Column

県立大分西高等学校(大分)

2011.09.15

大分西高等学校

第43回 野球部訪問 県立大分西高等学校2011年09月15日

 2009年夏の県大会ベスト8、同年秋にベスト4、さらには今秋に行われた新人戦という位置付けの第120回大分県高等学校野球選手権大会で準優勝を果たすなど大分県内で新しい風を吹かせている県立大分西高等学校がひそかな話題となっている。

 2年生11名、1年生12名の計23名という決して多いとは言えない部員数。しかも野球部のグラウンドは内野ノックがなんとかできる程度の環境の中、なぜ、大分西が急激な右肩上がりの成長曲線を描いているのだろうか。

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【目次】
1.新しい風
2.エースの座とリスペクト
3.2ポジションから生まれるレギュラー争い

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【目次】
1.新しい風
2.エースの座とリスペクト
3.2ポジションから生まれるレギュラー争い

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新しい風

【限られたスペースの野球部グラウンド】

 1962年に大分県立大分女子高等学校として開校以来、女子校としての歴史を歩んできた同校は、2003年に男女共学へ移行し、校名を大分西高等学校と改称。それと同時に野球同好会として新たな一歩を踏み出していた。

 その最中、2005年に津久見時代に選手・指導者として甲子園出場経験のある山本一孝を監督として迎え、やがて野球部としても大分県全域から1学年5名程度の推薦枠を設けられるようにもなり、中学生に対する学校見学会では50~60人も集まるなど大分県内でも人気のある野球部となっている。

 そんな大分西で、推薦入学者と一般入学者、先輩・後輩の垣根を越えたそれぞれの存在意識、彼らが心掛けたレギュラー争いの在り方とはいかなるものだろうか。

 大分駅から歩くこと10分足らず、通学するにも立地条件が良く、学校として高いレベルでの文武両道を掲げるなど県内屈指の人気校であり、体操、なぎなた、陸上など全国的に名をはせている多数の部活動も盛んである。また、全国的にみても珍しい県立の全日制課程総合学科の高等学校で、少人数制授業も組み込まれるなど単位制を取り入れている。

 そのため、最大で週4単位を部活動に当てられることも可能で、授業の一環として野球部はマシンを据えての打撃練習ができるなど決して恵まれているとはいえないグラウンドの物理的困難をカバーしているところもある。また、大会前などでなければ週1回のオフを設けるなど学校側や野球部首脳陣が、今の生徒のニーズに合わせようと試行錯誤していることがみてとれる。

 それは、私立強豪校でみられるようなタイプでなければ、伝統校のような空気でもない。さらに近年目立つようになってきた野球部強化に力を注ぐ私立校の新興勢力といった感じでもない。この新しい風の匂いを嗅ぎつけ、大分西の門を叩いた球児たちが、さらに吹かせる風は、ある意味、大きな風なのかもしれない。


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【目次】
1.新しい風
2.エースの座とリスペクト
3.2ポジションから生まれるレギュラー争い

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エースの座とリスペクト

【山本一孝監督】

「うちの場合、1年とか2年とか、学年は関係ないですね。1年だから出られませんよとか関係ないので、入学してある程度体が出来て、使えるなと思ったら使いますし、必ずみんなにチャンスを与えています」(山本監督)

 2年生3名、1年生3名という投手陣の中で、エース候補の一人である2年生右腕の阿南大樹は、新チーム結成以降、初めて行われた公式戦である選手権大会(新人戦)でエースナンバーを1年生左腕の小野公佑に奪われている。

 しかし、そんな状況においても阿南は下級生に対してリスペクトを持って接している。

「後輩といっても自分のためになるので、変化球やマウンド捌きなど小野から学ぶところは沢山あります。野球になれば、互いに遠慮もしませんし、小野は下級生ですけど、自分はライバルだと言い切っています。それがいい刺激になってお互いに成長できれば、ダブルエースみたいに成れるんじゃないですか」(阿南)

 一方、入学直後からマウンド経験を踏んでいる1年生の小野も先輩と口を揃えるかのようにこう話す。

「学校生活では(先輩・後輩として)いい関係なんですけど、野球になったら違います。自分は闘志むき出しのタイプですけど、阿南さんはマウンド上で落ち着きがあって、左と右の違いもそうですけど、あらゆる面で自分とは対照的なんです。もちろん、尊敬していますが、自分がエースの座を争うつもりです」

【左から三代郁也、阿南大樹、小野公佑】

 竹田南部中学時代、大分県下で行われた中学地域選抜軟式野球大会では竹田支部選抜チームの投手として優勝に貢献した阿南、大分東リトルシニアのエースとして九州大会ベスト8の成績を収めるなどの活躍をみせた小野、ともに推薦入学した二人であるが、一般入試で高い競争倍率を勝ち抜き、入学した投手も虎視眈々とエースの座を狙っている。

 大分西中学時代は、大分支部選抜にも選出された実力を持ち、高校でチームメイトとなった阿南に当時、投げ勝ったことがあるという2年生の三代郁也はこう話す。

「球がグーンと伸びてくる本格派の阿南、気迫あるマウンド捌きや凄い変化球を持っている小野は、本当にいいピッチャーだと思います。自分はケガをして出遅れているところがあるのですが、まだエースの座は諦めていません。彼らに負けないように自分独自の特色を出そうと思って、中学までは本格派だったのですけど、今はコントロールを重視して打たせて取るように意識しています。おおげさかもしれませんが、奪三振と四死球をゼロにするくらいの気持ちでいます」

