Column

英明高等学校(香川)

2011.05.04

鹿児島県立志布志高等学校

英明高等学校 2011年05月04日

どこであっても練習はできる!

昨年夏、わずか創部6年目にして香川県大会を制し、初の甲子園でも初戦で八戸工大一に敗れたものの、一度は4点差を追いつく善戦健闘を見せた英明
新興私学ということで、さぞかし立派な施設で練習がなされていると皆さんは想像されることだろう。
ところが、実際の環境は私学どころか、多くの公立校にも劣るもの。
では、彼らはなぜ、そんな中でも甲子園行きを勝ち得ることができたのだろうか?

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内野ダイヤモンドさえ取れないグラウンド

狭いダイヤモンドヘッドを使ってのベースランニング練習

高松市の中心部からバスで西へ約30分、JR予讃本線・国分駅近くの小高い丘に英明高校グラウンドはある。
かつては短大だっただけあって、広々とした校地に点在する体育館や、陸上競技場。

ところが、その広さとは対照的に野球部のグラウンドだけは極端な横長の土地、例えるならばゴルフ練習場と見間違う場所に位置している。
特に縦の狭さは「最初にグラウンドを見せられたときにはびっくりした」と、野球部創設当初から指揮を執る香川智彦監督も苦笑いするほど。

二塁手が定位置で守れないほどの広さでしかないのでは、練習試合はもちろん守備練習も十分にできるはずもない。
正直、これで「結果を出せ」というのは酷すぎる環境なのである。

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発想の転換。「守備練習ができないなら、打ち込もう」

7箇所バッティングでマシンに張り付く選手たち

しかし、過去に寒川丸亀城西観音寺中央で計19年間監督を歴任し、1997年夏には母校・丸亀城西を28年ぶりの甲子園へ導いた香川監督はそれでも前向きだった。
まずはグラウンドの改造に着手。
鳥かごを次々と固定設置し、同時にバッティングマシンをできる限り購入。
グラウンドを「すぐ頭に浮かんだ」バッティングセンターとすることで、打撃に特化したチーム作りを目指した。
よって練習方法も常識の枠を外した。守備と走塁練習については週2回球場を借りて感覚を補う一方で、平日のうち週2回はひたすらバッティング練習。

現在は「トップガン」と呼ばれる超高速マシン1台、カーブマシン2台、ストレートとカーブが交互に出るマシン1台、そしてアームマシン2台の計7台のピッチングマシンを1台5分ずつ2セット、すなわち70分間以上を「インパクトの時にストップをかけて、そこから外へ出すイメージを作って、ノーバウンドでネットに当てる打球を目指す」(香川監督)打ち込みにあてている。

「中学時代のバッティング練習は手投げとマシン1台だけだったので最初はやり方に驚いたけど、カーブマシンは逆方向、インコースはレフトへ打つように考えてバッティングの力が付いてきました」
と話すのは167センチ・71キロの小兵ながら昨夏甲子園で3安打を放った西岡勇魚(3年)。
昨夏県大会新記録の5試合54得点、71安打を記録した背景には、ハンデを逆手に取った豊富な打ち込みがあったのだ。

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英明式練習法の究極は「自転車置き場」

コンクリートが先に詰まった金属バット

このように狭いグラウンドを活用している他に、グラウンド周りでの練習が多いのも英明の特徴だ。

スタミナ強化は地形を利用した坂道ダッシュやクロスカントリー。遠投と外野ノックは陸上競技場。ブルペンはテニスコートの一角を改造。雨が降れば補強運動は体育館内といった具合。

今春、飛躍的成長を遂げている193センチエース左腕の松本竜也(3年)も「坂道を走り続けて、2.5キロの鉄球を握ったことがスタミナと指先の強化につながりました」と、その効果があったことを強調している。また、練習用具にも指揮官の一味違ったアイディアが添えられている。

一例をあげれば往復1時間のバス移動時は金属バットをカットし、先にコンクリートを詰めた「コン棒」なる器具で、インパクトの際に大事なリストとひじ周囲の筋力を強化。
高校通算48本塁打を誇る4番・中内大登(3年)は軽々とコン棒を上下に動かして見せたが、実際に持ってみるとすぐにひじが張ってしまうほどのハードなもの。
場所と時間を効率的に使って最大の効果をあげる。これも「英明式練習」の一端なのだ。

自転車の間をぬってダッシュ

さらにその究極は、実はグラウンドではなく学校にあった。
16時の練習開始と同時に降り始めた雨が激しくなったため、1時間ほど後に学校に戻ることになったこの日の練習。
「どうぞ見て行ってください」と学校に到着してすぐ香川監督に案内されたのは・・・なんと自転車置き場であった。

ところが手際よく選手たちが自転車をどけ、ネットを張り、マットを敷くと、そこは立派なトスバッティング場に。
早速、様々な形でトスバッティングを続ける選手の横では、ダッシュを繰り返す選手、そして投球フォームを確認しながらストレッチを繰り返す投手陣。

この瞬間、狭い自転車置き場は間違いなく「室内練習場」と化していたのである。

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工夫と考え方でどこでも練習はできる!

内野のダイヤモンドも十分に取れない英明グラウン

こうして1時間あまり続いた自転車置き場での練習を厳しい目で見つめていた香川監督は言う。
「週3回は朝に10m四方の人工芝を敷いた校舎屋上でテニスボールを使ってノックしていますし、ウチはあらゆるところで練習していますよ。だから、やろうと思ったらどこでも練習はできるんです」。

一方の選手たちも「響きがいいので、捕えているポイントが分かる」と、「自転車置き場トスバッティング」の利点を話す主将の田中玲(3年)を筆頭にこの状況をハンデと思っている様子は微塵もない。

確かに自転車を目標物にすれば飛ばす方向も決まるし、これも考えようによればむしろ効果的な練習ではないだろうか。

こうして取材日も学校の部活活動規定に倣い、19時半には片付けを始め、20時には帰宅の途に着いた英明の選手たち。
そして元の自転車置き場へ返った屋内スペースは「ここからだって甲子園にいけるんだよ」と無言のうちに私たちへのメッセージを送ってくれていた。

(文=寺下 友徳)

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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