Column

県立銚子商業高等学校(千葉)

2011.11.23

県立銚子商業

第47回 野球部訪問 千葉県立銚子商業高等学校2011年11月23日

“県立銚子商業高校野球部 集合写真”

 野球王国・千葉県が誇る伝統校・銚子商業。

 1900年(明治33年)に創部し、今年創部111年目を迎える長い歴史を持つ。1952年春(昭和27年)に甲子園初出場。1965年夏には、ロッテで活躍した木樽正明投手を擁し甲子園準優勝し、銚子商業の名を全国に轟かせた。1974年夏には全国制覇も果たした。

 以降、銚子商業は千葉県をリードする存在となり、春・夏合わせて20回出場した甲子園では39勝19敗の実績を残している。出場回数と勝利数はいずれも千葉県最多である。

 しかし昨今は、県内でも上位進出に苦しんでいる。この夏は3回戦敗退、秋も2回戦で敗退。それでも、銚子商業は“古豪復活”を目指し、新たな取り組みで鍛え続けている。


自ら考え、自ら動ける選手を育てる

“県立銚子商業高校野球部監督・石井毅”

「今の選手と昔の選手と違うのは、自分で考えられる選手が減ったことです。私たちの時代の選手は専任のコーチもいなかったし、先輩の技術を盗んだり、聞いたりして、自分で考える時代でした。今は手取り足取り。その指導では自分で考えられる選手になることができないのです」

 そう話す銚子商業の石井毅監督。

 石井監督は1970年に同校に入学。在学中には1971年夏にベスト8、1972年春の選抜でベスト4を経験した。同期には西武でスコアラーを務める根本隆がいる。

 卒業後、専修大に進学するも、途中で選手の道を諦め、教職免許を取得。卒業後は県内の公立校に着任し、09年秋に母校に戻ってきた。監督に就任して3年が経った今、改めて昔の選手と今の選手との違いを痛感しているという。

「選手たちのユニフォームを見てください。いつも綺麗でしょう。私たちの時代は、ユニフォームは自分で洗っていたので、ユニフォームが汚いまま次の日の練習に臨むことがありました。だけど、今は家事は親に任せて、自分は野球を思う存分やればいればいいという家庭が多いのではないでしょうか」

 そういう時代であるならば――石井監督は、せめて野球部では自分のことは自分でやる。自分から気付いて動く習慣をつけようと考えていった。


“銚子商業高校近隣でのゴミ拾いを実施”

 そこで、石井監督が就任してすぐに始めたのは、この2つだ。

 気付く感性を養うために「朝のゴミ拾い」と、「少人数制の合宿」である。最近は、地域のゴミ拾いを野球部で取り組むチームは増えてきたが、銚子商業もまた継続していくにつれてチームに変化が起きた。

 石井監督が就任2年目の昨シーズンは、銚子商業は春季大会(2010年春季千葉県大会)で準優勝を収め、関東大会(第62回関東地区高校野球大会)に出場しているが、やはり、その時のメンバーは落ちているゴミに気付く力も高かったという。

「始めた時はみんな意欲を持ってやっていました。ですから、見つけにくいゴミを見つけてくる。でも、結果が出ない時というのは、惰性でやっているわけではないと思いますが、見落とすゴミが多かったですね。何の目的を持ってやっているのかが、見えないのでしょう」だからこそ、石井監督は何度も何度もゴミを拾うことの意味を説いていくのだ。

 そして、少人数で実施する合宿もまた、強いチームであるためには大事な取り組みとなっている。この合宿は、強化合宿とは違い、自分で考えて動くことを目的にしているものだ。毎回7~8人の部員が、炊事と洗濯を自分たちで行い、練習開始までの過ごし方も自分たちで時間を逆算しながら決めていく。

「炊事、洗濯、夕飯、自主練習の時間は、すべて選手で決めさせます。私から何も言いません。とにかく自分で考えて行動させます」

“県立銚子商業高校グラウンド”

 この合宿で指導者が関与することは、ほぼない。それでも、部員らが炊事をする姿はぎこちなく、思わず心配になることもあるようだ。

 なかには、ユニフォームの洗濯を初めて自分で行った選手もいる。自ら考え行動する習慣こそが、実際に野球のプレーで生かされていく。もちろん、銚子商野球部が取り組んでいる活動は全てはプレーのためだけではない。

 一番の目的は、親への感謝の気持ちを持つこと。銚子商業の主将・江ヶ崎柔も、この合宿を通じてこんなことを感じている。

「今までは、ユニフォームの洗濯も自分でやったことはなくて、親にやっていただいていたことばかりでした(自分で実際にやってみて)こんなに大変なものなんだと思いましたし、今は親には本当に感謝しています」。

 こういった取り組みで、銚子商業は人間としての感性を磨くだけではなく、体の使い方を学ぶために「プレートトレーニング」を取り入れたり、盛岡大付、仙台育英一関学院花巻東など全国クラスの強豪校と練習試合で対戦することで、野球の技術だけでなく、強いチームにある雰囲気や姿勢、取り組み方を選手自身で学んでいるのだ。


新たな伝統を築き始める

“バッティング練習”

