Column

大阪桐蔭高等学校(大阪)

2011.05.27

大森学園高等学校

大阪桐蔭高等学校2011年05月27日

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【目次】
1.様子の違うシートノック
2.夏に勝つための重要な期間
3.一球同心
4.自分が甲子園に行きたいって思っている選手はいない

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様子の違うシートノック

【ランナーをつけて行うシートノック】

 シートノックだというのに、守備陣の危機感といったらいつも通りではない。

 様子の違うシートノック――。

 その理由ははじめから走者が付いているからだ。ゲーム形式のノックなら何度も見たことはあるが、アップ・キャッチボールを終えて始まった最初の練習が実戦さながらなのだから、目指しているものが高いというものである。

大阪桐蔭高。
言わずと知れた全国屈指の強豪校である。西岡剛中村剛也中田翔ら、幾多の逸材を輩出。プロだけではなく、アマチュアを見渡しても、全国の大学の主力選手に、同校出身の選手は多い。

 今春季大阪府大会を3年ぶりに制覇し、08年の全国制覇以来の夏出場を、虎視眈々と狙っているチームである。

 本番まであと1カ月あまり。奈良県と大阪府の県境の山間にある大阪桐蔭グラウンドを訪れると、そこには、この夏に向けて、一層の激しさを増す熱気に充ちていたのである。

「シートノックでランナーをつけるのは1年生が入ってきてからじゃないとできない練習なんですけど、シートノックでもランナーをつけることで、守っている方も落ち着いていられないので、守備の精度が一気に上がるんです。それに、1年生をランナーにすることで、走塁センスを見ることもできます。両方にとって良い練習になるんです」。

 西谷浩一監督である。

 高いレベルでの環境を求め入部してきた選手たちを、高校野球の世界だけで終わらぬよう、選手の意識、技術のレベルを鍛え上げている。

 もっとも、これから夏までの時期というのは、大阪桐蔭にとっても、非常に重要な時期に突入する、と西谷監督は力説する。

「来週から6月の3週目までが強化練習に入ります。生徒らにとっては『追い込み練習』と捉えるものです。技術練習も大事ですが、トレーニングをたくさん入れていきますので、最後の下仕込みの時間ということになります。ここを乗り越えて夏に挑む。実戦もありますので、メンバー選考もある。選手たちにとって苦しい時期。近畿大会を一生懸命に戦いながら、仕上げていきたいと思っています」。

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【目次】
1.様子の違うシートノック
2.夏に勝つための重要な期間
3.一球同心
4.自分が甲子園に行きたいって思っている選手はいない

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夏に勝つための重要な期間

【チームをひとつにするということ】

 当然、選手たちも意識して練習に取り組んでいる。指揮官の通達を受け、モチベーションが高い。主将の広畑は言う。

「ここからは夏に勝つための重要な期間だと思っています。キツイ練習を乗り越えていかないといけない。まだまだ技術的にも精神的にも足りない部分が多いので、夏までに鍛えていきたい。夏の大会を迎えた時に、不安を感じないように、徹底的に練習して自信を持って入りたいと思います」。

 とはいえ、技術力を高め、またメンバーの絞り込みをするなどサバイバルは激しさを増すが、かといって夏のベンチに入る18人を決めるために、この期間があるわけではない。より高いレベルを目指しながらも、チームを一つにするということを大阪桐蔭は重視している。

 西谷監督は「一球同心」という部訓を掲げ、選手らにあることを告げるのだという。

「ある時期が来たら、選手たちにいうんです。『今日の時点である程度メンバーを絞ってやっていこうと思う。それで自分で納得いかない。自分がエースだと思っていても、チームとしてエースじゃないと言われて、それで一生懸命できないのなら、明日からグラウンドに入らないでほしい。覚悟を決めてくれ。3年生を優先するとか、2年生優先するとか、1年生を使わないとか、キャプテンであるとか、4番であるとかは考えていない。

縁起の悪い話だけど、例えば、指を詰めて骨折することもあるかもしれない。それは中田翔であっても、メンバーに入れない』とね。明日、自分が外れたとして、一生懸命にできないならば、グラウンドに入れない、その覚悟で臨んでほしいのです。全員で戦うスタイルでやりたい。うちはみんなで生活していますし、ほとんどの選手が寮にいるので、全員で戦い抜きたいという想いがある。大げさに言うと勝利より大事にしていることです」

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【目次】
1.様子の違うシートノック
2.夏に勝つための重要な期間
3.一球同心
4.自分が甲子園に行きたいって思っている選手はいない

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一球同心

【試合シーン・大阪桐蔭】

 そもそも、大阪桐蔭が「一球同心」をチームのスタイルとして取り入れたのはあるキッカケから始まっている。部訓は前監督の長澤和雄から受け継いだものだが、01年、岩田稔(阪神)、中村剛也を擁した史上最強チームで、転機は訪れた。

 当時、大阪桐蔭は夏の大会のメンバー発表があると、選手が寮を出るという決まりになっていた。全員が寮生ではなく通いの生徒もいたからだが、メンバー発表のあとの日曜日になると寮を出た。

 なぜなら、メンバーに入った選手が通いの生徒も含めて、寮に入っていたからだ。メンバーに漏れて、気の抜けている選手が寮にいるよりも、最後は一つの集団にしたいという前監督の方針だった。当時、監督に就任して3年目だった西谷も、その流れを受け継いでいたのだ。

