Column

県立大垣南高等学校(岐阜)

2012.03.08

野球部訪問 第59回 県立大垣南高等学校(岐阜)

準優勝4回。今度は「シルバーコレクター」に終止符を

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大垣南

“春から夏の躍進に期待がかかる大垣南ナイン”

 チームも指揮官も「夏将軍」だ。大垣南は過去20年間で四度、夏の県大会で準優勝に輝いている。同校を率いる川本勇監督もまた夏に強い男で、ここ10年のうち県大会決勝進出が、前任の岐阜総合学園で三度(部長職期間含む)、現任校で08年の夏に一度と、計四回を数える。

 特筆すべきは、ここ大垣南は、いわゆる「ごく普通の公立進学校」なのに「夏に強い」というイメージが根付いていることだ。スペシャルな選手はほとんどいない。それでも、毎年ではないにしろ、幾度となく夏になるとシード校をなぎ倒し上位に顔を出すのだ。ただ、学校も監督自身もまだ「優勝」がない。悲願のトップに立ち、真の「夏将軍」となる日が待ち望まれる状況である。

 とはいえ、部員たちには実はあまり「夏将軍」の自負はなさそうだ。

 「夏に強いといった感覚はそれほどないですね」(森寛樹二塁手・新3年)
 「『大垣南は夏に仕上げてくるぞ』って声は外から聞こえてきますし、監督も夏に向けた強化を考えているとは思いますが、特別な意識は…」(川上将平遊撃手・新3年)。「夏に強い」という学校の伝統に慢心せず、冷静に受け止めている様子だ。

 むしろ視線は、夏よりも間近に迫った春に向いていた。

 「まずは春の練習試合や地区予選ですね。コントロールを確実にし、打者のタイミングを外したり、打たせて取るようにしたい」(井上和憲投手・新3年)

春季大会で勝ち上がることは重要だと指揮官も力説する。岐阜総合学園時代に準優勝した際は、そのいずれの年も春季県大会で2位に入り、東海大会へ駒を進めている。

 「勝ち進んでいく中で、相手への対応の仕方が分かってくるんです」(川本監督)

 春の成果がそのまま夏につながるということだ。では一体、大垣南のようなノーマーク校が大会で勝ち上がるためには、どうしたらいいのだろうか。そのポイントを川本監督から伺った。

[page_break:春と夏の大会で、ノーシードから勝ち上がるためのポイント]

春と夏の大会で、ノーシードから勝ち上がるためのポイント

゛熟練の手腕で上位に導く川本勇監督”

 春の大会(ゆくゆくは夏の予選)で勝ち進むために、練習試合での<想定>や<想像>がポイントだと川本監督は言う。練習試合で遠征した際、
 「まずグラウンドの特徴を把握するよう選手に指示します。たとえばファールエリアが広いとか、バックネットまでが遠くて投手が投げにくいとか、いろいろな違いがありますから。また、不測の事態を経験しておくために、長距離移動からの到着後わずか20分で試合を開始したこともあります」

 あらゆる環境や局面に慣れておくことで、本番でも普段のペースを保てるというわけだ。

 また、「強豪校耐性」をつける観点からも、練習試合はカギを握っている。
 甲子園常連校とのカードを定期的に設けることで、公式戦での気後れをなくすのが狙いだ。今年も春から夏にかけて、東邦富山商静岡宇治山田商など実力校の胸を借りる日程が組まれている。

 全国クラスの打線に相対する井上投手も、「冬に頑張って成長できた部分を発揮できれば。楽しみです」とマイナス思考はない。

 同時に、対戦相手を県内の有力チーム・有力選手に見立てることもしばしば。「仮想○○高校」「仮想○○投手」をつくってゲームに臨むことは、夏のシード校対策になる。

 強豪校を倒すコツは川本監督がよく知るところで、たとえば昨秋の地区大会では大垣日大を相手に6回まで4対0とリードしていた(最後は逆転負け)。そこでは自軍投手に無走者でもクイックモーション(極端に言えばスナップスロー)で放らせ、緩いボールを多投させたことが奏功した。
 当のエース井上は、「自分の中で根拠があって抑えることができたわけではないです」と謙虚だが、川本監督にとっては、「当時の投手陣の力量から判断して、普通に投げていては勝てないと思ったから」と織り込み済み。4年前の夏、公式戦での登板がほぼ皆無だった左腕の変化球投手を県岐阜商と中京にぶつけて撃破したシーンとも重なっていた。

 「普通科高校のような平均レベルの選手が強敵に挑むには、相手に得点を与えないことが大切。130キロ前後の投手だとストレートが打者に合ってしまう。それよりも、打者が打ちにくい軟投派投手の変化球が有効では」と、どうやら非強豪校の投手なら、緩い球で<かわす>発想が格上を封じるヒントになりそうだ。