 ここ銚子商業のグラウンドに足を運ぶと、一昔前と変わることない風景があることに気付く。それは、グラウンド上の土手沿いに並ぶ銚子商野球部のファンの多さである。

 平日でさえ、毎日40人前後のファンが詰めかけ、練習試合になると多い時は200人以上を超えることもある。もちろん遠征先でもだ。

 ファンの層は、銚子商業の全盛期を知る60代~70代の方が多い。選手たちへ叱咤激励する声に入部したばかりの部員は最初は戸惑いを見せることもあるというが、ここまで熱心に声を掛け続けてくれるファンの存在に次第に、ありがたい思いが増していくという。

 「私はこれまでも県立高校の監督を務めてきましたが、平日からファンの方がこんなに多く詰め掛けることはなかったです。多くの人が来てくれているのはそれだけ銚子商業が地域に根差している証だと思いますし、ありがたいですね」(石井監督)

 これほどまで伝統ある銚子商で「甲子園を目指したい」という高い志を持つ選手が毎年多く入部してくる。以下は現役の部員たちの声だ。

「憧れの銚子商業で野球をやりたかった」(2年・江ヶ崎 柔
「銚子商業は僕にとって地元で身近な存在。強くしたかった」(2年・伊藤 欣史
「伝統ある銚子商業で野球がやりたかった」(1年・宇井野 一真

 他にも、05年に甲子園出場を果たした際に、入部を目指した部員もいる。
「銚子商業が甲子園(2005年)に出場した時に先輩たちに憧れて入学しました」(1年・岩田 友樹

 昔も今も、銚子市を中心とした地元の野球少年にとって、銚子商は憧れの存在なのだ。
しかし、そんな銚子商にとって長年のライバルであった習志野が、2009年選抜に出場すると、今年の夏には甲子園でベスト8に進出。同じく古豪復活を遂げているライバル校の存在に銚子商の選手たちは刺激を受けている。

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古豪復活のためのキーマン

“エース・木内大樹(右)、山崎稜生(左)”

 最後に“古豪復活”に向けて欠かせない、今チームのキーマンを紹介しよう。

 エースの木内大樹は、182センチ75キロ。手足が長く投手らしい体型をしている。中学時代(銚子六中)は捕手。高校から投手を始めた。長い腕を生かしたオーバーハンドから繰り出す速球は最速135キロ。角度のある直球が自慢だ。

「投手として素質は良いものを持っています。ただ、姿勢は真面目ですが、まだ自分を追い込んで限界に挑戦することがない。この冬はいかに自分を厳しくして取り組むことができるかにかかっています」(石井監督)

秋季県大会では、背番号1をつけて臨んだ木内。船橋芝山戦(2011年09月23日)では5回まで無失点ながらも不安定な投球でマウンドを降りた。エースとして完投できなかったことを反省している木内。

「エースは最後まで投げ通すもの。だから信頼される投手になりたい」。この冬、自分を追い込んで体を鍛え上げ、目標である「最速145キロ&千葉県NO.1投手」を目指す。

 もう一人のエース候補である1年生の岩田友樹(銚子四中)。新チーム直後はエースとして期待をかけられ、地区予選では背番号1を背負ったものの、右肩の故障のため戦線離脱した。岩田は177センチ82キロという恵まれた体格で、中学時代から軟式で135キロを投げていた。しかし、彼にはこの秋まで課題があった。体が硬く柔軟性がなかったことだ。そのため、体の力をボールに伝えることができなかった。

 この秋の岩田の投球フォームは、キャッチボールで投げるような軽い投げ方で、ダイナミックさはなかった。軽く投げないと体を制御できなかったからだ。今は右肩のリハビリとともに、柔軟体操に取り組んでいる。

「岩田は横に太い体型に見えますが、意外にジャンプ力、瞬発力に長けているんですよ。投手にとってその2つは大事な項目ですからね」

 石井監督が驚くほどの運動能力を持っている岩田は、この冬は体の柔軟性を高め、体を大きく使えるようになれば、下半身の力をしっかりとボールに伝えられる投手に成長するだろう。来春の岩田のピッチングが楽しみだ。

“クリーンナップ 江ヶ崎柔(左)、本田光希(中)、稲村龍孔(右)”

 クリーンナップに座るのは、3番本田光希(2年・神栖)、4番江ヶ崎柔(2年・旭第二)、5番稲村竜孔(2年・八日市場一)。
 本田は、チームの中で最も長打力のある選手。腕っ節の強さを生かした打撃スタイルで、この日の練習で行われたロングティーでは長い木のバットに振り負けることなく、力強い打球を飛ばしていた。江ヶ崎は、秋季千葉県大会の1回戦・船橋芝山戦でタイムリーを打つ活躍を見せたが、この冬は打撃の力強さを高めることを目標にしている。5番稲村もまた船橋芝山戦で、走者一掃となる右中間へ長打を打ち、期待をかけられる選手の一人だ。
中心となる選手たちの成長が相乗効果となって、ひと冬かけてチーム全体の底上げを図っていく。

 千葉の古豪復活へ――オールドファンの温かい声援を受けながら、銚子商ナインは新たな伝統を築きあげていく。

(文=編集部:河嶋宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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