 それが、中村や岩田の代の主将・乙須があるとき、西谷に進言しに来たのだという。

 西谷は回想する。

 「全員が寝静まった後、乙須が僕のところにやってきて、こう言ったんです。『メンバー発表が終わった後も、3年生全員を寮に残してほしい』と。僕は嬉しかったんですけど、なんでや?と聞き返した。すると乙須は『一球同心って監督は言っているのに、ここで、メンバー外の3年生が寮を出たら、お互いに溝ができる。一球同心って言っていることが本物にならないと思います』と言ってきたんです。僕は、嬉しかったですね。選手らが「一球同心」の意味が理解してくれたんやなって」

 チームが一つになるためと、西谷監督は乙須の意見を聞き入れた。結果的には、大阪大会準優勝で終えたチームだが、西谷監督にとっては、このチームで得たものは大きかったという。

 この世代からチームの伝統が息づいた。今はほぼ全員が寮生だから、先述したようなしきたりがないが、メンバー発表の翌日になると、メンバー外の3年生が必ず西谷監督のもとへやってくるという。バッティングピッチャーや大会中での他校の偵察に行きたいと、協力を惜しまない覚悟でグラウンドにやってくるのだ。西谷は言う。

「実際のところ、監督の方からメンバー外の選手に『偵察に行ってくれ』とは言い難いものです。でも、実際は2年生が行くより3年生が行ってくれる方が良いに決まっている。3年生の方が野球を知っていますからね。今は、それを率先してやってくれる。メンバー発表の翌日になったら、メンバー外の3年生が「何かの力になりたいので、手伝わせてくれ」と言ってくれる。これは、ウチのチームとして、誇れるところです」。

 メンバー外に頑張られることほど力になるものはない。メンバーからすれば、気を抜けたものじゃないからだ。メンバーは外れたものの気持ちを胸にプレーし、チームは一つになるのだ。

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1.様子の違うシートノック
2.夏に勝つための重要な期間
3.一球同心
4.自分が甲子園に行きたいって思っている選手はいない

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自分が甲子園に行きたいって思っている選手はいない

【メンバー外を甲子園に連れて行きたい、という気持ち】

 07年夏の決勝戦で敗れた時、主砲だった中田翔はスタンドに向かって「ごめん」と涙を抑えきれなかった。08年に全国制覇を果たした際には、2回戦・金沢戦の8回裏、2死から起死回生の同点の本塁打を放った浅村栄斗は「メンバー外が偵察に行ってくれて、その分析を頭に入れていたから、打てたホームラン」と話したほどである。

「メンバーの中に、自分が甲子園に行きたいって思っている選手はいないんですね。メンバー外を甲子園に連れて行きたいと、そう思ってプレーしてくれている」

と西谷監督は胸を張る。

 選手はどう感じているのかも話してくれた。昨夏のメンバーだった広畑は言う。

「昨年の3年生の方々はチームのために偵察とかに行ってくれたりして、腐ることなく、メンバーのために何でも率先してやってくれていました。僕にとっては、すごく力強い支えでした。3年生がそういう風にしてくれているんで、自分たちが頑張らないといけない想いでいました」

 大阪桐蔭は創部してまだ30年ほどと、歴史が深いチームではない。だが、『一球同心』という言葉は急速にチームを結束させ、今となっては「唯一、伝統として誇れるところ」(西谷監督)というほどまでに、チームを成長させてきてきた。

【大阪桐蔭ナイン】

「ひとつひとつの字は簡単な漢字ですけど、奥が深い言葉。僕は好きですね。一つのボールにみんなで、同じ想いになれるかっていったら、レギュラーとか、けが人とか、色々あるので難しいんとは思いますが、そうなれた時は本物になれる時だと思う。勝ってまとまるんじゃなくて、みんなでまとまって勝ちたい。それが究極の目標。勝敗を度返しして、勝つにも、負けるにも、みんなで泣ける。チームを一丸となって戦えるチームを作りたいんです」と西谷監督は言葉に力を込める。

 もう、間もなくすれば強化練習を経て、メンバー発表の時期がやってくる。大阪桐蔭に限らず、全国の高校球児はピリピリとした空気の中で野球をしなければならなくなる。その中で大阪桐蔭は、今年も、一球同心のもとにチームを一つに結束する。

「僕がメンバー選考を悩んで、悩んで、悩めるチームにして欲しいですね。どうやっても決まらないくらいに、ね。そうなった時は、チームの戦力は上がっているということですから。そして、その次は、メンバーが決まったからには、その18人を先頭にして、どれだけ後ろでスクラム組んで、後押しできるか。とにかく、塊になって戦いたい」と西谷監督は意気込んだ。

 その言葉に呼応するかのように、主将の広畑も、最後の夏へ誓う。

「『一球同心』という、全員が一球に同じ心でやるというのは本当にいいテーマだと思います。ただ単にプレーしているだけじゃ意味がないので、あの言葉を感じながらプレーすれば、本当に良いチームになる」

 大阪桐蔭にとってのこの1カ月のスキルアップは、「一球同心」、この言葉に尽きる。

(文・氏原英明

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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