[page_break:走塁と小技を多用した夏の戦略]

走塁と小技を多用した夏の戦略

“攻撃で「足」と「小技」、守備で基本を徹底”

 「冬は基本練習とトレーニングの繰り返しで特殊な練習はないですし、特別夏に強いというわけでも…」と川本監督は控え目だ。だが、同じ岐阜県内の松岡達也監督(加納)は、

 「川本先生の仕上げ方は上手ですよ。2008年に大垣南に赴任すると、打撃型のチームに細かい野球をプラスし、準優勝に導いた。僕も去年、(異動で)新たに采配を振ることになった今の部がそのチームによく似ていたので、川本手法を真似したんです」

と話す。指導者間でも評判高い川本メソッドを、もう少し探ってみよう。

 戦略面では、走塁やバントなどの「小技」を磨いていく。「ディレードスチールやエンドランなど、『これを夏の大会でやるぞ』という作戦を考え練習し、ゲームでも試します」(川本監督)。

 実際、昨夏は初戦で強豪私学の帝京可児に2対1で競り勝ったが、勝因は「足」だった。ランナー一・三塁の局面で、捕手がボールを弾いた隙を突き、三塁走者がホームイン(これが決勝点に)。

その場面で一塁ランナーだった森は、
 「自分は二塁に進んだんですが、点が入っていて驚きました。何が起こったんだろう、あの程度の小さなワイルドピッチで(三塁走者の)先輩がホームインしてたのかって」
と興奮気味に振り返る。足で1点をとりにいく姿勢は、有効な夏の戦法として、確実に後輩に受け継がれたようだ。

 大会前の「仕上げ」は、およそ1ヶ月前をメドに、練習量を落として「調整モード」に入るそう。岐阜総合学園時代の川本流調整法を見た松岡監督は、
「やるべきことは5月までにきちんと練習していました。6月以降は、選手の心に『もっと練習をしたい』って欲求が湧くくらいに調節して、プレッシャーを取り除いていた。投手陣が7月、近所の温泉に浸かっていたことも印象的でしたね」。

 だが現部員に聞くと、夏を戦い抜く体力を養成するため、調整モード前の「追い込み」期間は激しいらしい。
 「昨年は、夏の大会1ヶ月前くらいに再度冬の練習メニューになって、大会2週間ほど前から調整に入りました。他校はどうか分からないですけど、追い込みは結構きつかったですよ」(川上
 「タイヤ押しとか、冬でさえつらいメニューをもう一度やりました」(髙田賢志捕手・新3年)「1時間に渡ってノックが続くなど、しんどかったですね」()と、去年からのレギュラー組は表情をゆがめた。

 ただ、大会前だからといって特別なことはしない。時間を無駄にせず、その都度基本に立ち返りながら、選手個々が自分の通用する部分を見つめ直すことが大事だ。

[page_break:新3年生6人を中心に挑むシーズン]

新3年生6人を中心に挑むシーズン

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 大垣南のウリは、何といっても部員間の仲が良いことだ。
 「部室での会話は楽しいですよ。身内ネタですけど、体育祭の応援団の掛け声を真似するのが流行ったり」(髙田
 「僕はどっちかというとボケを振るほうですね。下級生にジャイアン(マンガ・ドラえもんの登場人物)の物真似がそっくりな選手がいるので、よく演じてもらいます」(野原錬人外野手・新3年)と楽しそうだ。

 オフタイムは部員同士でリラックスする一方、冬のトレーニングはハードだった。「タイヤ押し」や「屈伸3000回」をはじめ、15kgの重り(パワーバッグ)を背負って学校横の運動公園の外周を20周ランニングしたことも。よく強豪校で5kgの砂袋を背負う姿は目にすることがあるが、15kgとなるとその3倍だ。普通科公立校の限られた練習時間内で、濃密な鍛錬を積んできた。

 新3年生は6人しかいない。彼らに共通するのは、川本監督に師事を受けたくて入部したことだ。
 「尊敬していた先輩がいたこともありますが、川本先生がいるというのも、大垣南へ進学を決めた大きな理由です」(大谷明紀外野手・新3年)

 生徒から慕われる49歳の名将に「監督自身も四度、あと一歩で夏制覇を逃してきたが、もし足りないものがあったのだとしたら」と尋ねると、「執念かなぁ」とボソリ。でも、執念なら川本監督は相当だ、と県内関係者は「執念不足説」を否定する。であれば、まだ勝機は十分。派手に目立つことはないが、常に警戒すべき「夏将軍」が大垣南であり、再度台風の目となる夏も遠くはないだろう。

(文・写真=尾関雄一朗

*参考文献 「夏の大会直前のチェック&対処法」『ベースボール・クリニック』2009年7月号,ベースボール・マガジン社,p.19-22

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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