言いかえれば、チームとしての骨格にそれほどの自信がないと言えるものではない。村木監督は、勝利を目指していないわけでも、敗北に向かっているわけでもない。ただただ、自分らのやっている野球を信じ、貫いているのだ。

[page_break:声の力で盛り上げる]

声の力で盛り上げる

“グラウンドに集合し、ミーティングを行う

 そんな交野の野球――。

 それは、グラウンドにひとたび入れば伝わってくる。

 グラウンド中が活気に満ち溢れ、全員が声を張り上げているのだ。むしろ、声を出していないものが誰一人いない、と言った方がいいかもしれない。選手たちの声が練習の雰囲気を作り上げている。

「私学を圧倒する声。無我夢中に出す時もありますが、選手を叱咤して、前を向かせるための言葉掛けをする」と選手たちは口をそろえる。

 こうしたチームを作ったわけを、村木監督が力説してくれた。

 

「高校生が、なぜ、野球部に入ってくると思いますか?野球が好きやからやと思うんです。好きやから、楽しくやりましょうよ、ということなんです。
 三振したら監督から怒鳴られるような時代もありましたけど、ワイワイやって楽しむ。楽しいから体も動くし、思わぬビッグプレーが生まれたりするんです。高校生にとって、『きつい練習』と呼ばれるものは、肉体的なものが7割で、あとの3割は『やりたくないな』っていう精神的なもの。こうやって、ワイワイ楽しくやっていると、その3割も少し減るんですよね。あんまりしんどくなく練習ができて、気が付いたら、きついメニューをこなしていたってなるのがいい」

 そもそも、村木監督は声を出すのが好きだという。前任の阿倍野、その前の西成でも、あるいは、現役を過ごした天理大時代も、そうしてきたのだそうだ。

 就任して今年で13年目に突入する村木監督は、公立校であっても、良い環境で野球をやらせてやりたいという思いがある。大阪府立大阪旭高校出身の村木監督は、公立校の悩みを受けてきた一人でもあるからだ。

 「僕がいた学校は典型的な公立校でした。グラウンドはない、指導者はいない、道具はない、休日に付き添ってくれる先生がいない。ないないづくし。ずっとジレンマがありました。チームとしては弱いんですけど、甲子園に出ている選手を見て、自分は個人として、能力的に差があるんかな? とか思っていたんです。
 大学に行って天理高校出身の有友(大阪桐蔭・部長)や森島(奈良桜井・監督)がいて、下の学年には、甲子園経験者がいて、凄い世界で野球をやってていたんやなっていう話を聞いて、この子らには、僕が感じた後悔とか、悔しさとかを感じさせたくないんですよね。自分ができなかったことをさせてやりたい、その想いだけですね」

 交野のグラウンドは他クラブと共用だが、全面を使えるときは、試合を行うには十分なスペースがある。指導者は村木だけだが、西成高校で経験した部員不足やグラウンドの狭さかった阿倍野での指導を経験した村木監督からしてみれば、「(西成阿倍野で)工夫してやってきたことが今に生きている」という。

[page_break:意識改革は野球だけではない]

意識改革は野球だけではない

“声を出す選手陣”

 とはいえ、就任当初は、一筋縄ではいかなかった。

交野の野球部は練習に取り組めていたが、日常生活に規律がなかったからだ。

「日曜日に練習試合をしたら『疲れた』といって、次の日、学校を休む生徒がいました。制服の着こなしはだらしないし、授業態度も悪い。チームを変える・変えない以前に、クラブの顧問として、教えなければいけないと思った」

 村木は日常生活からさまざまなことを教え、さらに、こう説いたのだという。

「なぜ、進学校の子が成績が良いのか?ということなんですよ。あの子たちは持って生まれたものがあるのかというと、そうではない。そこには『自己管理能力』が高いと思うんです。授業中に眠たいけど、これは聞いておかないといけないと思って授業に集中する。家に帰って、テレビをみたいけど、これは勉強しないといけないから我慢しないといけない。色んな部分での欲求をコントロールして、メリハリをつけている。自己管理能力に長けているから成績が良いんじゃないか。自己管理能力の高い子が野球をすれば、当然、上達も早いし、意識も高い。だから、進学校には良いチームが多い」