 学校では先輩・後輩の上下関係をわきまえながらも、野球になれば学年や入学の仕方に関係なく、リスペクトを持って接するスタンス。これは、いい意味で無駄なストレスを感じることなく野球に没頭できるという山本監督の配慮が少なからず影響していることだろう。

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【目次】
1.新しい風
2.エースの座とリスペクト
3.2ポジションから生まれるレギュラー争い

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2ポジションから生まれるレギュラー争い

【外野ノックは他の部活との共用】

「結局、うちは少人数なのでそれぞれに2ポジションという目標もあるんですよ。先発出場できなくても、どこかで試合に出られるように頑張る。だから、練習試合でもできるだけの選手を使うようにしています。ましてや日頃は、こんな感じですからね」

そう話しながら山本監督は狭いグラウンドで練習する選手たちを見つめた。

旧チームでもスタメンに名を連ね、チームの核として活躍したキャプテン佐藤寛晃も中学時代に山本監督の目に留まり、推薦入学した一人である。

「練習試合や先日の選手権(新人戦)でもオーダーが変わったりしていますし、部員は多くないですけど、チーム内でのレギュラー争いは熾烈ですね。誰でも試合に出てミスはあると思うんですけど、その後、切り替たりできる人が試合に強いと思うので、自分もそうですけど、まだみんなそれぞれに自分に甘いところがあると思います」

 そんなことを思いながら、芽生えたキャプテンにとっての姿勢。それは練習でも一切手を抜くことなく、自らが率先して先頭に立ち“競争意識”を高めることを徹底することだった。早朝から行う自主練習に始まり、普段の練習ではフリー打撃のバッティングピッチャーを積極的に務めるなど随所にみられるキャプテンとしての意識は同時に自らのプレー向上という相乗効果にも繋がっている。

「ファーストとセンターの2ポジションを担っている佐藤は、自立心がありますし、努力しているのが伝わってきます。あれ(バッティングピッチャー)をやりだして肩も強くなりましたからね。もともと肩が強い方ではなかったのですけど、先日の試合ではファーストからセンターへポジションを変更した際にセンターからホームにいい球を投げて、走者を刺しましたからね」(山本監督)

 その佐藤と一塁手のポジションを争うのが、同じく2年生の分藤浩輔である。高い倍率の一般試験を突破し、入学した2年生の分藤は、大分西のすぐそばにある大分大学付属中学の出身。大分西へ入学したキッカケについてこう話した。

【左から佐藤寛晃主将、分藤浩輔】

「自分が中学三年生の時に西高が夏にベスト8、秋にベスト4という結果を残していて、中学と自宅が(大分西の)近くなので学校の帰りとかによく練習風景を見ていて、雰囲気もいいなと思いましたし、憧れみたいものがありました」

昨秋までは捕手であった分藤だが、続く1年生大会の際に一塁手がいなかったことがきっかけとなり、一塁手の練習も始めたという。もちろん、チームの掲げる目標である2ポジションである捕手と一塁手を兼任するが、ともにまだレギュラーというわけではない。

「特に自分は打撃を伸ばしていきたいと思うので、自主練習でティーやマシン打ちなど数をこなしています。」

 早い時は午前6:20から自主練習を行ったり、試合後の空いた時間の有効活用、さらには自宅に帰ってからも自らにスイングを課せるなど黙々と練習を行っている。そんな姿を間近でみているキャプテン佐藤の目には分藤がこう映っている。

「分藤とは、冬とかもそうですし、ずっと一緒に自主練習をしてきました。分藤は1年の時はそんなに打ててなかったのですけど、ひと冬越して試合が始まってから、代打や練習試合の2試合目で先発出場して結果を残していますからね。それと試合や練習でも声がよく出ているし、チームとしての存在もそうですけど、レギュラーになろうっていう気迫が伝わってきます」

 現在、佐藤が正一塁手であるが、さらに分藤が力をつけ、一塁手のレギュラーを奪うことになれば、練習の成果が顕著にみられ肩力がアップした俊足の佐藤がセンターに回ることも考えられるのではないか。そのように大分西は少人数ながらチームとしての厚みを持っているのだ。

 推薦入学者と一般入学者、それぞれ違う方法で大分西野球部の門を叩いたものの、根本にある大分西で野球をやるんだという競争心は同じであり、そういう意識があるからこそ、チームが一つになり同じベクトルを持っている。

「できるだけ穴埋めをして競争意識を高めている」

 山本監督がそう話すように、チーム内で一人2ポジションを目標に掲げるなど、いい意味で少ない部員を有効活用することでレギュラー争いという競争意識を芽生えさせ、そこから生まれるチーム力の安定感が継続しているのだろう。

 無駄なストレスを感じさせずに競争意識を持たせて、チームの底上げを図る。その良質なサイクルを作ったことで、大分西が右肩上がりの成長曲線を描き始めたと言えるのかもしれない。

(文=アストロ

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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