Column

龍谷大学付属平安高等学校(京都)

2012.02.15

野球部訪問 第58回 龍谷大学付属平安高等学校(京都)

2月の時期のモチベーションを高めるために

向上

“自分で考える力をつけて欲しい(原田監督)”

 この冬一番の寒波の影響で、グラウンドには小雪が舞っていた。だが、その冷えきった空気を引き裂くような力のこもった指揮官のノックボールが、勢いよく放たれていた。
 熱血な指導で知られる原田英彦監督は、チームを率いて来年で20年になる。「自分も平安ファン」と公言するほど母校を愛し、厳しくも、この上ない熱情を指導にたっぷり注ぎ込んでいる。

 龍谷大平安高。春は36回、夏は31回の甲子園出場を数える、言わずと知れた全国屈指の伝統校だ。普段は学校が位置する京都市下京区からバスで40分ほど離れた京都府亀岡市のグラウンドへ移動するのだが、冬季の12月中旬から2月の約3ヶ月間はグラウンドが低温で凍結するため、学校のグラウンドでの練習となる。

「学校での練習は中学の軟式野球部も含め、他の部活動と一緒になります。軟式野球部とはグラウンドや室内練習場をローテーションで回すので、冬場は原則的に打撃練習はできません。ですので、今はランニングや基礎練習が中心になります。でも、最近の子は同じメニューを繰り返すとすぐに飽きてしまうので、曜日ごとにメニューを細かく入れ替えるなどして工夫するようにしています」(原田監督)

 この日は学校でのノック中心の練習だったが、冬季の練習はシーズン中に比べて密度の濃い反復練習が多い。ただ走る、筋力トレーニングをする、だけでは惰性になり、目標も失いがちになる。そこで考えたのが、指揮官の社会人時代の経験を踏まえた“日替わりメニュー”だ。

日本新薬で営業職をこなしていた頃なのですが、土日が休みで、“さあ1週間頑張るぞ”という月曜の朝に、いつも長々とミーティングがありました。週の最初からその流れになると、もう、ドッと疲れてしまうんです。練習でも同じ。月曜日は原則的に全体練習が休みで、週の中で一番動きが悪いのが火曜日。そこにいきなりノックの雨だと疲れて以降のモチベーションにも繋がるので、週の中で細かくメニューを組むようにしました」

[page_break:プロ入りしたOBが取り組んだ高校時代の冬トレーニング]

プロ入りしたOBが取り組んだ高校時代の冬トレーニング

投手陣は坂道を利用したダッシュ練習。ランニングメニューが1日中組まれている

゛龍谷大平安高校野球部 原田英彦監督”

 そこで取り入れたのは、火曜日と金曜日に行うスポーツジムでのトレーニングだ。エアロビクス(今、流行のピラティスも含む)、筋力トレーニング、水泳の3種類のメニューを、時間ごとに区切ってこなす。

「エアロビクスを取り入れたかったのは、次の動きを考える力がつくからでした。前後左右に飛んだり跳ねたり座ったりすることで、体の軸を自分で考えて作らないと手足を自由に動かせない。自分の体の使い方を知ることができると思ったからなんです」

 水泳トレーニングでは専門のインストラクターを置かず、原田監督が自ら指導を行う。自身の経験を踏まえ、独学で知識を身につけ、指導に反映させた。中にはプールが苦手で水に顔をつけることすら出来ない選手もいるが、水に慣れさせることから、ビート板を使って泳ぐところまで手取り足取り指導する。水泳は体全体を使うので様々な筋肉が鍛えられるが、野球面での効果も絶大なのだ。

「私が現役の時、冬場に水泳トレーニングをやっていたのですが、水泳を始めてから春先の肩やヒジの痛みがなくなったんです。関節の可動域が広がるからなんでしょう。過去には川口(=知哉・元オリックス投手)なんかは、プールのトレーニング以降、関節の可動範囲が広がって、腕がしっかりと振れるようになりました」

向上

“一番体の動きの悪い火曜日にノックを実施”

 水泳トレーニングには様々なメニューがある。心拍数を上げるメニューをはじめ、筋力を上げたり体のバランスを考えたメニュー、腹筋、背筋を鍛えるメニューなど。個々のこなし方には個人差はあるが、過去の教え子の姿を振りかえると、西武で活躍している炭谷銀仁朗選手は、一目置く存在だったという。