 その意識が浸透すればチームは替わると、指導に当たってきた。

「そのことを言うんで、うちの子は2年生になって、取り組みや意識が上がってきたら、例外なく、学業の成績も上がりますね。野球に対する取り組み、言動、立ち居振る舞いが変わってくる子っていうのは、テストをやった時の学業も上がってくるんですよ」

“松村主将による選手間ミーティング”

 こうした野球を選手たちはとう受け止めているのか。

 ナインの多くがそうなのだが、交野の選手は先輩からの影響を受けてきた。何より、現3年生は、中学3年の秋に、交野の府大会ベスト8、府の21世紀枠選出を知り、入学した選手ばかり。

 だから、それなりの意識を持った選手はいたし、今となっては当たり前となっている声についても「先輩らを見ていると、声で相手を圧倒しているので、声で私学にも勝てることを教えてもらった」(副主将のひとり、・箸大輝)という体験に基づいている。

 もう一人の副主将、松井公平も、こういっている。

「元気を出すことで活気が生まれて、その活気の中で野球をすることで、技術の向上やチームが一つになっていく。声の良さはそこにあると思います」

 いわば、今の交野にとっては、『伝統』がひとつのキーワードになっている。村木監督は結果にこだわるわけではなく、日々を大切に、積み上げてきた。それが評判となり入学し、チーム内でも、上から下へと伝えられていく。ベスト8進出という大きな結果が伝わりやすい部分があったにせよ、先輩から後輩へ受け継がれ交野の伝統は作られているのだ。

 村木監督は言う。

「公式戦で勝てるようになってきたから、こうやって取材をしていただけたりしますが、僕は選手を勧誘したりとかはしませんので、選手が勝手に集まってくるのが理想。でも、それは日々やってきたことの結果としてあるのだと思います」

[page_break:常に全力で練習を]

常に全力で練習を

“控え選手も声をあげ、練習を盛り上げる”

 ただ、課題もある。村木監督は続ける。

「元気はあるんですけど、自分らの調子がいい時だけのケースがあるんですよ。劣勢になったとき、途端に萎むんです。そこを元気出そうよって思いますね。声に調子の波があるのは好きじゃない。元気出してやるんやったら、自分たちにとって都合のいい時間帯だけじゃなく、しんどい時間帯も、変わりなくぶれずにやろう、と」

 そこはある意味で、『声』を指導の一筋に置いている村木監督だからこそ、貫きたい部分であるのだろう。

 主将・松村寛治は指揮官の声を受け止める。

「練習でも時々あるんですけど、冬練が明けてバッティング練習が始ったり、テスト明けとか、そういう時は楽しくて、雰囲気を作れるんですね。けど、それが慣れてきたり、気温が暑かったりしてくると、だだ声を出しているだけになってくる。そういうのは、練習をやる前に意識付けて、やらなければなと思います」

 3季連続ベスト8だった2年前。全て初戦敗退だった昨年。交野はどの道を進んで行くのか。今年がターニングポイントになる。もっとも、昨年の初戦敗退は「去年はいい経験だった」と村木監督も話しているよう、決して無駄ではなかったというのがチーム内にある共通認識だそうだ。箸は言う。

「昨年の夏は大阪桐蔭に負けたんですけど、ボロ負けではなくて、いい試合だったとすごく印象に残っているんです。負けてしんどい一年だったというのではなく、僕たちもああいう試合がしたいと思えるものでした。3年生もスタンドも全員が同じ方向を向いていた。僕らもああいう試合がしたいです」

 敗戦の中で、先輩から教えてもらった経験。3季連続のベスト8も、初戦敗退も、どちらも現チームの財産なのだ。最後の夏に向け、松村主将が最後に誓う。

「先輩から教えてもらったことなんですけど、『今のことだけを考えるとしんどいけど、後々考えたら、そうでもないということがある。負けたら絶対に後悔はする。でも、その後悔を小さいくすることはできるから』と。今、頑張れば夢はかなうと思っています。今を無駄にせんとしっかり練習していきたい」。

(文=氏原英明

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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