「銀は小学校から水泳をやっていて、バタフライでジュニアオリンピックに出場したことがあるんです。水泳でも将来有望な選手だった。水泳のお陰で肩が鍛えられたと言っても過言ではないと思いますよ」

 そんな水泳上級者の炭谷選手でも困難を極めたのが、後ろ向きで泳ぐことだった。一言で言うと想像がつきにくいが、顔の前で水を思い切り外に掻いて水の抵抗を少なくし、足を適度にバタバタ動かす。そうすると体が後方に進むようになる。足をバタつかせすぎると沈んでしまうので、微妙なコツをつかむのに大いに苦労するそうだ。
 だが、それでも躍起(やっき)になって取り組むとプールサイドの鏡が曇るほど汗をかくようになる。プールで汗をかく、というのは何とも信じ難いが、真剣にやれば自然と汗が滝のように流れてくるという。

 プールとエアロビクス。共通しているのは、自分で考えて体を動かさないとついて来られないということだ。トレーニングを通して自分の体の使い方を知り、どんな動きが自分に合うのか、どの動きがケガをしやすいのか、トレーニングを重ねていくうちに自然と体に染みついてくるようになる。

[page_break:冬に腹をくくって鍛錬できるかが分かれ道]

冬に腹をくくって鍛錬できるかが分かれ道

それぞれの「勇気」が書かれた「気付きノート」

“練習も常に変えてメリハリをつけていく”

 このように週の中に様変わりのメニューを取り入れて、もう十数年になる。火曜日、金曜日以外でも、学校の前にある西本願寺の周囲をランニングしたり、車で少し離れたところにある石段を使った走り込みをするなど、練習の場を変えることも多い。

 かつてはグラウンドでサッカーやタッチフット(ラグビーのような球技)を取り入れたこともあったが、「最近の子は対応できなくなった」(原田監督)ため、ほとんどやらなくなった。だが、それも今の時代の風潮なのか、と寂しい気持ちにもなる。

「自分たちの頃は小さい頃から外で遊ぶのは当たり前だったし、ボール遊びもよくやっていた。それでお互いの動きに関する駆け引きも自然と身についていました。野球って、言葉は悪いですけれど“騙し合い”のようなところがありますよね。どうやったら相手をかいくぐれるとか、こうやったらアウトにならないとか。自分たちは遊びの中で養えましたが、今の子はそういう感覚が身につけられてない。極端な話、こうしたらケガをする、という感覚もないから、アップをせずにいきなり無理な運動をしてケガをする子も多いんです。
 要は、準備をしないでも能力さえあれば大丈夫、という風習がついてしまっている。だから、こういう練習を通して、先を見て動けるようになってくれたらと思っているんです。そういう意識が運動の力になって、将来的には生きる力に繋がっていくと思うんです」

 最近の甲子園では2季連続初戦敗退している龍谷大平安。伝統校として結果だけを見れば物足りない感はあるが、原田監督は勝つことだけを重視していない。

「確かに結果は大事です。でも、もっと大事なのは自分で考える力をつけること。中学まではセンスがあれば結果は出ただろうけれど、高校はそうはいきません。これからプロに行こう、大学で頑張ろうという明確な目標があるのなら、そう腹をくくって、練習が出来るようになればと思います。銀(炭谷選手)なんかは、小さい頃からプロに行きたいという夢があって、その覚悟で練習していたので、西本願寺のランニングでもこちらが何も言わないでも自分でずっと走っていました。
 そう腹をくくっている選手は練習時でも目線が違います。腰をしっかり据えて自分を真っすぐに見つめて鍛錬する。それをじっくりこなせるのが冬の練習です。特に高校野球は2年半の限られた時間なので、この時間の中で自分で動ける力を養って、いずれは自立してもらいたい。大人になったら、この意識は必ず役に立つはずですから」

 簡単なメニューをコツコツこなすことは、かつての練習では当たり前だった。それらを“今どき”にアレンジした“古豪・龍谷大平安”の冬の鍛錬には、選手として、だけでなく人として生き抜くための多彩なヒントが隠されている。

「今のチームは自立するのには、まだ時間がかかる」と指揮官は苦笑するが、古豪の伝統をしっかりと受け継ぐために、今日もナインは厳しい鍛錬と向き合っていく。

(文・写真=沢井 史

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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